4-2 天使は友人であり恋人であり家族であり……人間を不要とするものだ
「ふう……」
先日までカスハラを行っていた老人は、自身が撮影した写真を見ながら満足そうにため息をついていた。
「フフ、ご主人様ったらため息ついて、どうされたんですか?」
それをほほえましそうに見つめるのが天使『ラファ』だ。
彼女は矢絣の服と袴、足元まで伸びる長い黒髪という、いかにも『大正ロマン』と言わんばかりの格好をしている。
この老人の年齢的には大正ロマンの服装は世代ではない。
だが、彼自身の好みを反映したのだろう。
老人はラファに答える。
「昨日お前と行った紅葉狩りを思い出してな」
「ご主人様ったら、すっかり写真が趣味になりましたね」
そういわれて、老人は一枚の写真をラファに差し出した。
真っ赤に色づいた紅葉の下でラファが上品に佇んでいる。
被写体がいいのだろう、それはまるで古き良き大正時代のワンシーンを切り取ったような美しさがあった。
「ああ、お前が親切に写真の撮り方を教えてくれたおかげだな」
「それは良かったです」
無論、この老人は昔から写真撮影が趣味だったわけではない。
寧ろ彼は無趣味であり、妻を失ってから家でやることがなかった。そのこともあり、孤独を紛らわすために店長に対してカスハラ(本人は指導のつもりだったのだが)を繰り返していたところ、天使ラファに止められたのが二人の出会いのきっかけだ。
それ以降ラファは彼のもとにハウスキーパー兼話し相手として、一緒に暮らしている。無論、『居候』という立場をとっているため給料を取るようなこともしていない。
……つまり、老人にとって天使ラファは『自分にとって100%都合のいい孫』ともいえる。
「ありがとうな、ラファ。お前のおかげで昔に戻ったようだよ」
天使ラファはそういわれて、嬉しそうに笑う。
「フフフ、なら良かったです。……ご主人様、他に欲しいものはありますか?」
「いや……今のワシは、この健康な体と……お前がいてくれたらそれで十分だよ、ラファ。他に欲しいものはないな」
そういわれた老人は、天使ラファの頭を撫でながら答える。
……通常、他者から頭を撫でられるのは苦痛でしかないのだが、彼女はそれをまるで『信頼する父に褒められた時の娘』のような表情でそれを受け入れる。
「えへへ、ありがとうございます、ご主人様! けど、いいんですか? 他のお友達を作ったり、スポーツをしたりとか、新しい再婚相手を見つけたりとかは考えないのでしょうか?」
だが、老人は首を振る。
「ハハハ。お前さえいてくれたら、恋人も友人も必要とは思わんな。これからもよろしくな、ラファ」
そして天使ラファは嬉しそうに答える。
「ええ。宜しくお願いします、ご主人様。……人類よ、永劫たれ!」