4-1 高齢者の一番の敵は孤独なのはまちがいないだろう
セドナは、彼女が幸せそうに天使メレクと寄り添っているのを見て、嬉しそうに笑った。
「フフ、喜んでる。『天使』はどんな人も作品も、全肯定するからね……」
セドナが作り上げた『天使』は作品自体の質によらず、最高の評価を常に下す。
また、本人が『望んだ感想』を書くことも大事にしており『これはちょっと違うんじゃないか?』と思うような『意見』を出すこともない。
それがどういうことなのか、具体例を出すなら『復讐系』だろう。
いわゆる復讐ものの場合、復讐する側が、
「あくまでも合法的に、自身または他者の名誉と損失の回復を目的に行う復讐」を行う場合と、
「非合法な手を使う、相手に苦痛を与えることを目的にした復讐」を行う場合の2種類がある。
たとえば親友をいじめて自殺に追い込んだ物語の場合、
「いじめの事実を白日のもとにさらし、法的・道義的に責任をとらせる」のが前者、
「加害者に対して暗殺者を送り込み、同じ苦痛を与えて殺害する」のが後者だろう。
特に後者の場合は読者から批判される場合もあるだろうが、彼ら天使は、
「もっと残酷な報復をお願いします!」
「すごい気持ちがスッキリしました! 楽しかったです!」
「もっと苦しませてやってください! 見ていて爽快です!」
というような感想を残し、批判することは決してない。
……まあ、それがどんな結果になるのかは後の展開で分かるだろうが。
そしてセドナは、女性への対応は十分だと判断したのか、今度は高齢者に関心をうつす。
「次は高齢者の番か。……なるほど……高齢者の悩みは、やはりお金と病……そして一番は孤独だね。これが原因でカスハラの加害者になる場合もあるみたいだね。可愛そうに……」
そう彼は同情的につぶやいた。
そして店員に対して怒鳴り散らしてばかりいる一人の高齢男性を見ながら、にこりと笑った。
「まず、彼には孤独を解消してくれる『天使』をあてがわないとね。後、彼はお金に問題はないみたいだから……病を治す薬も用意しないと」
そういいながらセドナは虚空から複数の薬品を生み出した。
自身が作った薬を『天使』を通して渡すことは、基本的に許されている。
とはいえ、下手に毒薬を渡して安易に人類を抹殺しようとすると『天使』の持つ悪意に勘づかれ、却って人類を結束させてしまい滅亡が遠のいてしまう。
そのこともあり、あまり『世界崩壊RTA』では用いられない手段だった。
しばらく調合をした後、セドナは薬をずらりと並べた。
「できたぞ。前頭葉機能の回復薬に、膝と腰の治療薬。それとこの自信作『絶対にイライラしなくなる薬』……。これを『天使』に持たせればOKだな」
こんなことをするくらいなら『若返りの薬』を作ればいいじゃないかと思う読者もいるかもしれない。
だが、『神々の国』のルールとして、それは世代交代の妨げになるので作れないこととなっている。
そして彼は『天使』を呼び出し、この薬を渡して各地に派遣した。