後編
偶然にも出会いの機会が訪れる。
お互い疲れていたようだが昔のように演奏をすると
どんどん昔の楽しい日々がよみがえり
心なしか体までもが若返っていくようだった。
お互い楽しく何時間でも演奏できそうな気がした。
そして思い出す。
「あ、そういえばあのお店のあのバイオリンどうなったんだろう」
彼女は聞くなり演奏をやめ物思いにふけっていた。
数年が経ちそのお店も存在しているかわからなかったが
行ってみようということになった。
トンボ橋までやってきた。
あいかわらず古びたいい橋だなと思った。
懐かしい、あの頃が鮮明によみがえってくるようだ。
トンボ橋を超え暗い路地へと足を速めた。
・・・あった・・・。
二人はドキドキした。
ほぼ昔と変わらない風貌に見入っていた。
よく残っていたなと・・・。
中はどうなっているのだろう、二人は興味深深だった。
中に入るとやはりガラスのショーケースが所狭しとならんでいた。
店内も変わらずそんなに暗くもなかった。
だが少し寂れた感じだ。
ショーケースの中もほとんどガランとしている。
店主に聞くともうそろそろ店じまいするということだった。
しかも記憶に間違いなければ店主が変わってる。
どうりで残った骨董品たちは寂しそうな顔をしていると二人は思った。
でもそんなことは二人はどうでもよかった。
気になっているのはアレはどうなったのかということだけだった。
そしてあの時のあの場所まで立ち恐る恐るしゃがみこんだ・・・。
・・・。
あった・・・。
二人は心の中で同時に思った。
まさにあの時の振る舞い、立ち位置で立派に並んでいた。
それにやけに綺麗だ。
店主に聞くとやはり店主にとってもこれは他の商品と異なるようで
大事にしていたらしい。
彼女はずっと見入っていた。
子供のころ欲しかったものが今ここに
未だに輝きを放って在るのだから
今一度あえて言ってみた。
譲っていただけないかと。
多分彼女は言えないだろうと思った。
だから言ってみた。
すると今なら格安で譲るということだった。
彼女はとても喜んでいた。
ショーケスから取り出すと彼女は自分の赤子のように
大事に優しく抱いていた。
何故格安で?店主に聞いてみた。
前の店主はやはりそのバイオリンは特別な存在で
生きる糧だったようだ。
そのバイオリンと共に生きてきた、
とても大切なものだった。
だからこそあれだけ綺麗だったのだ。
だがいつの日か挫折し骨董屋を開いたらしい。
ショーケースに飾り誰もが欲しがったらしいがあえて売らなかったようだ。
本当に音楽が好きな、愛している人に渡したかったようだ。
そしてある女性に渡していればよかったと後悔もしていたらしい。
あるギターとバイオリンを持った男女にと・・・。
その時の女性がバイオリンをみる眼差しは自分の赤子を見るような
眼差しだったらしい。
彼女になら譲ってもいいと思っていたらしいが
心とは裏腹にやはりあげられなかった。
そしてつい最近病気がちになり店主を入れ替わったということだった。
病室でいつもそのことを言っていたらしい。
だがやっと新しい主人の下に行かせてあげられる。
きっと前の店主は喜ぶだろう。
自分は年をとり、もう夢を追うことは出来ないけれど
バイオリン、あなたは新しい主人と一緒に
また新しい夢を追うことが出来るのだと・・・。
前の主人によろしくお伝えくださいと伝え
二人は店をあとにした。
彼女は目を閉じ物思いにふけっているようだった。
だが突然走り出した。
きっと喜びのあまり彼女をそうさせたのだろう。
今ならまた二人で夢を追えるかもしれない。
いや、今だからこそできるかもしれない。
そう思うと心の底から喜びが湧きあがる。
あ・・・彼女どこまで走ってるんだ 汗
考えてる場合じゃないぞ、追いかけなきゃな。
急いで彼女を追った。
地上を出ると綺麗な夕日で周りの木達が
オレンジ色に染まっていた。
そして綺麗な音色が響き渡っていた。
それは今まで聴いたことないようでいて
懐かしく暖かい音色だった。
聴いているだけで心の底から幸せになれる音色だった。
きっと演奏している人は今幸せなのだろうと思った。
どこからだろうと音を頼りに歩み寄る。
・・・トンボ橋で彼女は弾いていた。
ふぅー、ため息をつくと俺もギターでそのメロディーに加わった。
またここから二人の旅が始まるのだと・・・。




