天使がいない日々
2012年冬。俺は怜奈の葬式に来ていた。怜奈の友人のほのかと再会する。すると、俺に話しかけてきた女性は「鈴木莉子」と名乗る。
「突然、すいません。ほのかちゃんの友達の鈴木莉子です。大石一茂君ですか?」と莉子は俺にメッセージを残してきた。
怜奈への弔辞を読んだ俺は泣いていた。ほのかと夏帆とは別れを告げ、俺は仕事に取り組むことになった。
俺はスーツのポケットに小さな紙が一枚入っているのに気付く。莉子からの伝言で「後日でいいので、『雪の天使』に来てください」と書かれていた。
休日に俺は車で「雪の天使」へ向かい、ドアを開けると、莉子がいた。
「大石君だよね。実は同い年だって知らなかったから。」
「俺は大石一茂。」
莉子は、怜奈の友人で、俺に隠していた。怜奈はなぜ莉子の存在を俺に隠していたのか真相を知らないままでいた。
莉子は怜奈が俺に隠していたことを知っており、その話をする。
「大石君に隠していたのは、あんまり男性と話すのが怖くて」
「俺はどうなのか?」
「大石君なら安心できるかなって思っていた。怜奈ちゃんから大石君の話が出てね。莉子も大石君に会いたいと思ったわ」
「怜奈ちゃん、莉子ちゃんのために隠していたのか」
「高校時代にいじめ集団の男子に蹴られて、それ以来、怜奈ちゃん達といたの」
「そうだったのか。莉子ちゃんも同じ高校だったとはな」
「うん。いたのは確かなんだけど、大石君の存在は知らなかった」
すると、黒いセーターを着た遥が何かを持ってきて、俺に手招きした。
「怜奈ちゃんがここを辞める時、大石君に残したものがあって、ずっと持っていたんだけど。」
「俺に残したものって?」
「とりあえず、開けてくれる?」
戸惑いながら、俺は怜奈が残した一つの箱を開けることにした。すると、その中身は一枚の手紙と怜奈によく似た人形だった。手紙にこう書いてあった。
「大石君へ
大石君が読んでいる時はもう、あたしは天使に舞い戻っているかもね。大石君に初めて会ったときは怖いと思ったけど、あの時、火事であたしを助けてくれてありがとう。大石君はあたしにとってヒーローです。」と書かれていた。
俺は涙で滲んで何も読めなかった。その人形は怜奈によく似ていた。
「大石君、怜奈ちゃんは本当に好きだったのよ。いつも、仕事の休憩に話してくれた。大石君はヒーローだって」
俺はあの時を思い出していた。火事で怜奈が家にいた時の事。俺は犠牲になり、勇敢な立ち向かいをしたという事。
遥は怜奈が店を辞めるあの日の話をしてくれた。俺は泣きそうだった。
「遥ちゃん、もしね、ここに大石君が来たら、これを渡して」と言ったことでは、なぜ辞めたのかも教えてくれた。それは怜奈が余命3年を持っていて、仕事では座る作業で疲労が走ったという。店長の遥は怜奈の体調をうかがいながらも莉子や里帆とくるみには話せなかったという。
俺、莉子と遥香が話していると、店に入ってきたのは里帆とくるみだった。
「大石君!」
「大石君!」
俺は里帆とくるみに呼ばれていた。泣いた里帆は俺を抱きしめてきた。
「マジかよ」
俺は怜奈以外の女性に抱かれたのは初めてだった。里帆は泣いていた。くるみも泣いていて、俺を心配だったと言っていた。
「大石君はかっこいいよ!本当のヒーローだと思っていた。あの時、火事で家にいた怜奈ちゃんを助けたこと。忘れないよ!」と莉子は泣きながら言った。
俺はあの時、感謝状を授与された。俺は地元のヒーローと呼ばれていた。俺は涙もろい男で、弱虫だ。そんな俺が世界で愛した怜奈を助けた。まさか、その話が久しぶりに出るとまた莉子たちを守ろうと考えた。
「俺はまた『地元のヒーロー』なる!」
宣言した俺は莉子たちがまた泣いた。莉子は俺になぜかキスしてきた。
あの日は俺にまた天使が舞い降りた一日だった。