無職エージェント
トラッシュシュタット。そこは足を踏み入れたり、映像で見ないと分からない過酷な地域。もはや人の住む場所ではない。ホームレス達は隅へ、また隅へ、さらに隅へ追いやられる。そこがトラッシュシュタットだ。今日もニコラスはそこで生活するが突発的にアイデアを出す。
「無職エージェントって、転職エージェントとかと何が違うんだ。」
ジェームズはニコラスに聞く。
「エージェントは何となくつけた名前だ。」
無職エージェントの設立を彼は決心した。
「具体的に何をする組織なんだ?それに何でそんなのが思いついたんだ?」
「だって許せないだろ。可笑しいだろ。ホームレスを虫けらのように扱う国家なんて。だから考えたんだよ。俺の作戦は中流階級や上流階級にたくさんの失業者を出して、国家を麻痺させること。」
「麻痺させてどうする?恩恵を受け過ぎて育った人間達は急な路上生活で生き残れるわけが無い。大体はお金がある連中だから、失業した所で困らないだろ。ヒモ男のお前まで国家は取り締まらないんだから。」
「それならお金が無くなるようなやめ方をさせれば良い。」
「ハミルトンにどれだけの上流階級や中流階級がいるのか分かってるのか?外国人の裕福な移民だってハミルトンに暮らしてるんだぞ。」
「アイデアは無謀だろうけど、そんな悲観的にならなくても良いだろ。」
「エドワード。」
オランウータンのエドワードが話に入る。
「無職エージェントの仕事はターゲットの失業状態を長引かせるんだよ。そこがポイントだ。」
「好きにやらせたら良い。」
「俺が社長で、ジェームズ、お前がナンバーツーだ。」
ジェームズは野良犬を撫でる。
「勝手に決めるなよ。協力するとは言ってないだろ。」
「俺の役目は?」
「エドワードは無職エージェントのシンボルになって貰う。」
「何だよ。もっと面白い役があると思ったのに。」
「だって、人間以外の動物はこの地域を出入り出来ないだぞ。活動はトラッシュシュタットの外だ。」
「はいはい、分かったよ。だけど特殊な電磁波さえ何とかなれば俺達オランウータンや野良犬や野良猫やカラスや人間に害を加えると見なされた生物は脱出出来るけどな。」
ジェームズや他の数人のホームレスは野良犬や鳩やカラスを手なづけている。ジェームズと仲良くなったニコラスは動物や虫や爬虫類や虫などが警戒しなくなった。
「電気をくれ!」
「俺が充電する番だ。」
廃棄品のロボット達が電気の取り合いをした。 「お前ら!順番を守るんだ。」
ジェームズは人間に廃棄品扱いされて心が病んだロボットからも慕われている。
「ロボット犬もいるのか。」
子供達のおもちゃロボットも新しいモデルが出る度に捨てられては、トラッシュシュタットに送られる。
「お前可愛いな。」
ニコラスがロボット犬を撫でる。
「METAと言うモデルのロボット犬だ。5年前まで人気のモデルだったけどな。今じゃ違うのが人気だ。」
流行の度に物はどんどんゴミになる。
「名前あるのか知らんけど、落ち込んでるのか?」
ニコラスは落ち込むロボット犬を慰めようとした。
「化石って言葉知ってるか?古い持って新しいものより不便で価値が無いって言われてるけど歴史という素晴らしい物があるじゃないか!METAというモデルだって当時の歴史を表す重要な存在だぞ。今のロボットに分からない歴史を知ってるんだ。実際にその歴史を映像じゃなくて目で見て、その時の空気を感じたんだ。素晴らしい事じゃないか。」
他のロボット達も話を聞く。
「私は地球人がへヴェルに移住する前から存在するロボットだ。人間の思うようにいかずに捨てられたんだ。」
「この国がどのように作られたか知ってるのか?」
ロボットは過去の記録を分析した。
「データはありませんでした。」
ゴミの業者がトラッシュシュタットに行き来する為、過去のデータは全て消去された。
「クソッ、手がかりがつかめねーじゃん。それよりお前名前は?俺はニコラスって言うけど。」
「俺はマクシュムだ。」
「よろしくな。マクシュム。」
ニコラスとマクシュムは握手をした。
「うわー、痺れる。」
電流が走り、感電した。
「今後は握手はNGなようだな。」
「俺がNGにしたわけじゃない。俺のボディーが不調なんだ。」
「早速だけど、マクシュム一緒にここを出ようぜ。」
「それは無理だ。」
ジェームズが遠くから答えた。
「どうしてなんだ。」
ニコラスが彼に近づく。
「トラッシュシュタットが故郷だってプログラミングされているからだ。」
「相変わらず、やり方が汚いな。」
ルーダリアの政府は人間だけではなく、AIもたくさん管理していた。
「マクシュム、廃棄される前の職業は?」
「データが存在しません。」
「ここで生きて来た記憶しか無いのか。」
「そのようだな。」
「それで、お前が無職エージェントのナンバーツーだ。よろしくな。」
「付き合うのは今回だけだからな。」
「報酬はマッサージだ。プロのマッサージ師の女から教えて貰ったんだよ。彼女にも一時期養って貰ってたんだ。」
「マッサージか悪くないな。流石多くの女を魅了するプロのヒモ男だな。」
「あとは料理を作りたいが、こんな所では作れないな。」
「こんなに集まって何の騒ぎ?」
二人の女性がニコラスのもとに近づく。
「作戦会議さ。君達は?」
「彼はニコラスだ。複数の女のヒモ男として10年間養って貰ってたけど最近になって女遊びがバレて部屋を追い出されて路上生活者になった男だ。人としては悪いやつでは無いから仲良くしてやってくれ。」
女性の二人組はニコラスを見て笑う。
「私はミアよ。」
「私はカルラよ。」
ミアは29歳、カルラは27歳だ。また他の男性も近づく。
「噂の新入りか?」
「そうだ。ニコラスって奴だ。」
「俺はアランだ。よろしくな。ニコラス。」
ニコラスとアランは握手をした。アランは35歳。ジェームズより一つ年上だ。
「あんた達何の話をしてたの?凄い面白そうな話なんじゃない?」
「そこのやつがぶっ飛んだアイデアを提案したんだ。」
「無職エージェントを設立するんだ。」
「無職エージェント?」
「人を無職にする為の組織さ。代表は俺で、ジェームズはナンバーツーだ。」
ジェームズはニコラスの肩に手を置く。
「しょうがなくつき合ってるだけだからな。あんまり信用しすぎるなよ。」
「裏切った時はその時に考える。」
「もっと話を聞かせてくれるかしら?」
「つい最近ホームレスになって気がついたことがあるんだ。ルーダリアと言う国は便利で平和な社会だと思ってたけど、立場が変わると一気に闇が深い社会だって気がついた。特に何も関係ない奴がホームレスと言う理由で虫けらのように扱うのが許せなかった。だからたくさんの上流階級や中流階級を無職にして国家を麻痺させることが目的だ。」
「国家を麻痺してどうするわけ?」
「政府は一気に色んなことの対応に追われる。余裕がなくなると、恐怖政治の矛盾と限界にたどり着く。恐怖で支配するやり方には限界がある。」
「何だかよく分からないけどあんたの活動に協力するわ。いざという時、武器ならたくさん使いこなせるわ。」
カルラは拳銃マニアで、20歳の時自ら軍隊に入った。その間に武器の使い方を覚えた。同い年の女性軍人の中で銃を命中するのはトップだった。ちなみにルーダリアでは女性は兵役は強制ではないが、自ら志願する女性もいる。
「実際に戦う機会はあるか分からんがお前を仲間に入れるよ。」
「私も協力するわ。この国の闇を暴くって楽しそうじゃん。」
ミアはテンションが高かった。彼女は手を挙げた。
「ミア、地味なタトゥーしてるな。」
「これは生まれつきよ。遺伝よ。」
「この紋章が生まれつきついてるって、何者なんだ?」
「私に聞かれても。少なくともあんた達と同じ人間よ。呼吸だってするし、感情もある。」
「この紋章がついてる奴ははじめて見たな。」
「そうだろうね。昔から父ちゃんと母ちゃんからはこの紋章を人前で見せるなって言われてたわ。何故か知ら無いけど。肌の色に近いテープを毎日貼ってたわ。この紋章は消すことも出来るけど、高額のお金をかけて私のアイデンティティを捨てようとは思わない。」
「世間でどんな扱いか知りたくも無いけど、その紋章素敵だな。」
「俺も協力する。」
エドワードがやって来た。
「無職エージェントのシンボルはエドワードだ。」
「エドワード、今日も元気?」
「元気すぎて、トラッシュシュタットの外に出たいくらいだ。」
「エドワードがメンバーなら、他にもミッションがある。特殊な電磁波を解除することだ。」
「まずはターゲットを決めることだ。」
「一回街に出ないと分からないな。」
5人で街を出ることになった。エドワードとマクシュムが見送った。
「このままだと駄目だから、シャワー施設に行こう。」
洋服を持って、コインシャワーに行こうとした。まずはシャワーを浴びて一般人に溶け込もうとした。
「お金はあるか?」
「無いな。」
「手をかざしてください。」
機械の言う通りに手をかざす。
「路上生活者の利用は断りします。」
「俺達、機械にもゴミのような扱いかよ。」
シャワー室を壊そうとしたが、頑丈で壊れなかった。
「ゴミの中で見つけた財布にお金が入ってたわ。5人のシャワーくらいのお金はあるわ。他を行ってみよう。」
「キャーー!ホームレスよ!」
5人は走って逃げた。有人シャワー施設に行った。
「5人分、お願いします。」
「ホームレスのお客さんの利用は禁止してるんですよ。」
受付の男女二人組は馬鹿にするような目つきで見た。
「ネズミだ!」
バッグからネズミのおもちゃを投げた。
「キャーー。」
そのすきに5人は鍵を盗んでシャワー室に直行した。
「急いで!」
ニコラスは個室のシャワー室でシャワーを浴びて、着替えた。さらにヒゲを剃った。
「開けなさい!無断利用は許しませんよ。」
カルラはシャワー室を出て、女性を気絶させた。
「急いで。」
「分かってる。」
全員、無事にシャワー浴びて外に出た。
「そう言えば、就職活動する時ムカつく面接官がいたわ。そいつを無職にしてやろう。」
「会社の名前を教えてくれ。」
ニコラスはカルラの提案を受け入れる。