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極地

「こいつら凶暴すぎるだろ。」

野良犬や野良猫がニコラスを睨みつける。

「こいつは虐めたりはしないよ。」

ジェームズが声をかけると一気に大人しくなった。

「外の地域から来た人間には警戒心を抱くんだ。こんな劣悪な環境なら凶暴化するのも無理はないな。」

猿が歩いていた。

「この生き物何なんだ?」

「猿だ。猿を知らないで育ったのか。ここに用がなければ猿と関わる機会なんて無縁だろうな。」

「猿か。猿も人間にとって害があるからこんな所にいるのか?」

「俺の予想だが、ここにいる猿達は元々誰かと共存してたと思う。」

「まあ新入りのホームレスか?」

「猿が喋った!」

猿が喋ったことに驚く。

「ここの猿は喋るんだ。どうしてか分からないけどな。」

「あと猿ってひとまとめにするのはやめろ。俺はオランウータンだ。名前もちゃんとある。エドワードだ。」

「エドワードか。俺はニコラスだ。本当にオランウータンなのか?動物が喋ることってありえない。オランウータン型のAIなんじゃないのか?」

「疑う気持ちは分かるが、私は決して人工知能なんかじゃない。」

「それなら何で言葉が話せるんだよ。」

「今は答える時じゃない。」

「エドワード、何勿体ぶってるんだよ。」

「一つ言えるのはこの国の政府は色んな真実を隠してる。この国だけじゃなくて、この世界で起きたことを。」

「オランウータンって本当に頭が良いんだな。」

ニコラスはオランウータンのエドワードに感心していた。

「ニコラス、それでお前はどう言う経緯でホームレスなんかになったんだ?」

ジェームズが聞く。

「俺は10年以上、女のヒモとして生きてたんだよ。もちろん何回か追い出されたことあるから引っ越しとかもしたな。ついに女遊びしてる事が養ってくれてる女性にバレて、家を追い出されてホームレス生活さ。」

「お前のことをざまあみろと言う目で見る奴もいるだろうな。ここには俺とお前のように手段を選ばず生きて来た奴もいるが、中には本当に社会から理不尽に見放された奴らもいる。」

「その言い方だと、ジェームズは俺のようにヒモだったのか?」

ジェームズは彼の方を振り返る。

「お前のように女遊びに依存するような人間じゃない。」

「依存って、その時を生きてるだけだったから。」

「お前は兵役を逃れてるようだな。」

「それは匿ってもらってたからな。」

「俺もお前のように兵役逃れだ。」

ルーダリアは20歳になると男性は全員兵役を強制される。基本的に2年間の兵役だ。国に貢献する上流階級の人間だけは半年の兵役だ。免除されるケースは障害を抱えたり、怪我をしていて戦闘不能な場合だ。下級階級の場合は一番危険な場所の最前線で戦うことが義務づけられる。ルーダリアは覇権国家で自分の陣営の国が他の国と戦争している場合や内戦で自分の陣営を指示する場合は戦争に加担する。そのために何も知らない下級階級に戦地で戦ってもらう。

「兵役逃れってどこに隠れたんだよ。」

「今俺らがいる最下層のトラッシュシュタットだ。社会に不要と見なされたものが集まる所だ。ウイルスや狂犬病などの病気も蔓延する劣悪な環境だから政府はここに来たくないだろうな。ここに来るのはゴミ回収の業者くらい。ここは政府の監視下には置かれていないから兵役逃れしてるから強制的に引っ張り出されることも無い。ここで生き残れるのはごく僅かだからな。」

「俺より頭を使った人生なんだな。」

「身体は一つしか無いからな。危険な戦地で下級階級の兵士が死んでも国は何もしない。それに報酬を全然得られない。都合の良い駒としか思ってない。報酬が無いことに文句を言えば最悪の場合死刑される。」

「面接でやたら俺に兵役のことを聞いたのは社会的信用のためか。」

ルーダリアに暮らす男性にとって兵役は社会的ステータスだ。兵役逃れしたニコラスは国への忠誠心が無い非国民の扱いだ。兵役証明書が無ければ、就職するのはほぼ難しいことなのだ。

「この山は何なんだ?」

「これか?分解出来ない服の山だ。安い服も高級ブランドの服もあるな。」

燃えるゴミや生ゴミなどはトラッシュシュタットにある焼却場で燃やしているが、分解出来ないゴミは山積みになって放置されている。へヴェルに暮らす多くの地球人達はその事実を知らない。表向きはゴミ一つ無い環境にも優しいクリーンな国家だと宣伝しているが、実態は違う。

「分解出来ないゴミは服だけじゃないようだな。」

ロボットがたくさん歩いていた。

「このロボット達も不要品ってわけか。新しいものが発売されればすぐゴミに出すわけか。」

上流階級の人でもリサイクルショップに売る人達もいるが、何も考えずトラッシュシュタットに送り込む人達もいる。自分達さえ良ければ、後世のことは気にしない。後世に残すのなら自分達が築いてきた名誉だ。

「ジェームズの話やここトラッシュシュタットで独裁国家の闇がどんどんはっきりしてきたな。」

「今日はこれがお前の飯だ。」

セトラルタウンから出た食べ残しを二人は食べた。

「ニコラス、お前どこに行くつもりだ?」

「ここは環境が最悪だからダークマリンにある地下鉄で寝るつもりだ。」

「お前、どうあがいてもここで寝る運命は免れない。」

「最初はここで寝るしか無いと思ってたけど、地下鉄の方がずっと良い。警察にバレないように寝れば良いんだよ。」

「逮捕されても俺は助けられないからな。好きにしろ。」

「心配するな。」

ジェームズとエドワードは去っていくニコラスの後ろ姿を見た。最下層から彼は冒険に出る。

第14区にある地下鉄の駅構内で就寝した。

「痛い。これは何なんだ。」

彼は壁と同化してバレずに寝ようとしたが、床や壁の突起物が刺さり寝れるような状態では無かった。

「今度は川に行くか。」

河川敷の草に紛れて彼は寝ようとした。

「痛い。刺すな。こっちに来るな。」

河川敷には国家が自分達の都合の良いようにミツバチを洗脳して、ホームレスを排除する兵器に変えた。14区は警察の代わりにミツバチを使って路上生活者を川や公園から追い出している。

「この辺、ガキの時ホームレスいたのに。」

ニコラスが子供の時は14区の川沿いのみがトラッシュシュタット以外のホームレスがテントを張って暮らしていた。何度も警察に対して抵抗していたが、半数が街の治安を乱すものとして処刑され、残りは劣悪なトラッシュシュタットでの強制移住を命じられた。国はこの事態の防止の為にミツバチを遺伝子改良して独裁国家に忠誠心を示す生物兵器に変えた。

「花や食べ物になる虫がほとんどいないのに何でこんなにミツバチがいるんだよ。マジで痛い。」

彼は橋に上がると他のホームレスを発見した。

「あんたもホームレスなのか?どこか安全に寝泊まり出来る所知ってるか?」

40代の女性はニコラスを無表情で見る。

「ホームレスって言い方は悪かった。気に障る言い方だったよな。」

女性は何も答えない。

「おい、橋から飛び降りる気か?」

何も答えない。

「やめろ!」

そう言われても無表情で血の気のない雰囲気だった。彼は止めようとした。

「嘘だろ…」

女性は飛び降りて、そのまま亡くなった。

「クソ、助けられなかった…」

大きな音が聞こえたのか数人の人が集まった。

「見て、ホームレスが死んでるよ。」

「本当だ。」

人々は携帯で死んでいるホームレスの様子を撮影した。

「おい、何やってるんだよ!人が一人死んでるんだぞ!」

「あんたこの女の彼氏?ホームレスカップルなんてはじめて見るわ。」

面白そうに撮影する。

「カメラを向けるな。」

洗脳された川に住んでる犬が彼女死体を運ぶ。

「こっちに来るな。」

ニコラスは住民に石をたくさん投げられた。女性の死にショックを受ける。

「もう寝る場所どこにも無いのかよ。」

彼は全速力で14区から19区に向かう。

「早速、出戻りか。お前の暮らせる場所はここしか無いんだよ。」

「人が一人死んだんだぞ。面白いのか?」

「そうなのか?」

「ああ、迫害を受けたであろう女性が自殺したんだよ。」

地面に彼の涙が落ちる。

「これでも使って涙をふけ。ちょっとそこで待ってろ。」

ジェームズはテントから救急箱を取り出した。

「何で救急箱を?」

「この前、珍しくゴミになってたんだよ。」

ジェームズはニコラスを手当した。

「本当にしみる。」

「痛くてもそのまま大人しくしてろ。もうすぐ終わるから。」

手当が終わりニコラスはそのまま就寝した。たとえ劣悪なトラッシュシュタットでも平等に月の光が夜の世界を照らす。

「ニコラス、起きろ、起きろ!」

「何だよ。」

ジェームズとエドワードがニコラスを起こす。

「今日はゴミ収集車がここに来る。ジェームズと収集業者の奴は仲が良いから食料を貰いに行くぞ。」

「オランウータンに起こされる日が来るなんて夜中にはまだ体験出来ないことばかりだな。」

ゴミ収集車が街中に集めたゴミを持って行き、トラッシュシュタットに入る。

「あの運転手はジャスティンだ。」

ジャスティンからたくさんの食料を貰いにホームレスや野良犬などがおしかける。

「順番だぞ。」

監視下に無い所でジャスティンはホームレスに食事を与えている。彼らや彼女達からすれば、英雄のような存在だ。

食事が終わると、ジャスティンはゴミを焼却する。

「これはこうするしか無いか。」

「何持ってるんだ?」

見ると、彼は昨夜自殺した女性の死体を移動に放り投げて捨てた。

「もう俺は帰るからな。」

「待てよ!」

ジェームズは彼を抑える。

「あいつも政府の命令は逆らえないんだ。もちろんそんなこと志願してやってるわけじゃない。」

ニコラスは急いで井戸の方に向かった。すると大量の死体が山積みになっていた。

「うっ…」

彼は思わず吐いた。

「ニコラス、大丈夫か!」

「何で死んでも惨めな扱いを受けなきゃならないんだよ。」

ジェームズは何も言わずに聞いた。

「社会に不要ならゴミと同然なのか?」

彼は悲しみと怒りが頭の中で交差した。そして暴れ出す。

「落ち着け!落ち着け!」

ジェームズはニコラスをテントで休ませる。しばらくしてまた起きる。

「俺、決めたよ。」

ジェームズは彼を見る。

「無職エージェントを設立するよ。」

彼の挑戦がはじまる。

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