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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

その日魔王城は吹き飛んだ。

作者: えたまそ

その日魔王城は吹き飛んだ。


勇者が吹き飛ばしたのだ。


立ちはだかる幹部を倒し、魔王が待つ謁見の間への扉を放置して踵を返した勇者はそのまま魔王城地下へと向かったのだ。


魔王城の地下で勇者はお得意の創造魔法で謎の兵器を造り出した。


「カクバクダン」と言う兵器らしい。


勇者は私ほどの大きさの筒を魔王城の水路の片隅に置くと、ウキウキした様子で「ヨシッ!じゃあみんな帰るぞ!」と言った。


耳を疑った。


最強の魔王がこんな小さい物を城の地下に置いただけで倒せるものかと最初は思った。


魔王城を望む尾根から遠く眺めていてその考えは吹き飛んだ。


遠目でも肌に感じる温度。殴りつける衝撃。降ってくる魔王城だった石材。


今までで一番の…。いや、あそこまでのものは火球魔法だった。


流石に魔王もこれを喰らっては生きてはいまいと思った。


しかし私の考えは甘かった。魔王は生きていた。


生き残ってしまっていた。


後になって生き残った魔王軍の者に話を聞くことができたが、直撃を受けた魔王は深く焼け爛れながらもしっかり生き残っていたらしい。


岩石族すらためらう灼熱の中、魔王は自前の回復魔法で全身の皮膚を治した頃、いきなり喀血したのだそうだ。


回復魔法の効かないダメージ、毒、呪い。すぐに回復術士たちが寄って集って解毒解呪をかけ始めたらしい。


が、それもすぐ続かなくなった。


次々と術士たちが倒れ始めたらしい。一部は魔王と同じく血を吐いて。


決死の覚悟で岩石族と獣人族たちで魔王を爆心地から運び出した頃には手遅れだったらしい。


全身から毛は抜け落ちるし、血やら膿やら体液が染み出しては止まらないという症状だったそうだ。


回復術士が次々毒で倒れる中、魔王は最後の回復術士が死ぬのと同時に苦しんだ果てに死んだらしい。


死体は血液が流れだし切って見るも無残に萎んでいたそうだ。


これを話してくれた獣人族の彼も魔王ほど苛烈ではなかったが、同じ症状で私の目の前で死んだよ。


ついでに言えば魔王の死亡確認に出した司祭にも同じ症状が出ている。


例の「カクバクダン」の毒がまだ現地に残っているらしい。


一体全体どんな魔法が込められていたのやら。あの「カクバクダン」は恐ろしすぎる。この世にふたつとあってはいけない禁忌の代物だ。


旧魔王城領域は盆地全域を対象に禁足地とするように、と降伏した魔王軍代表から対面で「進言」されている。


魔王の遺骸を運び出すのすら難しいとのことだ。


なお、魔王軍のこの後だが…。正直使えたモノじゃないな。「カクバクダン」の炎と毒で主要な戦力は大半が死んでしまった。


今じゃ各地の都市直轄戦力が辛うじて統率を取っているだけでかなりの数が夜盗か野生に戻ってしまっているらしい。


聞いたところによれば開明的だった西方守護が早くに降伏して今はまとめ役として奔走しているそうじゃないか。魔族連合の爾後は彼に期待だな。


有力な鎮南将軍は勇者が例の見えない魔法を出す「杖」で私たちの目の前で八つ裂きにしてしまったし、風のうわさでは東部諸侯のまとめ役も謎の流行り病で九族まとめて墓の下だそうだから彼の独壇場だな。


さて、問題の勇者だ。


アイツは来週あたりに王に謁見の予定だ。


今頃王都北の教会でしっぽりやってるころだろうか。


いや、違うな。あの男は野蛮で低俗で相手をコケにするのが大好きな最低野郎だったが、そういう所は妙に潔癖だったな。


まったく、女神と初代王の契約儀式に則って呼び出した神聖な勇者がなんたる有様だ。


最初は神剣も投げ捨てたんだからとんだ冒涜者だよ彼は。


本当になんなんだ彼は……、いやアレは。


異世界から来たとは言え同じ人間だとは思えないぞ。身体能力はともかくあの思考回路……。人をコケにすることにかけては一級品だ。


そりゃぁ私だって鎮南将軍がカッコよく口上を上げてる間にアレの「杖」で八つ裂きになった瞬間はスっとしたさ。


だがアレは明らかにやりすぎた。「やりすぎ」ではないな、むしろ「異常」、動乱を起こす天才だ。


とある魔族の街があった。


植物系魔族と植物食系の獣人が住んでいた街だ。


そこはもう無くなってしまっているが……、どうやら食う食われるの関係を長く続けた果てにやっと平和に暮らせるようになった街だったらしい。


勇者は可憐な花の姿をした魔族の少女を見つけて街の外で惨殺したんだ。


それも歯形や臭いを創造魔法を使って徹底的に再現して獣人族がやったように見せかけた。


……うん、そう。そのあとは物凄い勢いで燃え上がったさ。


あの惨状は……、もう思い出したくないな……。


魔族とは言え多少なり知性を持つ存在があそこまで……、理性を失えるという様を見せつけられてしまったらね……。


これ程てき面に酷いのは二度となかったが、道中はこうやって破壊工作を繰り返しては少ない労力でたくさんの魔族を殺して見せたのさ彼は。


その手腕は間違いなく「君たち」以上だろう。


え?暗殺はともかく工作は私らの得手だろうって?失敬な。


ともかく魔族を滅ぼすために女神様に遣わされた勇者として非常に、恐ろしく合理的な存在だと私は解釈して道中乗り切ったさ。


………………。


……アレは間違いなく人類にも仇を為す存在だ。


何というかアレの行動原理は私では理解できない類の代物だ。


最初は他人を滅ぼして遊んでるクズかと思っていたがあの妙な熱心さが引っかかる。


なんなら勤勉さと言い換えてもいいなアレは。


さっき言った街を滅ぼした時だってヘラヘラしているようで何か殺気のようなものを感じたよ。


私が言うんだ、間違いない。


前に王前で芸を披露した道化師がいただろう?


失礼な物言いで笑いを取るとんでもない奴だったが、彼も顔はヘラヘラしていたが実際は芸を披露するためにとても真剣だったろう。


アレに近いものを勇者の中に感じた。


アイツは他人を弄ぶ邪悪だが、それはむしろ義務感のようなものからくるものだと。


大方アレを送り込んだのは女神様じゃなくどこかの悪神だろう。


多分勇者召喚の儀式に何か不備があったんじゃないか?


まぁ結論から言おう、今度の謁見で何かやらかすんじゃないかという予感がある。


勇者の旅に最初から最後まで付き合った経験からこれは間違いない。


魔族の次は人類ってワケだ。


と言うことで、ここまで長々付き合ってくれてすまなかったな。


何、君と私との仲だろう。旅の愚痴くらいは聞いてほしいものだ。


さて、お察しの通り「依頼」をしたい。


目標は勇者。


今は教会内部でもてなしがなされている。


なお教会からは第三勇者の遺した「魔剣」が貸与される。


例のなんでも切り裂けるようになる剣だ。


今回の勇者は魔王を殺せる「アタリ」だったが、それ以上に我々に害を成す怪物だったというわけだ。


付帯被害は気にしなくていい。


君の好きなように襲撃をかけて、確実に現勇者を亡き者にしてもらいたい。


今回は勇者の頭蓋と脊椎は努力目標だ。


無傷で手に入れられるなら僥倖だが、まず奴の命を確実に奪って欲しい。


内容は以上だ、ほかに必要な資材があれば私が工面しよう。


良い結果を待っている。











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