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溺愛


───────


静寂の中で、少女の耳に何かが響いた。


「…」


ふとした瞬間に聞こえたその声は、どこかで聞いたことがあるような感覚を抱かせるものだった。




「……る」



お母さんの声だろうか?それともお父さんの声だろうか?少女は名前を呼ばれているような気がした。





「テルル」




ああ、それは私の名前だ。少女の意識が次第にはっきりとしてくるにつれ、その声はますます鮮明に聞こえてきた。




目を開けると眩しい陽の光が眼前に広がって視界が霞む。


辺りはすっかり昼間になっていた。そして、私のそばには離れようとしない人物がいた。




「テル姉サイコォオオオオ!寝てるテル姉も寝起きテル姉も可愛すぎて、天使すぎて、女神すぎる!!!テル姉の柔肌とかも頬摺りしちゃお!!!おおんおおおぉおおん!!」



私の双子の弟であるジェイが、絡みつくように私にくっついていたのだ。




私は「んーー…」と呻いた声を出しながら、這うようにジェイドの絡みついた腕から抜け出そうと試みるが、なかなか彼の引力から解放されなかった。



なかなか引き剥がせないジェイに私は「やっ()…!」と言い放った。


するとジェイドは私の身体からぽとりと剥がれるように落ちた。


四つん這いになってポテポテと進み、私はパタリとうつ伏せになった。




「テル姉ぇえええ!そんなこと言わないでえ!!嫌いになっちゃやだぁあああああ!!!」


と騒ぎ散らかすジェイに対して、私は淡々とした口調で彼が何をしに来たのか尋ねた。


するとジェイは胸を張ってこう応える。



「テル姉に会うために口実なんていらないでしょ!!僕たちは姉弟なんだからさ!!!ありがとう!テル姉が姉でいてくれて!!僕は一生の幸せ者だよ!!!」


そう言いながら、ジェイはデレデレしながら私ににじみよってくる。



私は急にお腹が空いてきて、胃が窮屈な気持ちになった。おそらく私はここで寝ていて食事をしそびれたからだろう。



「ジェイ…お腹すいた」


と私が言うと、ジェイはバスケットに入ったサンドイッチを手に持って現れた。



「はい!!!テル姉のご飯!!!」


と喜んでジェイが言うと彼はせっせと食事の準備を始めた。布のシートを広げてバスケットを中心に置いた。


ジェイは私にお手拭き用のタオルを渡し、食事の準備を整えた。


「テル姉、どうぞ!!」


と私はジェイドにタオルを返すと私は返事をする。


(ありがとう)…」



広げられた布のシートの上には、私のために特別な食事を用意してくれたサンドイッチが並んでいく。


ゆっくりと手を伸ばし、サンドイッチを取り上げると香り高い具材が鼻をくすぐった。


 

「あむ…」と静かに言いながら、私は一口噛みしめた。




私がジェイに「食べないの?」と尋ねると彼はにっこり笑いながら言った。


「これはテル姉の分だから」

と語って愛おしそうに私が食べる様子をじっくりと見つめていた。



私は気にせずに、ひとつ、ふたつとサンドイッチを手に取って口に運ぶ。


ジェイは傍らで満足そうに私の食事を見守って私が食べ終わるまで待っていたがその様子が一変する。


ジェイドは興奮気味に私の食事姿を見て喜び勇んで叫び始めた。


「おおお!テル姉の食べる姿、最高すぎるぅぅぅ!もっともっと食べて!美味しそうに噛んで!テル姉の食欲、俺の魂を揺さぶるぅぅぅ!」


ジェイは昂ぶる。


私がお腹いっぱいになった事をジェイに伝える。


するとジェイはバスケットに残った数個のサンドイッチを見つめた。



私は少し休憩している間に、花を使って何かを作ってあげようかと思い、ジェイドに尋ねるとジェイは片付けをしながら答えた。


「…ジェイ、花冠を作るけど…?それとも指輪、ネックレスたかでもいい…?」



ジェイドは興奮気味に答えました。


「全部頂戴!!!テル姉の作るものなら、どんな形でも嬉しいよ!」


私は「ん…」と返事をした。



彼の熱意に私は笑顔を浮かべながら、花で飾りを作るために周囲の花畑に目を向ける。



テルルは優しい手付きで花を摘んでいきました。そよ風が心地よく吹き抜けて花びらが揺れては舞い落ちる光景が広がる。


一輪一輪、彩り豊かな花を手に取りながらテルルは自然の美しさに感動しながらジェイドのための花冠やアクセサリーを作り始めました。


ジェイドは興味津々の表情でテルルの手元を見つめ、時折花びらが舞い落ちる様子に喜びを隠せずにいた。



ジェイドは喜んで、テルルの手作り花冠を頭に被せられた瞬間に大興奮の声を上げた。



「わぁああああ!テル姉、最高だぁああ!この花冠、めちゃくちゃ可愛いよぉおお!ありがとう、ありがとう!」



ジェイドの興奮冷めやらぬ声に、テルルは微笑みながら喜びを分かち合います。



ジェイドは花冠を誇らしげにかぶって自慢げにまわりに披露します。それに応えるように風が花冠の花びらをそっと揺らし、彩り豊かな姿を輝かせました。


私は次に作るアクセサリーや指輪のデザインを考え始めました。



テルルは一輪の美しい花を摘み取って丁寧に花びらを傷つけないように輪っかを結ぶ、指輪の形を作り上げるために緻密な手つきと熟練した技術が必要でしたがテルルはそれに慣れ親しんでいました。



花びらが優雅に絡み合い、指輪の形が完成する。その指輪は自然の美とテルルの優しさが融合したようなまるで魔法のような輝きを放っていました。



ジェイドは花の指輪を見つめると興味津々の目で近づいてきます。

テルルは指輪をジェイドの指にそっとスライドさせると、優しく揺れる花びらを見つめながら言いました。



「ジェイ、これは私からの贈り物…大切にしてね…」


ジェイドは指にはめられた花の指輪を見つめ、心躍るような笑顔で叫びました。


「わああああっ!テル姉!これ最高!!最高の指輪だよ!感激すぎて死んじゃうぅぅぅ!!ありがとう、テル姉!最高の姉だぁぁぁああ!!」


ジェイドの声は花畑に響き渡り、喜びに震えたのであった。






しかし、テルルから貰った花のアクセサリは数日の間だけ美しさを保ちました。




しばらくすると花びらはしぼんでいき色褪せていく様子が見受けられました。それでもジェイドは大切に手元に置いて思い出として愛おしく思いました。




「テル姉、この花のアクセサリはいつかまた新しい花で作り直してね。それまで大切にしまっておこう。」




ジェイドの言葉にテルルは微笑みながら頷きました。





花の美しさが散り逝くことを受け入れつつも新たな出会いと喜びを楽しみにしていました。

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