父と娘
少女は花を数本だけ手に持って花畑を駆け抜けながら自宅へと帰っていった。
森の中を軽やかな足取りで歩き、青々と茂る木々の間を進んでいく。その途中で彼女は日陰に座る父親を見つけた。
父親は疲れた表情で休んでおり、少女は嬉しそうな笑顔を浮かべながら近付いていった。父親の姿を見つけた瞬間、彼女の心は温かな幸せで満たされて父親との距離を詰めるための一層の元気を得たようだった。
父親の目が娘である少女に注がれると嬉しそうな笑顔が彼の顔に浮かんだ。
少女は父親の手の届く距離まで近づくと、緩んだ頬が父親に向けられ、花畑での出来事を報告するように話し始めた。「お父さん、ねえ...」と静かな口調で言葉を綴る。
父親は優しい表情で少女の話を聞きながらの言葉に耳を傾けた。「楽しかったか?」と尋ねると少女は頷いた。その瞬間、父親の目には彼女の喜びが映し出された。
父親は優しい手つきで少女の頭に手を置いて、そっと撫でる。少女はその心地よさそうな表情を浮かべながら、父親の手を掴んで自分の頬に当てた。
「お父さんの手…温かい…ね」
と幸せそうに呟くと、父親は両手で少女の顔を包み込み、優しく揉んだ。
少女は驚きながらも、その愛情に身を委ねて「ぅぅ…」と呻いた。
父親は楽しそうに少女を可愛がりながら、満足そうな笑みを浮かべると、手を離して少女の頭をポンッと軽く叩いた。
少女は不満げな顔をしつつも、心の奥底では嬉しさを感じていたからだ。
次に少女は父親に向かって不思議そうな表情で尋ねた。
「お父さんは…ここで何をしているの?」
父親は少し戸惑いながらも、心から答える。
「森の警備をしているんだよ」と言った。
しかし、少女はまだ疑問を抱えていた。
「でも、今日は…陽が差してるよ…?」
と問い返すと、父親は少し取り繕いながら話題を逸らそうとした。
「いや、実はね…日陰に隠れる怖い生物たちがいてね、彼らが悪いことしないために警備をしているんだよ」
と父親は説明したが、その言葉には少女にはまだ納得できなかった。
少女は納得いかない表情を浮かべながらも、口にせずに「そう…?」と短く返事をした。
父親の様子から何かを隠していることは明らかだったが、少女は勇気を出して追求する気になれなかった。
代わりに少女は「日傘、置いておくね」と言って父親に日傘を手渡した。
父親は受け取ると、少女にどこに行くのか尋ねた。
「…おうちに帰るの」
父親は「じゃあ、一緒に帰ろうか」と言って、日傘を差して二人は並んで歩き始めた。
少女の髪は陽の光によって明るい紫色に輝いていたが、父親の髪は影の中で濃く暗い紫色をしていた。親子なのに今はなぜか互いの髪の色が対照的に感じられた。
少女は心の中でさまざまな思いが渦巻ていいたが今はただ父親と一緒に帰ることに集中し、その暖かい手を握りしめた。