報告
狂った人の群れを抜けて、再び何もない場所へと出る。
辺りは日が落ちかけているのか、薄暗くなっている。
「ひでぇな。」
「そうだな。」
あまりの光景に、衝撃は大きかった。
もはや、会話をするのもしんどいほど精神が疲労している。
「どうしてこんな目に合わなきゃなんねぇんだ。」
「全くだ。」
向けられた、憎しみの込もった目を思い出す。
同じ人間、同じ被害者に向けられたのだ。
「俺達がしている事は正しいのか? 本当に誇りとやらが大事なのか?」
今までは、誇りを探す事でやる気を保っていた。
しかし、あの目を見てから疑問を持つようになった。
「俺達のやる事は無駄じゃないのか? このままやる事に意味があるのか?」
そう思うには、充分な出来事だった。
どれだけ努力をしても、鬼によって軽々しくねじ伏せられる。
考える度に、疑問が大きく膨らんでいくのだ。
「分かんねぇよ。」
悩むベージュの呟きを黙って聞く二人。
返す言葉が見つからないのだ。
それからしばらくの沈黙が続く。
すると、目の前に町が見えてくる。
「町が見えたぞ。どうする?」
「行こう。せめて、ハイグルさんの思いだけでも守るんだ。それが、正解なのかは分からないけどな。」
何が正解かは分からない。
だけど、命をかけたハイグルの思いを無駄にする事は出来ない。
それをしてしまえば、ハイグルの死が無意味になるからだ。
そんな気持ちを抱きつつ町へと入る。
そして、ユグリスの案内でハンターの施設に着く。
「ここだ。まずは、俺が話をつける。」
「おう。ポットは小竜を職員に引き渡してくれ。」
「へい。」
ポットと別れたベージュとユグリスが施設へ入る。
すると、一人の女性が近づいてくる。
「ユグリス、帰って来たのね。ねぇ、防衛線から連絡が来ないけど知らない? って、皆はどうしたの?」
ユグリスの後ろを見る女性。
皆とは、ユグリスの仲間達の事だろう。
「死んだ。防衛線の連中も全滅だ。」
「何てこと・・・。」
女性が驚き口を押さえる。
あれだけの戦力が滅んだと言うのだ。
驚くのも無理はない。
「しかも、一瞬だ。一瞬で全てが滅んだ。相手は、我々が思うより強大だった。」
「ありえないわ。この町の全戦力なのよ?」
「それでも滅んだ。それほどの相手だと思ってくれ。」
この町の全戦力が一瞬で滅んだ。
その事実は、相手の恐ろしさを知るには充分だ。
しかも、被害者はそれだけではない。
「・・・避難者は?」
「見た奴は全員駄目だ。後は、ここに逃げ込んだ奴らだけだ。」
「逃げ込んだ? いいえ、辺りを見ている職員からの報告は無かったわ。」
「なっ、全員やられたとでも言うのか!?」
避難民の保護をする職員を派遣している。
しかし、避難民の到着を知らせる報告は無かったようだ。
それはつまり、誰一人として生き残っていない事を意味する。
「避難民はいない。それを守る者もいない。一体、どうすれば。」
「その事なんだが、話がある。」
「話?」
女性が聞くもユグリスは答えない。
代わりに、ベージュが答えるように促す。
すると、ベージュが前に出る。
「俺は、商業ギルドの商人だ。九の地区の責任者をしている。いや、していたか。」
「九の地区。事件が発生した場所ね。私は、ジェネル。ここの施設の責任者よ。」
女性の正体は、ここのギルドマスターのようだ。
どうやら、詳しい話は知らないらしい。
「それで、あそこで何があったの?」
「そうだな。まずは、この資料を見てくれ。」
ベージュが鞄から取り出したファイルをジェネルに見せる。
すると、ジェネルは表紙の文字に目を通す。
「襲われた? 確かに、エリアがある地区だけど。」
エリアがあるから、襲われても仕方ない。
しかし、それでは済まない被害が出ているのだ。
少し悩んだジェネルは、中から書類を取り出して目を通す。
「鬼? 四匹のモンスター? たったそれだけの相手にやられたとでも言うの?」
それらをしでかしたのは、たった四匹のモンスターによってだ。
普通なら、そのような事で滅ぶ程の戦力ではなかった。
「そのまさかだ。実物を見た俺が保証する。このままでは勝てない。」
勝つことなど出来ない。
それを、嫌なほど思い知らされてしまった。
「じゃあ、どうしようっていうの? このまま死ぬのを待てと?」
「いや、この書類があれば何とかなるはずなんだ。その為にも、本部にこの資料を届けたいんだが、俺なんかじゃ会うことすら出来ない。だから、あんたに橋渡しを頼みたいんだ。」
「なるほど。だから、わざわざここまで来たのね。」
ジェネルが資料を捲っていく。
そこにある資料は、どれもびっしりと書かれている。
考え抜いて導きだした物である事が伺える。
「分かったわ。ついて来なさい。本部に連絡をいれるわ。」
「あぁ、頼んだ。」
ジェネルもまた、伝えるべき物であると理解したのだろう。
二人を連れて、通信機がある部屋へと向かう。
「あれ、マスター? 作戦は終わったんですか?」
「いいえ。その事で、本部と連絡が取りたいの。少し席を開けてくれる?」
「分かりました。ごゆっくり。」
通信機を弄っていた職員が部屋を出る。
すると、ジェネルが通信機の受話器を取る。
それから、通信機のひねりを回す。
「こちら、七の地区のギルド施設。応答せよ。」
受話器に向かって話し出すジェネル。
どうやら、本部と繋がったようだ。
「えっ、ギルド長!? えぇ、はい。作戦は失敗。現状、かなりの犠牲者が出ています。えぇ、避難民も。八と九の地区は、全滅と言って良いでしょう。」
本部に現状の報告をするジェネル。
すると、受話器の向こうから驚く声が部屋に響く。
向こうの人物も、そうとう動揺しているようだ。
「それについてなんですが、生存者の一人が本部と連絡を取りたい者がいまして。」
ベージュの事を知らせてくれたようだ。
それからの、しばらくの沈黙。
そして、受話器を離したジェネルがベージュを見る。
「話がしたいそうよ。」
そう言って、ベージュに受話器を渡す。
それを受け取ったベージュが、受話器の向こうに呼びかける。
「代わったぞ。ハンターギルドの本部で間違いないな?」
『いかにも、ここはハンターギルドの本部。そして、私がその長を務めるギルド長だ。』
ギルドで一番偉い役職のギルド長。
受話器の向こうの人物がそう名乗る。
犠牲者1628(1157) 確認されていない犠牲者含む




