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序章 02

 この村では、十歳になると「半人前の儀」を行い、半人前の証として「ステータス」について教えてもらえる。

 そこで初めて『器』の中を知ることになる。

 ステータスを知り、『器』の存在を知ったら、己を磨くこと。

 それが、この村のしきたり(ルール)



 俺より誕生日が先のミサは『愛』と『魔』、二月後にトオルが『愛』と『剣』を知った。


『愛』は、殆ど誰もが持っている。

 親から『愛』を受けて育つし、そうでなくてもいずれ誰かを『愛』する。

 伯父さんが伯母さんと出会って『恋』に落ち『愛』を知ったように。


 先に『器』を知り、修業を始めた二人を見て、俺は早く二人と一緒に修業がしたいという気持ちでいっぱいだった。


 そして迎えた誕生日。

「半人前の儀」によって遂にステータスについて教えてもらった俺は、ステータスを展開し、愕然とする。


『器』を聞かれた俺は

「『愛』だけだった」

 と答えた。落ち込んでいる俺を見て伯父さんは

「『器』なんて、生活してればいずれ埋まるから気にするな」

 そう言って優しく頭を撫でてくれた。


 殆どの人間は『愛』を持っている。だから、『器』が一つも埋まっていないなんて話は、まず聞かない。

 でも、『器』が一つしか埋まっていない、というのも結構レアなケースらしい。

 逆に空きが三つもある、大器晩成型だ、なんてポジティブな見解もあるぐらいだ。実際そういう偉人もいたらしい。


 残った『器』をこれからの人生で埋め、育て、満たしていく。

 それが、この世界の(ルール)

 そう、伯父さんは教えてくれた。


 それでも、俺の場合は――




「……駄目か」



『愛』 『愛』 『愛』 『愛』



 俺の『器』は『愛』″だけ″で埋まっていた。


 この四年間、トオルとミサと共に修業をしてきたが、塗り替えられない。


 暗黙の了解として、自分の『器』を他人に言うことはまず無い。

「半人前の儀」以降は『器』が埋まっても黙ったまま。聞くのも禁句だ。

……大体皆、こっそり身内で確認し合っているけど。


『器』は隠されたステータスだから、言わば切り札でもあり、同時に弱点でもある。誰だって隠したがるし、偽りたがる。


 俺のように。

 ある意味、嘘は言っていないけど。


 この『愛』は、親から与えられたものだろう。だが、俺は両親の顔を知らない。


 俺の父親――伯父さんの弟は、伯父さんの冒険者仲間の一人だったらしい。称号は知らない。

 母親のことも分からない。産まれて間もない俺を伯父さんに預け、村を出て行ったらしい。

 父と母がどうなったのかは、知らない。禁句だ。聞けたのはこれだけ。


 俺にとっては、産まれた時から伯父さんと伯母さんに育てられているから、殆ど父母のようなものだ。

 伯父さん達も、俺のことを息子のように育ててくれている、と思う。

 実の父母のことをどうしても聞きたいわけじゃなかった。

 ただ純粋に、知りたかっただけ。

 でも、俺はもう伯父さんのあんなに哀しそうな顔は見たくなかったから、二度と聞くことは無かった。




『剣』と『魔』の修業を繰り返すこと一時間程。

 隠れ修行を終え、家に戻る。


 玄関の扉を開けると、ガーリックトーストの良い香りがした。

 居間を覗くと、伯母さんが台所に立っていた。


「おはよう、伯母さん」


 そう声を掛けると、伯母さんは振り返って笑顔で「おはよう」と返してくれた。

 快活で優しい笑顔。薄っすら笑い皺は走るが、それすらも魅力に感じられる程、眩しかった。

 確か三十半ばを過ぎたと聞いたが、まだまだ『美』が衰える様子は無さそうだ。


 伯母さんだけが、俺が朝早くから修業していることを知っている。

 最初は「一人で何かあったらどうするの」と心配されたりもしたが、なんとか頼み込んでリョウと伯父さんには内緒にしてもらっている。


「もうすぐ朝ご飯できるから、シュウとトオルを呼んできてちょうだい」

「はーい」


 俺は階段を一段飛ばしで駆け上がると、先に手前にある伯父さん達の寝室の扉をノックをし「ご飯できるよー」と声を掛ける。これで伯父さんはOK。

 次に一番奥の部屋――伯父さん達の寝室の斜め向かい、俺の部屋の真正面にあるリョウの部屋の扉をゴンゴンと拳で叩く。


「おーい、トオル。朝だぞ起きろー」


 すると部屋の中から、ガタガタガチャガチャと、物が落ちる音やぶつかる音が聞こえる。

 トオルの部屋は滅茶苦茶散らかっている。


「……んぁー、先行ってて」

……かなり怪しい返事だったが、「分かった」とだけ返して階段まで戻ると、ちょうど伯父さんが部屋から出てきた。


「伯父さんおはよ」

「ああ、ユウおはよう」

 伯父さんと一緒に階段を降りる。ベーコンの焼ける匂いが階段の上まで届いていた。ぐぅ、とお腹が鳴る。


 伯父さんは席に着く。俺は伯母さんが作った料理をテーブルに並べていく。

 全ての料理を並べ終わる頃、ようやくリョウも降りてきた。


「遅いぞトオル。冷めるところだ」

「……うるせーなぁ。間に合ったからいいだろ」

「っ! お前は毎朝毎朝そうやって! 大体夜寝るのが遅いから――」

 あちゃー。


 トオルは寝起きが悪い。ここ数年は思春期に入ったからか、朝はかなり反抗的だ。

 伯父さんも普段は温厚だが、朝は気が短い。

 これが夕食時ならこうはならなかっただろう。


 俺も思春期だけどまあ、ほら、ね?



「 め し 」



――伯母さんが、外したエプロンを静かに椅子に掛ける。

 その所作は静かなものだったが、声は低く、とても重かった。


 伯父さんは途中まで出かかっていた言葉を飲み込み黙り、トオルもそそくさと席に着く。

 伯母さんもようやく椅子に腰かけた。



 食事中は、喧嘩しない。


 皆で美味しく食べましょう。


 四人揃って手を合わせ。


「「「「いただきます」」」」


 これが、この家の毎朝(ルール)だ。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


誤字、誤用、その他気になる点がありましたら指摘してください。


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