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Ep.1「贖罪」

 ああ、壊れていく。

 少女のどこかが、儚く、虚しく、削げ落ちて、消えていく。

 それは、前提から間違っていた。

 もっと軽ければ、もっと易しければ、今後どんなに明るい道を進めただろう。

 どんなに変われて、どんなに笑えた事だろう。

 もう1つの未来を見た。

 1度は壊れたものの、それでも振り返らずに明るい道を歩める未来が。

 だが、彼女が辿り着くはそれとは別の未来。

 彼女は…須賀希里花は、地獄へ堕ちた。

 何故……?

 いや、理由は明確だ。

 彼女へのいじめは、あの世界よりも格段にエスカレートしていった。

 それはもはや、いじめの領域さえも抜け出すほどに。

 教師……ついには親までもが、彼女のことを嫌悪の対象としてみるようになった。

 彼女を取り巻く環境は徐々に悪辣なものへと進化していき、彼女は人を信じることすらままならなくなってしまった。

 否、主たる原因はそこにはない。

 人を信じられなくなった少女は、目の前にいた彼を殺してしまったのだ。

 嫌な顔ひとつせず相談を受けてくれた彼を。

 今も尚、笑顔で優しい言葉をかけ続けてくれていた彼を……加賀谷 勇一を。

 勿論、別に悪気があった訳では無い。

 彼が何か彼女に危害を加えたわけでもない。

 ただ彼女は騙されすぎた。

 勇一さえも信じられなくなってしまった彼女は、パニックになり、目の前にあったカッターで彼を刺した。

 ハッと我に返りカッターを手放すも、もう既に彼は息絶えていた。

 彼の胸からひたすらと流れ出た赤い液体が、彼の命の灯火が消えたことを伝える。

 息絶えた彼の顔はどこか悲しげで、儚げで。

 ごめんね、ごめんね。

 彼女は繰り返す。

 だが、また一刻一刻と時間が過ぎ去っていくだけで、彼が起き上がることも、再び話し出すこともない。

 やがて精神に限界を迎え、意を決した少女は、カッターを己の左胸に奥深くまで突き刺した。



 そしてふと眼を開くと、目の前には漠然とした雰囲気が漂う荒野が、彼女を待ち構えていた。

 彼女はここを、直感的に地獄であると察する。

 木の一本さえ生えていないがそこにはおおよそ枯れた草と思える物体が点在していた。

 だが普通の枯れた草なら良いものの、どう考えてもそれが彼女の目には普通の枯れた草には見えなかった。

 これが……この光景が、彼を殺してしまった代償。

 これが彼女の罪の行く先。

 俯く彼女を背に、誰かがニンマリと怪しげな微笑みを浮かべた。



*******



 ……しかし、一向にこの地獄には終わりが見えない。

 歩き疲れた。

 喉も渇いた。

 死んでもなお自分は、苦悩に苛まれなければならないのか。

 おかしい、こんなの。

 確かに自分は、彼を殺してしまった。

 それがいくら死のうが赦されない罪であることも、重々承知している。

 だがどうにか彼に、一言でも謝らせてほしかった。

『ごめんね』

 と、そんな一言さえ言う権利すら、彼女には与えてもらえないのだ。

 ひたすらと続く無毛の荒野に彼女の肉体と精神はついに限界を迎え、彼女は地にその身を寄せた。


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