結
それは日本においてオリンピックに相当する、国際的な競技会であった。
世界各国から集まった選りすぐりのスポーツ・エリート。
守仁はそんな選手の中で、ただ一人の男性として紛れ込んでいた。
この世界において男性は、国が保護すべき対象ではあるが、その人権は日本に比べかなり制限されていた。
それは仕方のないことだ。数が少ない男性の声は、どうしても小さくなる。その権利は制限されたものになる。
国は最大多数の最大幸福を追い求めるものであり、国家繁栄を選択の主軸に据える。
大多数の女性を軽視出来はしないのだ。
彼女たちの、「男とまぐわいたい」という欲求を満たすために、相応のコストを支払うようになっていて、男はそれに協力せざるを得なかった。
そんな男性に求められる協力の一つに、「上級国民への奉仕」というものがある。
要は、国家に多大な貢献をした女性へのご褒美である。例えばオリンピックで金メダルを獲得した女性には、記念品のメダルなどという名誉だけではなく、もっと即物的な権利が与えられるのだ。
そうやって女性をヤル気にさせて、どの国も国際的な競争力を維持しているのである。
男にも好みがあるので一応は断る権利があるものの、強く求められれば断ることができず、薬物を使ってでも行為はなされる。
非人道的で人権無視の行いであるが、圧倒的多数派である女性の要求に応えるこの制度は、今のところ維持されている。
守仁はこの世界の日本、邪馬台国の国民となったので、もちろん「上級国民への奉仕の義務」が課せられる。
そして時期が来れば、守仁はほぼ確実に奉仕行為を求められるだろう。
異世界人という特殊な出自は公表されていないものの、多くの女性相手にした大立ち回りはネットに拡散され、その名前は世界一有名な男として知られてしまったからだ。
それに、守仁の容貌も問題だ。
この世界の男性は日本の男と違い、基本的に小柄で華奢だ。
進化の過程で夜の生活に耐えうる持久力を守仁以上に獲得しているが、弱くて守ってもらう様になっている。大柄で筋肉質な守仁はこちらでは女性的でとても目立ち、目を惹く存在。
これで注目されずひっそりと生きていけると考えるのは、楽観的ではなく、頭が湧いていると言われても仕方がないだろう。
そんな守仁が己の心身を守るために選んだのが、「自ら上級国民になる」という選択。
上級国民になる事で、強い権利を得ようというのだ。
身体能力で女性に劣る男たちであるが、全ての能力で劣っているわけではない。
主に学術や芸術の分野では男が女を圧倒する事も可能で、その功績で上級国民になった男性もそれなりにいる。
これは男たちを下手に追い込み自殺などをさせないための、餌のような措置である。そのため、学術や芸術分野の要求水準はスポーツ分野よりもハードルが高い。
だが普段の立場が弱い分、女とは必死さが違う男たちは、なんとかその狭き門をくぐり抜けようと努力していた。
残念ながら、強いだけの高校生だった守仁に、頭の出来や感性で彼らと張り合う土台はなかった。
同じ男と競い合っても、幼少より研鑽を積んできた彼らに勝てるだけの才は無い。
守仁が上級国民になるには、やはり戦いの中にしか道はない。
握る拳で己の未来を掴み取るのみ。
勝利の先の栄光を目指して駆け出した。
「はっ。まさか、男が出てくるとは。邪馬台国は人材不足と見える」
わざわざ守仁に理解できるよう、邪馬台国の言葉で挑発する対戦相手。
彼女は前回大会の銀メダリストだが、守仁は余裕の笑みを浮かべ、言葉を返さず試合開始を待つ。
「だんまりか。いいだろう。この場で組み伏せ、そのままベッドに連れて行ってやるよ」
世界中から強者が集まる「総合戦技」の大舞台。
それぞれの国の報道陣ご向けるカメラが守仁を映し、その姿を視聴者に届ける。
これは平和の祭典などではない、代理戦争。
国家の威信を背負う者に弱者はいない。
対峙した女の姿は堅牢な要塞の様に聳え立ち、ならば握る拳は大砲か。一分の隙とて見えやしない、まさに強者。
幾多の戦いを勝ち抜いて、一時は“世界最強”に手を届かせた古豪の風格は、守仁が持ち得ぬ戦いの歴史によって培われたもの。
目の前の女性。彼女を守仁は古強者と認めはしたが。
「己の方が、強い」
「はぁ? そうかい。なら、本物って奴を教えてやるよ、若造」
それでも自分が勝つと、信じている。
若き獅子は世代交代だと群の王に怯えない。
どこまでも広がる凪の草原に独り立とうと畏れを知らず、両の足に力を入れる。
試合開始のブザーが鳴った。
強い女が集まる武の饗宴で最強を証明した唯一の男は初戦にて格上殺しを成し遂げ、その一頁めに足跡を残した。
あべこべ物でこういうのを書いた人はいないよなって思いついたので、書いてみました。
書き上がってからジャンル詐欺かもしれないと悩んでいるので、ツッコミ多数ならその他にでも変えるかもしれません。
最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。