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「嘘でしょ。先生、あのまま土俵の上にいたら、横綱にだってなれた人なのに」

「こんな人、どうやって倒せばいいのよ」

「本当に男なの? 実は女ってオチはないでしょうね」


 守仁が先生を下すと、周囲の雰囲気が変わった。

 これまで女たちは、強敵であろうと自分たちが本気を出せば何とでもなる。そんな考えで動いていたのだ。

 それが先生が負けてしまった事で守仁への評価を覆され、彼女たちは冷静な思考を奪われていた。


 包囲網が機能しなくなれば、あとの脱出は簡単である。

 守仁は駆け足程度の気持ちで動かなくなった襲撃者たちの間を駆け抜け、窮地を脱するのであった。





「暴れはしたが、アレは正当防衛。この身を守るために致し方がなかったのだ」

「大丈夫ですよー。貴方を襲ってきた人たちはその大半を捕縛しましたのでー、もう安心ですよ

ー」


 何とか交番にたどり着いた守仁は、警察の保護を受ける事に成功した。

 さすがに警察は守仁を襲うような真似はせず、むしろこの世界では希少な男性という事で、手厚くもてなした。


「――と、言う訳なんですよー。まだ受け入れられないと思いますけどー、徐々に慣れてくださいねー」

「……はい」


 守仁は、ここが自分の常識の通用しない世界である事を理解していた。

 言葉はなぜか同じだが、同じようでも全く違う文化の世界。そんな中で育ってきた人を見れば、否が応でも悟らざるを得ない。


 男女比1対1の世界から来た守仁から見れば、男女比が1対19などトチ狂った世界だ。

 ハーレムというものに興味が無いというほど守仁は性に淡泊ではないが、いざ目の前にそれが来ると躊躇してしまう程度に、彼は“元の世界の”常識的な恋愛観を持っていた。

 どれだけハーレムを欲しがっていたとしても、結局それは手に入らないから欲しいと言える程度の感情で、本当に欲しいと言えるほど常識を捨てられない。

 彼にとってハーレムとは、そこまで優先順位の高い欲求ではなかったのである。



 むしろ、逆に。


(……彼女たちは、強かった)


 交番にたどり着くまでの間、元の世界では考えられないほど強かった女性たち。その戦闘を反芻してしまう。

 特に最後の一戦は、守仁がこれまで経験した事が無いほどの興奮をもたらした。


 戦闘狂(バトルジャンキー)

 青春を捧げ鍛えぬいた技を振るう悦びこそが、守仁の内なる欲求であった。


 男も女も関係なく、全力で拳を撃つ喜びは、何にも代えがたい甘美な一時。

 ただの訓練では得られない経験に、守仁は酔っていた。





「では、異世界からの来訪者さん。貴方に、幸有らん事をー」


 この世界について説明を受ける間に、守仁の受け入れ準備が整う。


 戸籍が無く住所不定の守仁だったが、男というだけであべこべ世界は彼を歓迎する。

 守仁が言っている事が本当であった方が何かと都合が良いので、警察から連絡を受けた彼女たちは、彼の話を全面的に肯定した。そうして生活を全面的にバックアップすることにしたのである。

 しばらくはホテル暮らし、いずれは無所属の(使い勝手のいい)男性として一軒家に引っ越す事が決まった。


 そうやって、守仁を駒にする算段であった。

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