燻
守仁はスマホで家に連絡を取ろうとした。
状況が飲み込めないので、家族や友人を頼ろうとしたのだ。
しかしここは異世界。守仁のいた、日本皇国ではない。
スマホは圏外。アンテナが立つはずもない。
いよいよどうすればいいか分からず、途方に暮れる。
「すみませーん。ちょっといいですかぁ?」
そんな守仁に声がかけられる。
小学生高学年の女の子だ。
まだ幼さを見せる、か弱い存在。
それ故に、周囲の女性たちの意向により、この場に連れて来られた。
「私、雛森の姫菊なんですけどぉ。おにーさんは、どこの人ですかぁ?」
本能のままに襲いかかりたい女性たち。
しかし、世の中にはポリスという敵がいる。
さすがに無計画に襲かかり、ポリスに乱入され中途半端で寸止めという流れだけは避けたい。
だから相手の所属を聞き出し、リスクを秤にかけるのだ。リスクレベルによっては他のチームと組んで状況を整えねばならなかった。
権力者の男に手を出すなら、相応の戦力が必要なのだ。
なお、たとえ権力者の男だろうと“手を出さない”などというチキンはここに存在しない。
男を攫い目的を完遂する、熱い鋼の意志があるのみ。
それがこの国の女である。
「所属? いや、なんの事?」
問われた守仁だが、その意図、意味が分からず困惑する。
異世界の常識を求められても対応できないのは当たり前だ。特に、ラノベに詳しくない若者ならなおさらだ。その場しのぎの無難な対応にも困る有様だった。
それに、見知らぬ少女からいきなり声をかけられ困惑しているというのもある。
無闇に個人情報を漏らしてはいけないという警戒心も働いた。
だがこの対応は、この世界ではほぼ最悪である。
これを聞いた女性は、守仁の所属コミュニティを“弱者”と判断した。
普通なら自分のコミュニティを使い、強気で対応する。ブラフで大物のコミュニティの名前を出して、時間稼ぎをする。
最低でも、身内の戦闘要員が合流するまで時間を稼ごうとする。――いや、そもそも男性の単独行動はご法度なのだが。
そうするよう、幼いうちから仕込まれるのだ。
これが出来ないと男は誘拐されて性的に食べられるから、どの男も必死で学ぶ基本スキルであった。
それが出来ていない守仁は、格好の獲物にしか見えなかった。