異
女、女、女。
守仁が見たのは、男の居ない街だった。
「は?」
建ち並ぶ店などは、それまで彼が見てきたものとほぼ同じ。
道行く車も見慣れたもの。
しかし、そこに居る人だけが可怪しかった。
先程までは、男性がいた。
世の中の半分は男性だ。夕方前の時間帯なら、男が居るのが当たり前。
人通りが少ないなら理解できるが、今は夕飯前で人が溢れる時間帯。彼と同じ男子高校生だって少なくないはずだ。
それに、女性たちの姿もおかしい。
冬が近づいているので分かりにくいが、武術を修めている彼の目には、服の下の筋肉が見えている。まるで男のようなマッチョボディが。
そもそも、身長が違う。170cm以上は当たり前。2mオーバーの女性すら珍しくない。
守仁は195cmと大柄だが、そんな彼と並べて遜色ない女性ばかりであった。
ここまで人が違えば、誰だって違和感を覚えるだろう。
「え、嘘。あれって、男の人?」
「男装女子じゃないの?」
「違う……本物よ! 本物の男よ!!」
彼が違和感を感じたように、周囲も違和感に気が付く。
九条守仁という異物に勘付いたのだ。
「待って! 集合かけなきゃ!」
「メーデー! メーデー! 我、男性発見セリ、我、男性発見セリ! 至急応援求ム!」
そうなってからの女は早い。
直ぐ様、守仁を確保すべく動き出した。
この世界では、男の人口割合は5%未満と、非常に少ない。
そのため、女性は20人前後の集団を作り、男を確保する様になっていた。
個人で男を確保出来るのは、相応の地位がある人間だけ。一般女性は一夫多妻のハーレム婚が基本である。
しかも最近は、それすら難しい状況に追い込まれている。
近代化から始まった人権運動。それに続く男女平等、男性の人権保護活動。そして婚活特権を餌にした、国際競争力強化の政策。
それらが普通(?)の女性の婚活を厳しくしていた。
「結婚は無理でも、一夜の過ちぃ! 雛菊、往くよ! ここで大輪咲かせたらぁ!」
「他所に盗られんじゃないわよ! ホテルの確保まで一直線だからね!」
「ヒャッハー!男狩りだぁ!」
世が百年も前なら、女が男を襲う“強漢事件”など日常茶飯事。戦争でも主力は女なので、ヒャッハーするのも女である。
むしろ武力で男狩りをするのが常識。
だからこそ、この世界の女性は筋肉質で、力強い。
……ついでに、嗜みとして武術を習う者も多くいた。
あべこべ世界の洗礼が守仁に牙を向いた。