序
放課後、一人の高校生が街を歩いていた。
身長は195cm、体重は90kg、筋肉という鎧に覆われた、至って平凡から遠い巨漢である。
そんな彼がコンビニ近くを通りがかった時、事件は起きた。
「お、おおおっ!?」
コンビニの駐車場からトラックが車道に出ようとしたのだが、小さな子どもがその前を横切ろうとしたのだ。
なぜ運転手が子どもを見逃したのかは分からない。しかし、このままでは子どもがトラックにはねられる。
そんな時だった。
「我が歩法に届かぬ距離、この肉体に止められぬものなど、無いっ!!」
とおりすがりの男子高校生はとっさの判断でトラックと子どもの間に滑り込むと、トラックを掴み、その動きを止めた!
一瞬で移動した距離が10m以上あったとか、トラックはまだ微速であったがそれでも時速10kmは出ていたとか、トラックのフロントが大きく凹んでいるのに彼の体には傷一つないとか、そんな些細な事はどうだっていい。
トラックは子供をはねず、子供に怪我はない。重大な交通災害は未然に防がれたのだ。
余談であるが、彼の運動能力なら、トラックの前から子どもを拾い上げ、そのまま安全圏に駆け抜ける事も出来ただろう。
だがその場合、子どもには急激な高速移動によるGが加わり、途轍もない負担がかかっていた。
やっていれば、子どもを助けるつもりで、傷付けていたのである。
この男子高校生は、そういった判断が瞬時にできるという証左であった。
「おじちゃん、ありがとー!」
「おじちゃん……」
怪我人は出なかった。
しかし接触事故のため、警察の聞き取り調査が行われ、事実確認がされた。
コンビニのカメラという証拠もあったので、それらはスムーズに終わる。
若干、物理的なダメージこそ無かった彼に精神的ダメージが入ったが、そこはご愛嬌。子どもにとっては大きな人は全部大人で、彼が老け顔だったとかそんな事実は無い。無いったら無い。
そして警察とのやり取りが終わった彼は。
話し合いをしていた駐車場から出ようとして。
何故か異世界に転移した。