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リンゼルの兎

 燦然と降り注ぐ陽射し。疲弊しきった俺の身体には劇薬だ。


 有り体に言って、辛い。眩しい。


 おまけに眠い、怠いの重ね役満ときた。


 見知らぬ地に突如迷いこみ、訳も分からぬ中で化け物からの決死の逃避行を繰り広げた。街に逃げ込めたとは言え宿がない。興奮しきった脳がアドレナリンをガバガバに垂れ流していたせいで仮眠をとることもできなかった。


 街の道端に寝転ぶほど図太い、というか危険な真似も出来ず、それもあって結局一晩中街をさ迷うはめになっている。


 迷いに迷い、行き着いた高台のベンチにどっかりと腰をかけた。


 押し寄せる疲れ。飛びそうな意識。


 モヤのかかった思考の中、ふと昨夜の顛末もフラッシュバックしてくる。




 リンゼルの街の検問では案の定、兵士たちによる詰問を受けた。


 見慣れない服装の俺はすぐにリンゼルの人間ではないと看破され、出自や街を訪れた目的などをあれこれ聞かれる羽目になったが、俺を助けてくれたアイリス・クレインの助力を得て大過なく入城することができた。


 アイリスは戦士としての凛々しさと僅かにあどけなさを残した女性だ。有り体に行って美人だった。それも極上の。


 この非日常に舞い降りた女神。そんな感想すら抱かせる雰囲気があった。


 どことなく態度に棘がある気もするものの、ありゃあ恋愛ゲームだったらヒロインのポジ確定だね。


 そんな女神から得られた加護。しかしそれは長くは続かなかった。


「私が助力するのはここまでよ」


 地獄に差し伸べられた一筋の蜘蛛の糸。まだよじ登っている最中だというに容赦なくぶち切られる。


「街を案内してあげたいところだけど、まだギルドの依頼の途中なの。これから森に戻らないと」


「ギルド?」


「・・・グレネルンにもギルドはあるはずなんだけど、何も知らないのね」


 アイリスは呆れ混じりに吐息を溢した。


「ギルドは仕事の依頼、斡旋を行う組合よ。街の人のおつかいから魔物の退治までありとあらゆる案件が寄せられ、冒険者たちはそれを受注して生計を立てているの。私は請け負った依頼の最中に君と出会ったってわけ」


 ギルドは中世ヨーロッパにおいて商人たちが組成した職業組合だ。


 商品の流通、利権の管理はすべてギルドを通すことで市場は閉鎖的となる。競争を制限することで組合員の共存を図るために産み出された組織であると記憶している。政治権力との結び付きも強く、ギルドの掟に背いては商売をすることもままならない。


 しかし、彼女の言うギルドは本流のそれではないようだ。漫画やオンラインゲームで登場するギルドは、クエストを達成すれば成功報酬が受け取れ、集う情報を求めて人の行き交いが活発に行われる場。どちらかと言うとこちらのものに近い印象だが、そうであればこの世界の情勢や仕組みを知るうえで押さえておきたい場所である。


「親切心に甘えるようで申し訳ないんだけど、ギルドまで案内してもらえないだろうか。正直なところ、知らない街を一人で回れる自信がないんだ」


「悪いけど、これからすぐに戻らなければ行けないから」


「そうか・・・」


 と、肩を落としていると、またも救いの言葉がかけられた。


「この街の主要な施設をいくつか教えるから自分で行ってみて頂戴。紙、あったかしら」


 女神様・・・!


 彼女は羽ペンとくたびれた茶紙を取りだし、宿、難民の避難所、ギルドと一通りの施設を書き込んでくれる。紙の質を見る限り、文化レベルはそれほど高くはなさそうだ。そうであれば紙も高級品に違いないが、純然たる好意でここまでしてくれるているのだろうか。感謝の念に尽きない。


 尽きないのだが、それがさして意味のない好意、いや、ありがた迷惑であったことがものの数秒で発覚した。


 結論から言うと、アイリスさん、まったく訳が分かりませんでした。はい。


 まず文字が読めない。この世界は日本語が通じるくせに独自の文語体系が発達しているらしい。口頭で説明を受けてもそれをすべて覚えていられるだけのハイスペックな頭脳を俺は持ち合わせちゃいない。


 地図そのものも問題だ。お世辞盛々で評すると独創的、ストレートに言えば絵心の欠片もない超絶下手くそな図面だった。俺の知識をフル動員しても解読できない怪文書と化している。ふざけんな。あんなん幼児と同レベルの画力だぞ。


 極めつけは語彙力のなさ。あっちに宿屋、こっちに民家、そっちに教会と説明されても混乱に拍車がかかるだけだ。満足げに息をつくアイリスに悪気のかけらもないことが尚更たちが悪かった。


「一通り説明したけど、これで大丈夫かしら」


 いえ、まったく。不安だらけです。


「今日のところは宿に泊まるか、お金がないのならギルドに相談するといいわ」


「あ、ああ。辿り着ければ」


「大丈夫よ。すぐそこだから」




 その言葉を信じて街を歩くこと数時間。今に至るわけだ。


 このファンタジー世界にやってきて一夜。時の経過とともに自動で現実世界に引き戻される、なんてご都合主義バリバリな展開を期待してみたが、そんなことは一向に起きる気配はない。


 記憶も戻らない。苛立ちと不安を誤魔化すように街中を徘徊し続けた。


 地図では、ギルドとやらは西の地区の外れにあることが分かる。だが、一口に西と言っても街は広い。いくら探してもそれらしき建物が見つからなかった。


 致し方ないと思い、街の地理の把握に目的を変えたが、土地勘のない者が暗闇に支配された街を歩けばどうなるか。今度は現在地すら分からなくなったのだ。


 状況はダダ下がりの一方である。


 それでも、一晩中さ迷い歩いたおかげで街の地理はおおよそ把握することができた。


 春の国ファラム。その首都リンゼルは、北には王城、その周辺は貴族の住む街区のため警備が非常に厳しい地域となっていた。昨夜も近づいただけで警備の兵士に怒鳴られ追い散らされたばかりである。


 東西と南には街と外とをつなぐ門があり、それぞれに検問がしかれている。街壁の外には魔物以外にも盗賊のような良からぬ人間もいるらしく、アイリス曰く不用意に外に出るなとのこと。昨日はまさに危険地帯である東門から入城していた。


 東門の側にはボロに身を包んでうずくまる者、物乞いをしている者、俺たちを下卑た目で値踏みしてくる者と、一時も気を許せない界隈であることが見て取れた。正直、身の危険を感じもしたが、毅然として歩くアイリスの後ろに付いていくことで危害を加えられることもなく通り過ぎることができた。


 なんでも、アイリスもギルドに身をおいているらしく、それなりに名も通っているとのこと。


 ギルド員は治安維持、魔物退治、はては要人警護と、ギルドで地位を築いている者はリンゼルが街として機能する上で重要な仕事を任されているようだ。アイリスもそのうちの一人ということらしい。


 そのギルドに加入することで、この街の発展、秩序の維持にかかわり、代わりに衣食住の保障や相応の報酬が得られるという。


 もっとも、俺のような流れ者にはそんな仕事はあてがわれない。薬草の採集、獣の狩りのようなコツを掴めばそれなりに実入りのよい仕事もあるにはあるそうだが、なんの知識や経験もない俺にできることと言えば、ゴミ拾いや下水の処理といった泥臭く実入りが悪い仕事くらいとの由。


 神様とやらは俺から記憶を抜き取り、おまけにこんな異世界に放り投げただけでは満足しておらずブルーカラーとして働くことを要求してくる始末。なにこの仕打ち。俺、もしかして相当悪いことやってた人間なの?


 ただ、見知らぬ土地でいつまでもアテもなくふらつくことはできない。一刻も早く、ギルドを見つけ出し、今後の自分のみの振り方を決めて行くことが必要だろう。


「にしても、腹、減ったわ・・・」


 展望台から見下ろす街は穏やかな西陽に包まれている。街の目覚めの時だ。ちらほらと人影も見られ初め、家々の煙突からは煙も立ち上ぼっている。ザ・朝飯どき。見てるだけで腹の虫が鳴る。ほら、俺の鼻孔をくすぐる香ばしい匂いが――


「いただきまーす」


 俺の横からそんな声が聞こえてきた。


 気がつけば、隣のベンチに人が座っている。


 栗色の髪をした女の子だった。ふんわりとした質感のスカートに赤と白を基調とした上着は北欧の民族衣装を彷彿とさせる。


 その手には紙袋。中にはこんがりとした串焼きの魚が一本、二本、三本。匂いの正体はあれだ。


 彼女は一串を掬い上げ、小さな口で頬張っている。彼女が噛みつくたびに肉厚で柔らかそうな白身がお目見えする。口に含めば程よくほぐれ、旨味が凝縮された油が広がるに違いない。くっ、なんて旨そうな。


 これはテロだ。飯テロだ。腹ペコの人間の前でなんと残酷な仕打ちか。


「おーい」


 魚を凝視する俺は、彼女の視線がこっちに向いていることに気づいていなかった。さぞ不穏当な顔で人様の方を睨み付けていたことだろう。


「どしたん君。めっちゃお魚のこと睨んでるけど。お魚になんか恨みでもあんの」


「・・・恨みがあるとすれば、この不遇を甘受させんとする神様、仏様に対してだな――」



 グゥゥゥ。



 そこまで言ったところで間抜けな音が響いた。


 その後流れる沈黙の時間。腹ペコを隠そうと回りくどく話したのに締まらない。


 つーか恥ずかしい。


 沈黙が場を支配して数秒。俺の前に焦げ目のついた魚の顔が突き出された。


「・・・食べる?」


「ありがたく頂戴いたします!」


 俺の矜持は欲望という炎に焼かれ灰燼に帰した。


 プライドなんて腹の足しにならないもん、飢え死にするくらいなら捨て去ってやる。俺は現実主義者なんだ!


「旨!なんだこれ、今までこんな焼き魚食ったことない・・・!」


 魚を融通してくれた彼女は苦笑いする。


「大袈裟だなぁ。ただのサンマグロじゃん。確かに今年のものは脂がのってるけど腹ペコ補正かかってるんじゃないの」


「そうなのか。俺の住んでたとこはこんな魚住んでなかったからーー」


 そこまで言って俺は凍った。


 彼女の頭の上。


 栗色の髪の中から見慣れないものが二つはえている。ピンと尖った細長い三角形で、髪の色と同じ栗色の毛で覆われている。


 人間が持って生まれることは絶対にないものが頭にくっついていた。


「・・・耳?」


 同じ耳でも人間のそれではない。ふさふさな毛に覆われた長い耳。


 昨日、トラウマ級の衝撃を受けた、兎のそれそのものだった。


 拒否感を隠しきれない眼で凝視していると、彼女は「あ~」と言いながらそれをピクつかせた。あ、やっぱり動くんですかその耳。


「もしかして、兎人バニットを見るの初めて?」


兎人バニット?」


「そ。兎を祖先とする亜人だよ」


 昔やったRPGにゃフェルパーとかいう猫の亜人が出ていた気がする。兎人バニットも、無理矢理俺の常識に当てはめるなら、おそらくは獣人の部類に属する生き物だ。


「そんな顔で女の子を凝視してると、痴漢と間違われて引っ掻かれるよ」


 彼女が爪を見せて警戒する様を見て、強張っていた顔を無理矢理にほぐす。


「あ、いや。兎にはあんまりいい思い出がないものだから、つい」


「兎、嫌いなの?」


「ゴリラみたいな兎に襲われてから言いようのない恐怖心が芽生えるようになった」


「まさかウサミールのこと?祖先が同じだけってことだけであんなのと一緒にしないでよ!君、今、全世界の兎人バニットを敵に回したよ!」


 てか、祖先は一緒なんかーい。


 はるか昔、祖先を同じくしていたというチンパンジーと人間のDNAの際はわずか3%というが、この兎娘とウサミールは何を間違えばこうも別の進化を遂げるのだろうか。


 とはいえ、自尊心を傷つけられたバニットは腰に手を当てぷりぷりと怒っている。よくよく考えれば、俺だって猿と同士されでもしたら気分がよいものではない。


 ここは素直に謝っておいたほうがよさそうだ。


「すまない。他意はなかったんだ。許してくれ」


 俺が素直に頭を下げると、「むー」と一度唸ってから、しかめていた眉を徐々にほぐしてくれた。


「ま、かまわないけどね。初めての人ってみんなおんなじような反応するから慣れっこだし」


 彼女はそう言って、苦笑交じりに手をひらひらと顔の前で振った。


 どうやら許してくれたようだ。来たばかりのこの街で敵を作るのは得策でない。俺は内心で安堵した。


「この街に兎人バニットは多いのか」


「うんにゃ。私の知る限り、兎人バニットは数人くらいしか住んでないよ。むしろペットのウサミールのほうが多いくらい。くやしいことにね」


 ・・・この話題から離れよう。


「この街には他にどんな種族がいるんだ」


「ありとあらゆるってとこ。この国の首都だけ物資が集まる分、いろんな種族が出入りしているよ。君たちヒューマンの国だから当然ヒューマンの数は多いけど、リザードマンみたいな魔物由来の種族もそれなりに住んでるよ。ヒューマンの街でこれだけの種族が同居しているのはこの世界、パラーデンの中でも珍しい方だろうねー」


「パラーデン・・・」


 どうやら、それがこの世界の名前らしい。


「ところで、君、リンゼルはいつから?」


「昨日の夜。ここに来たはいいけど、なにをどうしたらいいか勝手が分かんなくて。こうして朝日を見つめながら途方に暮れてる」


「まあ広い街だし土地勘ないと辛いよね。でもよくこの街に入れたね。余所の人は中々城下に入れないのに」


「書類一つ出したら簡単に中に入れてもらえたけど」


「そうなの?フツーは街の人の紹介がないと入れてもらえないんだよ。紹介者が問題を起こしたら紹介元も責任追及されるから、身元がはっきりしていない人を紹介する人もまずいないしね」


 そうであれば、アイリスと名乗った少女は大きなリスクを負って俺を街へ招き入れたことになる。


 彼女にメリットなんてないはずだ。何か裏のある話であれば俺を街へ放り出すわけがない。そうなると単なるお人よしということになるが短慮な性格にも見えなかった。


 ただ、助けてもらった事実は変わりない。次に会った時には礼を言う必要はあろう。


「ま、運がよかったね。最近は色んな人が増えていて街の外も物騒だから。魔物、奴隷商、盗賊、挙句の果てに異世界人なんてのも現れてるんだからさ」


「・・・異世界人?」


 明らかに経路の違うワードに、俺のセンサーがヒットする。


「あれ、知らないの?最近このあたりでも噂になってるけど。パラーデンとは違う世界から来た、とか言ってる人間がいるらしいんだよ」


「その話、詳しく聞かせてくれ!」


 前のめりに詰め寄り、俺は話の続きを促した。


 パラーデン。少なくとも俺の知る21世紀の地球にはそんな地名はなかったはずだ。


 もう認めざるを得ないだろう。俺は別の世界に迷い込んだんだ。理由も方法も分からないが、まずはその現実を受け入れる他はない。


 俺はどこからどうやってこの世界に迷い込んだのか。もしかすると異世界人という言葉がキーワードかもしれない。少しでも多くの手がかりを探し、今後の身の振り方を決めることが第一だった。


「あたしもよく知らないけど、この数年、不思議な力を持った人間がこの世界にやってきてるらしいんだ」


「不思議な力?」


「そ。あたしたちが産まれながらに持ってる魔力とは違う力。魔力を使って発動させるスキルオーブに頼らなくても使える固有のスキルを持ってるんだって。出自も素性も不明だから、異世界人なんて言われてるけど、ホントのとこはどうなんだろうねぇ」


 もしその話が事実なら、俺にもそのスキルって奴が備わっていることになるのではないか。


 まるで漫画やゲームの話だな。別の世界に迷い込んで、人が持ちえないチート能力まで持っていて、いくら元は凡庸でも新天地では世界のパワーバランスを崩しかねない存在としてその名を轟かせる。


「ま、異世界人の話が本当か嘘かは置いといて、固有スキルを持ってる人間は危険な人が多いのは事実だからね。出会ったら逃げる。これが鉄則だよ」


「肝に銘じるよ」


 不慣れな世界、それも俺のいた地球とはまったく異なる非常識な出来事が溢れている。勝手分からぬうちはなるべく慎重に行動すべきだろう。


「そー言えば、自己紹介していなかったね。あたしはクルル。よろしくね」


「獅子堂由良だ」


「珍しい名前だね。君、出身はどこの国なのかな」


「よくぞ聞いてくれました」


「おっと、予想外の食い付きだった」


 彼女の話が本当なら、この俺自身も異世界人で、おまけに強力な固有スキルとやらを持っている可能性が高い。


 もし、俺にしかない力があるのだとするのなら、それは早めに知っておきたい。そのためにも今の俺の境遇を理解してくれる人は必要だ。


 これは賭けだ。単なる変人と思われるだけかもしれないし、騙されたり利用されたりする可能性もある。


 だけど俺は直観的にこの少女は大丈夫だと信じられた。


 断腸の思いで受けた施しだが、クルルの瞳からは哀れみの感情は感じなかったし、路頭に迷う俺を卑下たる存在として扱う様子もない。


「まずは聞いてくれ。俺の身の上話を 」


 正直に話せば理解を得られるかもしれない。


 俺は、俺の感覚を信じて 口を開き始めた。



 ――――

 ――

 ―



 語ること数分。


 昨夜から今に至るまでの顛末を一気に語り尽くした俺。喉枯れた。つーか喉が乾いた。


 息切れする俺に気前よく水筒の水を差し出してくれる彼女。この世界の水の衛生面はよくわからないが、喉の悲鳴に耐えかねた俺は好意に甘える。


「ん~、よく分かったよ」


「本当か!?」


 にこやかに頷く彼女。カップ片手に思わずガッツポーズする俺。


 ようやく理解者を得られた。その喜びから自然と声も大きくなる。


 一縷の希望を見いだした俺は昨夜の出来事をかいつまんで伝えた。



 気づけば森の中にいたこと。


 筋肉兎に追い立てられたこと。


 勇猛果敢、それでいて凛然とした少女に救われたこと。


 見覚え、聞き覚えのない街に連れてこられたこと。


 そして、記憶がないこと。



 俺と同じような境遇の人間もいるかもしれない。この猫人からは色々と情報を貰えればありがたい。


「うんうん、見た目はそこそこいいかと思って助けたけど、中身は不思議ちゃんだったみたいだね。残念だなぁ」


「ガッデム!微塵も信じてもらえてねぇ!」


 期待した俺が馬鹿だった。結果は一笑に付されて終わりという結末か!


「アハハ、君はいちいち面白いねー」


 頭を抱えている俺。それを見た彼女はケタケタと笑った。冗談としか受け取られないのなら話さなきゃよかったと後悔する。俺はこの女に確実に変人認定されただろう。


「分かった。俺の話は忘れてくれてかまわない。ただ、俺は異国の地で生きていくためにハローワーク的なものを探す必要がある」


「はろー?なにそれ」


「それも忘れてくれ。そして最後にもう一つだけ頼らせてほしい」


「君、結構厚かましいんだね」


「頼れそうなものは擦りきれるまで頼る。それが俺だ」


「うわぁ、その図太さには感服するよ」


 そんな嫌味もさらっと受け流す。というか、受け止めてたら話が進まない。


「ギルドとやらに行きたいんだが、場所を教えて貰えないだろうか」


 別段変なことをいったつもりないが、クルルは面食らったように瞬きを繰り返した。


「なんだ、ギルドに行きたかったんだ。それならそうと早く言ってよー」


「教えてくれるのか」


「教えるどころか連れてったげるよ」


 ベンチから「よっ」と飛び立って、彼女は柔らかに笑った。朝日を背にしたその笑顔、眠気で曇りきったまなこのせいか、神々しすぎて注視できない。


 神様や、兎の神様がここにおはす。


「善は急げ。というか、のんびりしてたら遅刻しちゃう。早速向かおっか」


「え、ちょっと待って。って速!」


 走り始めた彼女は脱兎がごとく、いや、兎そのものの俊敏さだった。


 追いかけなければ直ぐに見失い、せっかく得られた手がかりも無となってしまう。


「くそ、もう体力残ってねえよ・・・!」


 などと愚痴を漏らしている間にも彼女はどんどんと小さくなって行く。


 俺はやけくその思いで足を動かすことにした。

第2話です。今後、しばらくの間は週1ペース程度で更新できるよう、頑張って行きたいと思います。

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