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前編

初めまして。

作者の『田中 凪』と申します。

小説家志望でまだ未熟者ですが、楽しんで読んでもらえたらと思っています。

「まっすぐこっちに向かってくるね」

「俺たちの事を狙ってるんだろ?」

 魔法少女『ロクシア』と魔王『カウノプロトゥス』は敵を見ていた。

 宇宙からやって来た敵『巨人』は二人を目指して進んで来る。

 巨人の足元には無残に破壊された街が広がっていた。

「怖いか?」

 カウノはロクシアに優しく問いかけた。

「うん、ちょっとね」

 ロクシアは少し震えていた。

 これから始まるのは『人類』の運命をかけた戦いだ。

 怖いに決まっている。

「でも、一人じゃないから平気だよ」

「……そっか」

 ロクシアとカウノは手をつないだ。

 手のひらから互いの体温が交換される。

 それが二人の勇気を奮い立たせた。

「それじゃあ、始めるか」

「うん!」

 カウノをロクシアは魔力を解放した。

 それと同時に二人が一つになっていく。

「ロクシア!」

「カウノ!」

「「合体っ!!」」

 魔法使いと魔物。

 相反する二つの存在が溶け合って、一つになった。

 それが巨人に対抗できる唯一の手段だった。

「「合体・第参形態!!」」

 合体した二人を見て巨人は速度を上げた。

 巨人にとって二人は最優先の標的なのだ。

「「さあ、かかって来いよ」」


 本来、潰しあうはずの魔法使いと魔物。

 それがなぜ、手を取り合っているのだろうか?

 それは、今から一年程前にさかのぼる。


スズランの咲き始めたある晴れた日の事だった。

水溜まりの残る石畳を一人の少女が人間離れした速さで走っていた。

彼女は魔法使いの『ロクシア』

この世界でも珍しい水色の髪をした少女だった。

彼女は魔力の影響で変色した髪を背中まで届くツインテールにしていた。

魔力の影響で変色したのは髪の毛だけではなかった。

彼女の瞳は血のような赤色をしていた。

そんな特殊な髪と瞳のロクシアは持ち物もまた特殊だ。

彼女が持つのは箒や杖ではなく『魔具』と呼ばれる兵器だ。

正式名称『五六式魔導銃剣』と呼ばれる魔法使い専用の武器だ。


「ヤバイ!ヤバイ!!ヤバイ!!!」

ロクシアは仕事に遅刻しそうになって急いでいた。

なぜロクシアが遅刻しそうになっているのか?

それは彼女が寝坊したからではない。彼女は困っている人を放っておけない性分なのだ。

迷子の子供から、溝にはまった馬車まで面倒を見た。

そのせいで、せっかく早起きしたのに遅刻ギリギリになって走る事が珍しくなかった。

今朝だってそうだ。

寮を出発して大通りに出たロクシアは屈強な男が馬車を囲んでいるのを見つけた。

聴いた話によると馬車の車輪が壊れてしまって動けなくなっているとの事だった。

そう言ったトラブルは衛兵に任せるのが一番だったがロクシアはそれが出来なかった。

わざわざ、馬車を通行の邪魔にならない場所まで運んでやったのだ。

魔法使いなら、それくらい苦ではない。

隊商の親方からお礼のずた袋を押し付けられたロクシアは集合場所へ向かった。

そして、その途中で今度はクルミに苦戦するおじさんを見つけてしまった。

クルミはとても固く、専用の道具が必要だったがおじさんはそれを持っていなかった。

それを知ったロクシアはずた袋を置くと指でクルミをパキパキと割ってやった

クルミを割るのは容易だったが、クルミはザル一杯に入っていた。

おじさんは自分の店でクルミを使おうと考えていたのだ。

一個一個はすぐ割れても、ザル一杯となると骨が折れた。

その後も色々と人助けをしてそのせいで今、急いで集合場所に向かっていると言う訳だ。

「遅刻しちゃうっ!!」


ロクシアの後輩の魔法使い『ピニコーラ』は時計を見た。

集合時刻まで残り五分を切った。

「先輩、遅いですね」

彼女は部隊長のフリンギッラに訊ねた。

「そうだね♪」

フリンギッラは同意しつつも明るい口調で答えた。

どんな時でも不気味なくらい余裕があるのは彼女の特徴だった。

「でも、ロクシアちゃんが本当に遅刻した事って無いからすぐ来るよ♪」

フリンギッラはそう言うとベンチに腰掛けた。

「遅刻しないのは良いけど、もうちょっと早く来られないんスかね?」

先にベンチに腰掛けていた魔法使い『カルドゥエリス』はいら立っていた。

彼はこの小隊唯一の男にして自称ロクシアのライバルだった。

そんな彼は事ある毎にロクシアに対抗意識を燃やした。

今朝だってロクシアより早く集合場所に来ようと一番乗りしたくらいだった。

だが、その肝心のロクシアがまだ来ていないのだ。

「おせぇーな、お前。どんだけ待たせる気なんだよ?」

と言う為に早起きしたのになかなか当のロクシアが来ないのだ。

だからロクシアが集合五分前になっても来ない事がいら立たしくて仕方が無かった。

「ちっ!」

立ち上がったカルドゥエリスは小石を彼方に蹴り飛ばした。

するとその方向から激しい足音が聞こえた。

ロクシアだ。

「あ、先輩来ましたね」

ピニコーラが言った。

「ほらね。まだ時間ギリギリでしょ?」

フリンギッラはベンチから立ち上がった。

「……」

カルドゥエリスはロクシアを睨んでいた。

「済みません!お待たせしました」

到着したロクシアは深々と頭を下げた。

「先輩、相変わらずですね?」

「おせぇーな、お前!どんだけ待たせる気なんだよ!!」

「また今回もお土産がいっぱいだね♪ロクシアちゃん」

四人が何度も繰り返したお決まりのやり取りだった。

ようやく『第壱参魔法小隊』がそろった。


ロクシアたちが都を出発して二時間程した頃の事だった。

「隊長、敵はこちらに気付いてないみたいです」

「うん、ありがとう。ピニちゃん」

 ロクシアたちは臨戦態勢に入っていた。


 ロクシアたちの今日の任務は、最近続いた大雨の影響を調査する事だった。

 都を出た時はカルドゥエリスが

「何で『緑の国』の秘密兵器の俺たちがこんな使い走りにされなくっちゃいけないんスか?」

と文句を言ったり、ロクシアが

「誰がいつ新造のこの小隊をそんな風に呼んだのさ?」

とツッコミを入れたりしていた。

 全員戦闘になるとは全く考えていなかった。

 しかし、ロクシアたちが任務に取り掛かろうとしていた時だった。

「隊長、あれを見て下さい!」

ピニコーラが偶然にも魔物を発見したのだ。


魔物とは一口で言えば『正体不明の敵』の事だ。

多種多様な魔物が確認されているが、その全てが積極的に人間を攻撃してくる。

人間に対して明らかな『敵意』を持っていた。

魔物のせいで村が焼け落ちた事もあった。

ロクシアたち『魔法使い』はそんな魔物に対抗するために生み出された強化人間だった。

つまり、魔物と戦うのがロクシアたちの本来の仕事だ。

 雨の影響なんて調べている場合ではない。

ロクシアたちは任務の内容を魔物の討伐に変更した。

「じゃあ、あたしが狙撃するからカルちゃんはあたしの護衛ね」

フリンギッラは部下に指示を出した。

 作戦としてはこうだ。

 まず、フリンギッラが愛用の魔導銃で南から魔物を狙撃する。

 彼女の銃なら三百メートルは届く。

 そして、カルドゥエリスは狙撃手のフリンギッラの護衛役だ。

 ロクシアは魔物の東側に回り込み、止めを刺す役だ。

 魔物の北側は崖になっているから逃げ場は無い筈だ。

 実戦が初めてのピニコーラはフリンギッラの後方で待機だ。

「みんな、作戦開始!」


フリンギッラの指示を受けたロクシアが持ち場に着いて、十分が経過した頃だった。

 フリンギッラの狙撃が始まった。

 狙撃銃から放たれた薄紅色の魔力が魔物目掛けて伸びる。

「(これで決まった)」

ロクシアは確信していた。

だが、そうはならなかった。

 なんと、魔物はフリンギッラの魔力を紙一重でかわして見せた。

 まるでフリンギッラの攻撃に最初から気付いていたかのようだった。

「(まずい!逃げられる!)」

 そう思った瞬間、ロクシアは走り出していた。

 ロクシアに背を向けて逃亡を開始した魔物にロクシアは肉薄した。

 後ろから攻撃するのだから、今度は避けられない筈だ。

 ロクシアは愛用の魔具、五六式魔導銃剣を叩き付けた。

 熊だって即死させる一撃だ。

「(今度こそ当たった)」

 だがまたもやロクシアの予想は外れた。

 魔物は後ろに目が付いているかのようにロクシアの攻撃をかわした。

「(そんな!バカな!)」

ロクシアの攻撃は虚しく地面にめり込んだ。

「バカッ!逃げろ!」

「え?」

 カルドゥエリスが忠告したがもう遅かった。

ロクシアの足元から大きな地響きがした。

ロクシアは一瞬、自分が宙に浮いたように感じられた。

そして、その感覚は自分が落ちているからだとわかった。

 雨で緩んでいた地盤がロクシアの攻撃で滑ったのだ。

 ロクシアはなす術も無く『地面だったもの』と共に奈落の底へと落ちていった。

「ロクシアちゃん!!」

「ロクシアぁぁぁあああ!!」

「先輩!いやぁぁああ!!」

 薄れゆく意識の中、ロクシアの視界には叫ぶ仲間たちが見えた。

「(ああ、これは助からないな)」

 両親、学友、今朝助けてあげたおじさんたち。

 色んな顔が浮かんでは消えた。


「離して下さい、隊長!」

ピニコーラはフリンギッラの手を振り解こうとしていた。

「ピニちゃん落ち着いて!」

「これが落ち着いてなんて居られますか!ロクシア先輩が!!」

 ピニコーラは奈落の底へと落ちたロクシアを助けに行こうとしていたのだ。

「無茶だよ!あたしたちだけで助けに行くなんて」

「でも……でも……」

「大丈夫だよ。ロクシアちゃんなら」

「何でそんな事が言えるんですか!?」

ピニコーラはフリンギッラの方へと振り返った。

「っ!!」

フリンギッラの顔を見てピニコーラは気が付いた。

彼女だってロクシアが心配なのだ。

本当なら今すぐにでもロクシアの元へと駆けつけたいくらいだ。

しかし、自分たちにはそれが出来ないのだ。

ロクシアを救助するための装備も無くたった三人で捜索する。

それがいかに危険な行為か分かっているからだ。

しかも、現場はいつ再び崩れるかもわからないのだ。

隊員一人を救うために部隊全員を危険にさらす。

そんな判断は隊長として許されるはずがない。

「……分かりました、隊長」

ピニコーラは奥歯を噛みしめた。

自分たちがすべき事は一刻も早くこの件を報告して救助隊を出してもらう事。

そう理解したからだ。

「こうなったら、全速力で帰るからね?」

「そう来なくっちゃ」

「了解!」

フリンギッラたちは魔法使いの脚力で風と化して都へと駆けて行った。


フリンギッラたちが去った頃、ロクシアに近づく一つの影があった。

それは、先程ロクシアたちが仕留めようとしていた魔物だった。

「生きてんのか?こいつ」

「まさかお前、こいつを連れて帰ろうってんじゃないだろうな?」

魔物はロクシアを観察しながら誰かと会話していた。

しかし、その場には間違いなくロクシアとその魔物しか居ない。

だが、ロクシアは気絶していた。

半分土砂に埋もれた状態で身体からは血を流していた。

腕は折れてあらぬ方向へと曲がっていた。

ロクシアが会話出来るはずがない。

では、魔物は誰と会話しているのだろうか?

と、思われた時。

魔物の黄緑色の頭頂部がはがれた。

そして、はがれた頭頂部はタコのような一つ目の魔物になった。

いや違う、そうではない。

魔物は最初から二体居たのだ。

つまり、群青色の魔物の上に黄緑色の魔物が乗っていたのだ。

二体の魔物『カウノプロトゥス』と『キクロパッセル』は相談を始めた。

黄緑色の魔物『カウノプロトゥス』はロクシアを救助したいと提案した。

しかし、群青色のガグ『キクロパッセル』は猛反対した。

「自分たちを殺そうとした魔法使いを助けるなんてもってのほかだ」

それがキクロの主張だ。

冷静に考えればキクロの主張の方が至極全うだ。

しかし、カウノは折れなかった。

カウノはやると言ったら必ずやる男だった。

そして、カウノの世話をいつも焼いてやるキクロはそれを知っていた。

結局、キクロが折れる結果となりカウノは虫の息のロクシアを棲み処へと連れて帰った。

その時、キクロはカウノにいくつか条件を出した。

・魔法使いを決して外に出さない事。

・傷が治癒したら元の場所へ戻す事。

・自分たちの秘密を洩らさない事。

・ちゃんと最後まで面倒を見る事。

だった。


この時は誰も気付いていなかった。

魔法使いロクシアと魔物カウノプロトゥス。

相反する二人の出会いが二人の運命を変えると。

いや、二人だけではない。

人類の運命を変えると。


 ロクシアは洞窟の中で目を覚ました。

 最初は真っ暗で何も見えなかったから、失明したのかと思った。

しかし、水滴の音で自分が洞窟に居るのだと判った。

だが、それは同時にある疑問へとつながった。

「(どうして自分は洞窟の中に居るのだろう?)」

そう考えるのは至極当然の事だ。

ロクシアの最後の記憶。

それは土砂崩れに巻き込まれて奈落の底へと落ちていくところまでだった。

誰かに救助された覚えはない。

そして、仮に救助されてもこんな暗い洞窟の中に寝かされている理由が分からない。

ロクシアは起きようとした。

「痛っ!」

 しかし、身体に走る激痛で顔をゆがめた。

 暗くて良く見えなかったが、骨折しているのだろう。

 これでは起きられない。

 しかし『そえ木』がしてあるのが分かった。

 つまり、こう言う事だ。

『何者かが土砂崩れに巻き込まれ負傷しているロクシアをここまで運び手当てした』

 そうとしか考えられなかった。

 だがそれは同時に別の疑問を生んだ。

「(誰が何の為にこんな暗い所へ自分を運んだのだろう?)」

 普通、負傷者を救助したのなら病院に連れて行くものだ。

 最悪、他国に救助されても捕虜として牢屋に入れられる。

 間違ってもこんな洞窟などではない。

 手当をしてくれたのだから多分害意は無いのだろう。

 しかし、あまりにも意味不明だった。

 ロクシアは混乱した。

 分からない事が多過ぎるからだ。

「だ、誰か居ませんか!?」

 ロクシアはたまらず闇に向かって声を掛けた。

 ロクシアの呼びかけが洞窟の中に反響した。

 応える声は無い。

 ロクシアが諦めかけた時。

 ズルッズルッ

と何かを引きずる音が聞こえた。



ロクシアは音のする方を見た。

すると闇の中に一つの大きなピンク色の目玉が現れた。

「!?」

ロクシアはその瞳を見て即座に察した。

相手は魔物だ。

闇の中に魔物が居る。

そして、自分は満足に動く事が出来ない。

最悪の状況だった。

ズルッズルッ

と音を立てながら魔物が迫って来た。

その様を見てロクシアは恐怖のあまり血の気が引いた。

魔物の生態はほとんど分かっていない。

魔物がどんな場所に住み、、どのように増えるのか全て不明だった。

『土の中から這い出して来る』

『流れ星に乗って空から来る』

なんて言う説もあるが、一番ポピュラーな説が

『人間の女をさらって産ませている』

だった。

もちろん、そんな証拠はどこにも無い。

その現場を見たと言う人も居ない。

無知から来る勝手な憶測だ。

しかし、魔物の不気味極まりない姿がそれを連想させていた。

そして、ロクシアもそれを信じている一人だった。

「く、来るなっ!」

 ロクシアは怯えた。

 しかし、ロクシアにはどうする事も出来なかった。

 出来る事と言ったら声を張り上げる事だけだった。

 もちろん、そんな事で魔物が止まるわけが無い。

 一瞬、魔物は動きを止めたがまたすぐに迫って来た。

 ロクシアは絶望した。

 せっかく助かったと思ったのにこんな目に遭うなんて。

 死んだ方がマシだった。

 魔物がロクシアの顔を覗き込んだ。

そして

「どこか痛むところはあるか?」

 と問いかけて来た。

「え?」

 ロクシアはあっけにとられた。

 現状が理解出来なかった。

 まず、魔物に身体の心配をされた事が分からなかった。

 魔物は人間の敵だ。

 それは疑いの余地が無い。

 それがなぜ魔法使いの自分を気遣ってくれるのだろう?

 そして、次に魔物が人語を話している事が分からなかった。

 どちらかと言えば、そっちの方が気になった。

 魔物が人語を話すなんてのは聞いた事が無かった。

 魔物が集団行動する事は分かっていた。

 つまり、何かしらのコミュニケーション能力を持っているのだろう。

 しかし、それが何なのかは不明だった。

『匂いで意思疎通している』

『ジェスチャーで情報伝達している』

等、様々な説が飛び交っていたが

『人語を話している』

なんて主張した人は一人も居なかった。

居るわけが無かった。

怪物が人語を話すなんて言うのはおとぎ話の世界だけだ。

世界中の人がそう思い込んでいた。

だが、この魔物は実際に人語を話すではないか。

「(こんな事、あり得るのだろうか?)」

ロクシアがそんな事を考えていたら

「おい、聴いてるのか?」

 魔物が再び問いかけて来た。

「あ、うん」

 ロクシアは思わず返事をしてしまった。

「(何の話だったっけ?)」

 ロクシアは思い返してみた。

 そうだ、痛いところは無いかと訊かれたのだ。

「……」

 ロクシアは押し黙ってしまった。

「(こんな生き物と話なんてして良いのだろうか?)」

 ロクシアはこの魔物を警戒していた。

 相手の意図が不明だからだ。

「(何が狙いなのだろうか?)」

「(目的は何だろうか?)」

「(魔法使いを助けてコイツに何の得があるのだろう?)」

 それらがハッキリしない状況では、相手が友好的とは判断出来ない。

「……何で黙ってんだ?」

魔物が再び問いかけて来た。

 その声からは敵意や悪意は感じられなかった。

 むしろ『のんき』とさえ言えた。

 実際、カウノ自身も特に何か考えていた訳ではなかった。

 しかし、ロクシアはそんな事は知らない。

「(怪しい奴が馴れ馴れしく話しかけて来る)」

 としか感じなかった。

 そんなロクシアの刺々しい態度を見てカウノは

「まあ、いきなり信用しろって方が無理か」

 と、一つため息を吐いた。

「とりあえず自己紹介するからな」

魔物は敵意が無い事を示す為に、ロクシアに自らの名を明かす事にした。

「俺の名はカウノプロトゥス。みんなは縮めて『カウノ』って呼ぶ」

「よろしくな、魔法使いさん」

 カウノはそう言って笑って見せた。

 しかし残念な事に、その笑みは暗闇の中ではかなり不気味に見えた。

 不気味過ぎてロクシアは思わず顔をそらした。

 この日からロクシアとカウノの奇妙な共同生活が始まった。

 しかし、魔法使いと魔物の生活。

 それは水と油が同じ容器に入れられているようなものだった。

 果たして上手く行くのだろうか?

 ロクシアはカウノに心を開くのだろうか?

 カウノは回復したロクシアに殺されないだろうか?

 本人達には、全く見当もつかなかった。


「ちょっと!触んないでよ!!」

 洞窟にロクシアの声が響いた。

 カウノがロクシアの身体を拭こうとしたのだ。

「でっかい声出すなよ」

「でっかい声出すに決まってるでしょ!?」

 ロクシアの反応は至極当然だった。

 誰だって怪物に身体を触られるなんて嫌に決まっている。

 大きな声の一つや二つくらい出すのが当たり前だ。

 だが、カウノのやろうとしている事も理解出来なくはない。

 ロクシアは怪我人だ。

 それも自力で起き上がれないほどの。

 だから身体を清潔にするために拭いてあげようと考えたのだ。

 不潔なままでは傷にも良くない。

 清潔は医療の基本だ。

「何にも酷い事しないって」

「そんなのどうやって信じるの!」

「目を見れば分か…」

カウノがそこまで言いかけた言葉を

「らない!」

 ロクシアがかき消した。

 ロクシアが魔物であるカウノを信用出来ないのは仕方ない事だった。

 魔物と人間の争いは何世代にもわたって続いている。

 少なくとも二百年は。

 その間に色々な事があった。

 魔物が都市の拡張工事を妨害したり。

 魔法使いが森を一区画切り開いたり。

 魔物が村を焼いたり。

 魔法使いが薬を撒いて木々を枯らせたり。

 正面衝突こそ今まで回避してきたが、両者の溝は深かった。

 そしてそんな悲しみと怒りと憎しみが堆積して受け継がれていった。

 ロクシアも魔物に対する嫌悪感を教え込まれた一人だった。

 洗脳と言っても良いほどだった。

 そんなロクシアがカウノに

「信用してくれ」

 と言われても信用出来るわけが無かった。

 だが、相手の事を良く思っていないのは魔物だって同じ事だった。

 魔法使いに殺された同胞は数え切れない。

 無惨な姿にされた仲間の破片を拾った事は今でも覚えている。

 弔ってやれなかった者も居る。

 住む場所を奪われた事もある。

 その度に安住の地を求めてさまよい、土地を開墾して来た。

 それがまた奪われて苦労が水の泡になる事だってある。

 それでも皆、歯を食いしばって手を取り合ってここまで頑張って来た。

 そんな大切なものをいともたやすく奪っていく魔法使い。

 それが魔物にとってどれほど脅威であるだろうか。

 だが、カウノは魔法使いのロクシアに手を差し伸べずにはいられなかった。

 それは彼が信じていたからだ。

 いつか必ず魔物と人間が手を取り合える日が来ると。

 その理想を語るといつも笑われた。

「現実を見ろ」

「無駄な努力だ」

「そんな事出来るわけが無い」

 聞き飽きた言葉だった。

 カウノ自身も簡単に理想が実現するとは考えていない。

 むしろ自分の代でそれが叶う事は無いかも知れないと考えていた。

 だが、それでもカウノは理想を捨てきれずにいた。

 だからロクシアを助けたいのだ。

「(この魔法使いに心を開いてもらえたら、理想に一歩近づける)」

 そう考えていた。

「もう、あっちに行ってよ!!」

 だが目の前の魔法使いロクシアは頑なに自分を受け入れない。

 身体を拭くだけなら押さえつけてしまえば簡単だった。

 だが、それでは意味が無い。

 そんな事をしたら、余計にロクシアは自分を嫌がるだろう。

 だから、何とかしてロクシアから身体に触れる許可が欲しかった。

 何か取り入る方法は無いだろうか?

 そんな事をカウノが考えている時だった。

 グウウウゥゥゥ……

 と地鳴りのような音がした。

「は?何の音だ?」

 カウノは音の正体を探した。

 するとロクシアの顔が見る見る赤くなった。

 それを見てカウノは全てを察した。

「『飯にしろ』ってか?」

「ち、違う!」

ロクシアは必死に否定したが腹の虫は正直だった。

もう一度食事を催促した。

「分かったよ。まったく、自己主張の激しい奴だな」

 カウノは呆れながら闇の中へと消えた。


 それから二十分くらいしてカウノが姿を現した。

 しかし、今回は一人ではなかった。

 ずんぐりした体格のいい魔物と小柄な魔物をつれて来た。

「紹介する。でかい方が『キクロ』でちっこい方が『クセニ』だ」

 カウノはキクロの頭の上から二人を紹介した。

「あの、初めましてロクシアさん」

「……どうも」

 キクロに挨拶されたロクシアはそう返事するだけで精一杯だった。

 まさか仲間の魔物をつれて来るなんて予想外だった。

「キクロさんも挨拶して下さい」

クセニはキクロを催促した。

「おう……キクロだ……」

 キクロはぶっきらぼうにそれだけ言って後は黙ってしまった。

「ごめんなさいロクシアさん。ちょっと緊張してるみたいなんです」

「ああ、うん」

 ロクシアも緊張していた。

「なんか固いなぁ。お前ら」

「……カウノさん」

「もっと気楽に行こうぜ?」

「すみません」

「ただ飯を食わせてやるだけだろ?」

「はい、そうですよね」

「じゃあキクロ、食べさせてやって」

「……」

キクロは何も言わなかった。

 ただ黙ってロクシアに匙を差し出した。

「……」

 だが、ロクシアはそれを食べようとしなかった。

 こんな得体のしれないものが食べられるわけが無かった。

 彼女は警戒していた。

「別に変なものなんて入ってないよ」

 カウノはロクシアに害意が無い事を示した。

 しかし、ロクシアは口を開けようとしなかった。

 その頑なな態度にカウノは困ってしまった。

「おい、どうしよっか?」

「困りましたね…」

 カウノたちはどうやってロクシアに食事をさせるか相談する事にした。

 身体を拭くの先延ばしにしても良い。

 しかし、何も食べないのは問題だった。

 このままではロクシアの身体がもたない。

 カウノは信用させるために持って来た食べ物をロクシアの目の前で食べて見せた。

 しかし、ロクシアは口を固く閉ざしたままだった。

「もう面倒臭ぇから強引に食べさせちまえば良いんじゃねぇのか?」

 黙っていたキクロが発言した。

「え~。そんな事したらもっと警戒されると思うぞ?」

「バカ野郎、そんな事言ってる場合か」

キクロは時には荒療治も必要だと説明した。

「そんな甘い事言ってたらアイツ餓死しちまうかも知れねぇんだぞ?」

「それはそうかもだけど……」

「アイツが死んじまったら困るのはお前じゃねぇのか?」

 キクロはカウノに現実を見るよう諭した。

「お前の理想の為にはアイツを助ける事が必要なんだろ?」

「それは……そうだけど……」

「大丈夫だ。多少手荒な事をしてもいつかちゃんと気持ちは伝わる」

「キクロ……」

「そうですよ、カウノさん」

「クセニ……」

「今は心を鬼にしてください」

「……」

「カウノ……」

「カウノさん……」

「……分かった」

相談を終えた三人はロクシアを囲んだ。

「え?なに?」

 ロクシアは猛烈に嫌な予感がした。

「許せよ」

 そう言うとキクロはロクシアの鼻をつまんだ。

「!?」

 ロクシアは抵抗しようとした。

 しかし、身体を走る激しい痛みでそれが出来ない。

 今のロクシアには首を振って鼻をつまむ指を外そうとするだけで精一杯だった。

 だがそんな抵抗も無力だった。

「(苦しい~~、息がしたい)」

 ロクシアの身体が酸素を求めていた。

 しかし、その為には口を開けなくてはいけない。

 鼻は今、ふさがれている。

 だが、口を開けるとは得体のしれないの物を食べさせられると言う事だ。

 それは嫌だ。 断じて嫌だ。

 ロクシアは必死に抵抗をした。

 しかし、いくら心で固く決意していても身体までは思い通りに出来ない。

 時間と共に息が苦しくなっていく。

 いくら超人的な身体能力を持つ魔法使いでも、これには耐えられない。

「ぷはぁっ」

 ロクシアは思わず呼吸をしてしまった。

 それしか選択肢が無かった。

 そのわずかに開いた口目掛けてクセニが匙を突っ込んだ。

「むぐっ!」

 ロクシアは口に入れられた魔物料理を吐き出そうとした。

 しかし

「……ごっくん……」

 飲んでしまった。

 だがクセニの匙は止まらない。

 料理はまだ椀に残っているからだ。

 クセニは正確で素早い動きでロクシアに料理を食べさせた。

「(クセニにこんな特技があったなんて)」

 カウノもキクロもそう思わずにはいられなかった。

 それくらいクセニの動きには迷いも無駄も無かった。

 クセニはマシンのように無感情に作業を続けた。

そして、それが終わるのに十分とかからなかった。

「うっぷ、うえっぷ」

 ロクシアは胃の中の物を吐こうとした。

 しかし、そんな事をしても何も出てこなかった。

「すごいな、クセニは」

「大した事じゃないですよ」

「…大した事あると思うぞ?」

「何か言いましたか?」

「いや、ありがとうって言ったんだ」

「とんでもないですよ」

「また頼む事になると思うけど良いか?」

「いつでも言って下さい」

「本当に助かるよ」

「僕の方こそいつもカウノさんに助けられてますから」

 カウノとクセニがそんな話をしている時だった。

 殺気に満ちた視線が三人を睨みつけていた。

 ロクシアだ。

「そんな顔するなよ」

 カウノはロクシアをなだめる事にした。

「仕方ないだろ?」

「……」

 ロクシアは黙ってカウノを睨んでいた。

「……嫌われちゃったな……」

 カウノはため息を吐いた。

「気にするな」

「……キクロ?」

「お前はやるべき事をやったんだ」


ロクシアがカウノたちに世話されるようになってから時がたった。

その間にカウノたちは懸命にロクシアの態度を軟化させようと試みた。

最初、ロクシアの態度は強固なもので刺々しかった。

だが、ここ数日のロクシアは様子がおかしかった。

今が何時頃なのか分からないのだ。

暗い洞窟の中に居るのだからそれも無理のない事だった。

そのせいで自分がここに連れて来られて何日たったのかも分からない始末だ。

唯一彼女に時間を知らせているのは食事だった。

カウノはロクシアに毎日、朝と夕方に食事を与えた。

それがロクシアが時間を知る唯一の手掛かりだった。

その結果ロクシアの体内時計は徐々に狂い始めていた。

人間の体内時計の周期は約二十五時間で地球の周期と約一時間のずれがある。

それを人間は朝日を浴びる事でリセットしているのだ。

だが、今のロクシアは日光を浴びられない状況にある。

体内時計は狂う一方だった。

結果としてロクシアは昼夜が逆転してしまった。

だが、それだけならばまだ救いもある。

本当の問題は別のところにあった。

今のロクシアは思考力が少しずつ無くなりつつあった。

人間にとって日光とは大切なものだ。

どんなに紫外線がお肌の大敵と言われていてもだ。

日光を浴びないと人は脳の機能が低下する。

 正常な判断が出来なくなってしまうのだ。

 そのせいでロクシアの態度に少しずつ変化があった。

「ロクシア、起きてるか?」

「……うん」

 カウノの問いにロクシアは返事をした。

 以前は黙って睨みつけているだけだったのに。

 変化はそれだけでは無かった。

「ほら、食べられるか?」

「……うん」

 ロクシアは差し出された料理を食べた。

 初めての時は無理矢理食べさせられていた物を自分から食べるようになったのだ。

明らかに以前の彼女とは違った。

ロクシアはすっかり魔物に対して抵抗が無くなっていた。

 魔物が居る事が当たり前になってしまったのだ。

「もう、大丈夫みたいだな」

 ニッポニアがロクシアの腕に触りながら言った。

 彼はロクシアの傷の具合を見ていた。

 ニッポニアは魔物界の医者でカウノの顔なじみだった。

「いつも助かるよ、ニッポニア」

「いや、気にするな」

「いつか礼をしなくちゃな」

「私はただ医者として患者を診ているだけだ」

 カウノはロクシアを助けたが、彼だけではロクシアの傷を手当て出来なかった。

 カウノには医学的な知識が足りないからだ。

 そこでニッポニアを頼ったと言う訳だ。

「しかし『魔法使いを診てほしい』と言われた時は何事かと思ったぞ?」

「驚かせた事は詫びるよ」

「こんな事を他の者が知ったらパニックになるぞ?」

 ニッポニアは帰り支度をしながら少し笑っていた。

 彼も最初はロクシアが怖かった。

 ロクシアも最初はニッポニアを拒絶した。

「この事は出来るだけ秘密にしておいてくれ」

 だが、カウノはロクシアを助けたかった。

 深い傷を負ったロクシアを治療出来るのはニッポニアしか心当たりが無かった。

 だから必死に頼み込んだ。

「私も患者の秘密を漏らすような真似はしない」

「助かるよ」

「骨もくっついたようだし、そろそろ立てるだろう」

「本当か?」

「ああ。たまには外に連れ出してやった方が良いだろう」

 ニッポニアは暗い洞窟の中を見回しながら言った。

「こんな環境に患者を寝かせておくのは医者としても看過出来ん」

 そう言い残すとニッポニアは自分の棲み処へと帰って行った。

 彼は実はキクロやクセニと違って遠くに住んでいる。

 だが、往診の為に足を運んでくれるのだ。

「遠いところからわざわざ済まないな」

 カウノはニッポニアを見送ると行動を開始した。

 ニッポニアに言われた通りロクシアに日光を浴びさせるのだ。

 その為には色々と準備しなくてはいけない。


 カウノが準備を始めてから三十分くらいして

「ロクシア、立てるか?」

 カウノはロクシアの名を呼んだ。

 ロクシアは自分の名を魔物に教えてしまっていた。

「うん」

 ロクシアはゆっくりと上体を起こした。

 そして、冷たい岩の上に立った。

「どこか痛いところはあるか?」

「ううん、大丈夫だと思う」

「そうか」

 カウノはその返事を聞いて安心した。

「ロクシア、今から外に案内しようと思うけど良いか?」

「うん、良いよ」

「じゃあ、俺たちの後に着いて来てくれ」

 そう言ってカウノはキクロの頭に這い上がった。

 這いずるしか出来ないカウノの移動はとても時間がかかるのだ。

 だから、たいていカウノはキクロに乗せてもらう。


カウノ・キクロ・クセニ・ロクシアが歩き始めて十分くらい経った頃。

「ロクシア、そろそろ外に出るぞ?」

 カウノの言葉通り次第に周囲が明るくなり始めた。

 それと同時に『暖かさ』を感じる。

「わあぁ……」

 ロクシアは思わず声を出した。

 彼女はそんな感覚をすっかり忘れていた。

 だから、光に少し感動していたのだ。

「急に明るくなるから気をつけろよ?」

カウノがそう忠告した。

「え?」

 しかし、遅かった。

「ぅわっ!」

 ロクシアの瞳に日光が入った。

 外は快晴だった。

 太陽がまぶしいくらい輝いていた。

「目が、目があああぁぁぁ!!」

 久しぶりの強い光にロクシアの目はくらんだ。

 日光が目に染みる。

 滝のような涙が出て来た。

「だから言ったのに」

 カウノはロクシアの様子を見て呆れていた。

 そして、ロクシアの顔を拭いてやった。

「うっわ」

 顔を拭いたカウノは思わず声を漏らした。

 ロクシアの顔の化粧が崩れてぐちゃぐちゃになってしまったからだ。

 実は女性の魔法使いは皆、おしゃれのために濃いめの化粧をしているのだ。

「顔がぐちゃぐちゃになっちまったぞ?」

「これ、もうどっちが化け物かわかんねぇな」

 カウノとキクロはもだえるロクシアを見てそんな会話をした。

 ロクシア本人には聞こえていなかった。

 と言うより、そんな余裕が無かった。

「ロクシア、ゆっくり目を開けてみろ」

 カウノに促されてロクシアは少しずつ目を開いた。

 ロクシアの目に少しずつ外の景色が映る。

 少し目に染みるが徐々に慣れさせた。

「……」

 目を完全に開いたロクシアは絶句した。

 外の景色があまりにも色鮮やかで輝いて見えたからだ。

 実際にはどこにでもあるような森だった。

 カウノたちにとっては別段、変わった様子の無い見慣れた景色だった。

 しかし、暗い洞窟の中で過ごしていたロクシアにとっては感動に値した。

「……どうだ?」

 ロクシアが黙り込んでいるのでカウノは不安になって訊ねた。

「……すごく綺麗……」

 ロクシアはそう答えるので精一杯だった。

「おい、お前ら」

「どうした?キクロ」

「そろそろ昼時だぞ?」

「あぁ、もうそんな時間か」

「急いで用意しないといけませんね」

「分かった、キクロとクセニは行ってくれ。俺はここに居るから」

「大丈夫なのか?お前」

「何が?」

 キクロは頭上のカウノにだけ聞こえる声で言った。

「『殺されないか?』って訊いてんだよ」

「大丈夫だろ?」

「何でそう思うんだよ?」

「もし殺されるなら、今頃三人とも仲良くミンチになってる」

「……それもそうか」

「だから大丈夫だよ」

「だが、くれぐれも気をつけろよ?」

「ヤバくなったらその辺の隙間にでも潜り込むよ」

 そう言うとカウノはキクロの頭から降りた。

「行くぞ。クセニ」

「はい」

キクロについて行こうとしてクセニは一度振り返った。

「カウノさん」

「どうした?クセニ」

「気をつけて下さいね」

「ああ、分かってるよ」

 カウノは呆れながらも優しく答えた。

「何してる?クセニ」

「すみません。今行きます」

 クセニはキクロを追って森に消えた。

「……全く、どいつもこいつも」

 カウノはため息をした。

 自分が魔物の中でも飛び切り貧弱なのは自覚していた。

 しかし、こんなにも心配されるとは思っていなかった。

「(俺ってもしかして信用されてない?)」

カウノはキクロたちの消えた方を見ながらそんな事を考えていた。

「ねぇ……」

「ん?どうしたロクシア?」

「あたしたち、どうしてたら良いの?」

「そうだなぁ……」

 カウノはしばし考えた。

 その辺りを散歩するのはためらわれた。

 魔法使いを『群れ』に引き入れたなんて知られたら大変だ。

 どこで誰が見ているか分からない森を散歩したくない。

 で、あればこの場で何かするのが一番いいだろう。

「じゃあ、少しここでの暮らしについて説明するからな」

「うん」

 それからカウノはキクロとクセニが返って来るまでロクシアに一通りの事を教えた。

 魔物は『群れ』と呼ばれる共同体で生活をしている事。

 群れは世界に八つある事。

 群れにはそれぞれ『魔王』と呼ばれる代表者が居る事。

 他にも色々と教えた。

 ロクシアには、どれもすぐには信じられなかった。

 ロクシアが学校で教えられていた魔物像とカウノが語る魔物像が大きく違ったからだ。

 その中でも一番驚いたのが『魔物が絶滅の危機にある』と言う事だった。

 ロクシアは都の防壁の外には魔物がうようよ居ていくらでも現れると考えていた。

 しかし、実際の魔物は一つの群れに数十人くらいしか住んでいないらしい。

 全世界にも五百人くらいしか生存個体は居ないのだとカウノは言った。

 その他にも衝撃の事実がカウノの口から語られた。

 それを聞いてロクシアの中の魔物のイメージが揺らいだ。

「(ずっと対立しているのに、どうしてこんなに相手の事を知らないんだろう?)」

 ロクシアにはそれが不思議でならなかった。


「じゃあ、みんな座ったな?」

「はい」

 カウノ、ロクシア、キクロ、クセニは昼食を囲んで座っていた。

 昼食は『川魚の串焼き』と『山菜入り汁』だった。

 ロクシアが魔物料理を見るのは初めてだったが想像していたよりもまともだった。

 むしろ美味しそうだった。

 カウノが音頭をとった。

「手を合わせて下さい」

「合わせました」

 一同は感謝の祈りをささげた。

 今から自分たちの血肉となる食べ物に対して。

 そして、それに関わった者たちに対して。

「いただきます」

「いただきます」

 四人は言い終わると勢いよく食事にかぶりついた。

 ロクシアはまず汁物を口に含んだ。

「おいしい」

 ロクシアは思わず漏らした。

 もちろん、都で出されるよな料理に比べるとはるかに簡素な料理だ。

 しかし、最低限の味付けで美味しくなるように工夫がなされている。

 山菜からは丁寧に『アク』が抜かれ、えぐ味が無い。

 それにほのかな塩味がつけられている。

 塩が強すぎないところが良い。

 あくまでもメインは食材の味であって塩はそれを感じやすくするだけ。

 主張し過ぎず、さり気なく脇を固めている。

 その塩のおかげで『ギョウギャニンニク』の味が生き生きとしている。

 季節の訪れを感じる味だ。

 これを作った人の性格が出ていた。

 口の中を潤したロクシアは魚にかぶりついた。

「(これもなかなか)」

 魚の方は豪快な味だった。

 魚は何だろうか?

 ティラピアのように見える。

 火であぶられた魚はあちこち焦げ、香ばしい匂いがしている。

 味付けには塩が振られていた。

 荒く振られた塩はワイルドな味わいで先程の汁物とは対照的だった。

 口に入れた途端は塩の味とお付き合いする事になる。

 しかし、それを噛んでいると魚の味が顔を出す。

 塩の味と魚の味が互いに引き出しあっている。

 そして、塩辛くなった口の中に汁物を運ぶ。

 そうすると、口の中がリセットされる。

 ロクシアは魚と汁物を交互に楽しんだ。

「おいキクロ、塩の使い方が荒くないか?」

「仕方ねぇだろ。俺の手はクセニと違ってこういうのには向いてねぇんだ」

「塩は大切なんだから気をつけろよ」

「分かってるよ、そんな事」

「でも魚の味と良くマッチしてると思いますよ?」

「あたしもこれで良いと思う」

「クセニとロクシアがそう言うなら仕方ないか」

「俺の意見は否定してもこいつらの話は聞くのか?」

「三対一じゃ勝ち目がない」

 四人はそんな事を話しながら食事をした。


 食事が終わって

「さて、次はどうしようか?」

 カウノが切り出した。

「そうですね。僕たちがここに居ますから、次はカウノさんが行って来たらどうですか?」

「え?」

 クセニの提案にキクロは少しこわばった。

 実は、キクロはまだ少しロクシアが怖かった。

 ロクシアはその気になれば腕一本でキクロをねじ伏せられるのだ。

 怖いのも無理もない。

 しかし、カウノとクセニはそんな事は知らない。

「良いのか?」

「はいっ」

 クセニは良い返事をした。

「カウノさん、ずっとロクシアさんに付きっ切りでしたから」

「ありがとう、二人とも」

「いえ、気にしないで下さい」

 キクロは何も言っていないのにどんどん話が進んだ。

「お、おい。ちょっと待て!」

「どうした?キクロ」

「『どうした?』じゃねぇ」

 キクロはたまらず声を荒げた。

「クセニ、お前本気で言ってるのか?」

「……はい……?」

 クセニにはキクロの質問の意図が分からなかった。

 クセニはロクシアには危険はないと判断していた。

 正確にはロクシアを信じるカウノを信じていた。

 だから、クセニにはキクロが何を心配しているのかピンと来なかった。

「いや、だからな……」

 キクロには上手い言葉が出てこなかった。

 まさかロクシア本人が居る前で

「コイツと一緒に居て大丈夫なのか?」

 とは言えなかった。

 かと言ってキクロには自然な形でカウノとクセニを連れ出す器用さも無い。

 結局、キクロは

「いや、何でもないんだ」

 そう言う事しか出来なかった。

「変な奴」

「お前には言われたくねぇ」

「嫌だったら変わってやるけど?」

「……いや、大丈夫だ」

 そう言いながらキクロは『九人の女神』に祈った。

「そうか?ならお言葉に甘えさせてもらうけど」

 そう言いながらカウノはロクシアの方を見て

「ロクシア、大人しく待ってるんだぞ?」

 その言い方はまるで兄が妹に言い聞かせるようだった。

「分かってるよ、そんな事」

 そんなやり取りの後、カウノは森へと這って行った。


 ちなみに、残されたキクロとクセニだったが特に何もなかった。

 ロクシアが暴れる事も無かったし、群れの仲間に発見される事も無かった。

 いたって穏やかな午後が過ぎて行った。

 最初、嫌々だったキクロもロクシアの面倒を良く見ていた。

 その様子を見てクセニは安心した。

「(これならトラブルも無く、何とかやっていけそうだ)」

 そう感じていた。

 ロクシアが魔物と生活するようになって数か月がたった。

 森の様子は日々変化し、山桜が散り菖蒲が花を咲かせていた。

 気候も曇りや雨の日が増えて来た。

 森が一年で一番成長する時期が来たのだ。

「ロクシア『ヤマメ』が獲れたぞ」

 カウノは湖のほとりで火の番をするロクシアに獲物を見せびらかした。

 カウノの本職は『素潜りの漁師』で川魚専門だ。

 彼は水中でも呼吸が出来るし水泳も得意だからこの職はうってつけだった。

「おいしそう、さばいちゃうね」

 そう言いながらロクシアは魚を受け取った。

 最初は鱗の取り方も知らなかったのに大した成長だ。

 ロクシアはすっかりカウノと普通にやり取りするようになっていた。

「俺、もう少し潜って来るから」

 そう言ってカウノは水の中に潜って行った。

 キクロとクセニがやって来るからその分も用意しておきたいのだ。

 魔物は自分の獲物を決めて行動し、それらを持ち寄って食事を作る。

 クセニは山菜専門でキクロは獣を獲る猟師だ。

「良い匂い」

 魚の焼ける匂いが立ちのぼる。

 パチパチと薪のはじける音がする。

 焚き木で魚を焼くロクシアはさながら『ソロキャン』だった。

「お、良い匂いがするじゃねぇか」

 匂いに誘われてキクロが姿を現した。

 手には『鹿の干し肉』が握られている。

 この時期は獣たちにとって子育ての大切な期間だから無暗に獲れないのだ。

 だからキクロは鹿や猪の子供が大きくなる時期を狙って行動する。

 手に持っているのは去年作った保存食だ。

「いらっしゃい」

 ロクシアはキクロに挨拶した。

 最初こそ距離を取って互いにけん制し合っていた二人だが、その関係もだいぶ変わった。

 共に過ごすうちに、ロクシアもキクロもお互いに危険な存在ではないと理解した。

「おう、火の番ご苦労さん」

 だから今ではこうして普通に挨拶が出来る。

 挨拶が済むとキクロは火のそばに座って肉をあぶり始めた。

「最近どうだ?」

「まあまあ、かな?」

「夏になったら死ぬほど忙しくなるぞ」

「死ぬほど?」

「ああ、俺たちは夏と秋で冬を越す準備をするからな」

「冬は何も獲れなくなるって事?」

「『何も』って訳じゃねぇがほとんど獲れなくなる」

辺りに肉が焼ける匂いが広がり始めた。

さっきまで乾燥していた肉の表面にジュウジュウと油が浮いて来た。

キクロは肉を裏返しながら話を続けた。

「だから、あんまりさぼってると『キリギリス』みたいになっちまう」

 キリギリスとは有名な童話に出て来る遊び人だ。

 夏や秋の間、ろくに働きもせず自堕落に遊んでいる。

 そして冬になると食べ物が無くなり飢えてしまうのだ。

「あ、今日はここに居たんですね」

「おう、クセニじゃねぇか」

「いらっしゃい」

「お二人とも、お疲れ様です」

 そう言いながらクセニはロクシアとキクロに近づいて来た。

 手には『ウワバミソウ』や『姫竹』が抱えられていた。

 クセニはキョロキョロと辺りを見ながら訊ねた。

「カウノさんはどうしたんですか?」

「今、潜ってるよ」

 ロクシアは湖を指さした。

「もう一尾くらい欲しいんだろ?」

「そうでしたか」

 クセニは腰を下ろして鍋に水を汲んだ。

 山菜を茹でる為にお湯を沸かすのだ。

 クセニの作る汁物は素朴な味わいがあった。

「……クセニのその鍋、どうやって手に入れたの?」

「これですか?これはですね……」

「いわゆる『略奪品』ってやつだ」

「キクロさん」

「お前の口からじゃ言いにくいだろ?」

「略奪品……」

「勘違いするなよ。俺たちだって好きでやってる訳じゃねぇ」

 キクロはロクシアに魔物の置かれている状況を説明した。

「俺たちが住める場所は森の中でも多くないんだ」

「僕たちは川沿いにしか住めないんです」

「ああ、しかも熊が出ない場所じゃないといけない」

「僕たちは一人じゃ熊に対処出来ないんです」

 魔物は以外にも非力な生き物だ。

 それぞれの力は人間とそう変わらない。

 熊なんてとても対処出来ない。

「だから僕たちは一度住む場所を追われると大変なんです」

「そうだ。だから縄張りを守る為に必死なんだ」

 しかし、人間はそんな事は知らない。

 だから自分たちの都合で森を切り開こうとしてしまう。

 その結果、魔物から攻撃されてしまう。

「なるほど」

 ロクシアはその説明を聞いて納得した。

 魔物が襲撃するのはほとんどが開拓民の村か行商人のキャラバンだ。

 都への攻撃は歴史を紐解いても数えるほどしかない。

 今、その理由が分かった。

 彼らは何も戦いたくて戦っているのではない。

 皆、日々の平穏を願って生きている。

 そして、だからこそ戦っているのだ。

「だから……俺たちが持ってる『略奪品』の事は……」

「大丈夫だよ、別に責めたりしないよ」

 ロクシアは優しく声を掛けた。

 ここ数ヶ月の生活でロクシアは魔物に情が移りつつあった。

 助けてくれた恩を感じていると言うのもあった。

 しかし、それ以上に困窮する魔物の姿を見ていると手を差し伸べたくなる。

「(このか弱い生き物の為に何かしたい)」

 そう考えつつあった。

 だから、魔物が生活を守る為に人を襲いその結果としていくらかの品を手にする。

 それくらい大して問題ではないと思った。

 むしろ、人間の側に問題があるとさえ感じていた。

 ロクシアがそんな事を考えていた時、水面が揺らいだ。

「ふぅ~~~っ」

 カウノが顔を出した。

 触手には二尾目の『ヤマメ』が握られていた。

「やっとご帰還か」

「待ってたんですよカウノさん」

「おうキクロ、クセニ。来てたのか」

「ああ、邪魔してるぜ」

「カウノさんも寒かったでしょう。さ、こちらへ」

「よいしょっと」

 カウノは陸へと上がった。

「あ~旨そうな匂い」

 カウノの鼻腔に魚と干し肉が焼ける匂いが入って来た。

 お腹の空く匂いだ。

 カウノはロクシアに魚を渡した。

「ロクシア、こいつも焼いてくれ」

「分かったよ」

 ロクシアは慣れた手つきでそれをさばくと火にかけた。

 太陽は南中していなかったが、四人は食事にありつく事にした。

「手を合わせて下さい」

「合わせました」

 一同はお決まりの合掌をした。

「いただきます」

「いただきます」


「ロクシア、これから時間あるか?」

 食事が終わってカウノはロクシアに質問した。

「あるけど何で?」

「ちょっと会わせたい相手が居るんだ」

「?」

「キクロ、クセニ」

「何だ?」

「何ですか?」

「ちょっと頼みがある」

「良いか?呼ぶまで隠れてろよ?」

「分かってるよ」

 カウノが『隠れてろ』と言うのはもう三回目だ。

 流石にロクシアも聞き飽きていた。

「(何をする気なんだろう?)」

 ロクシアにはカウノの意図が分からなかった。

 食事が終わった後、カウノはキクロとクセニに何か指示を出していた。

 その指示を聞いてキクロの顔色が変わったのをロクシアは見ていた。

 何かヤバい事をする気なのだろう。

 だが、何をする気なのかまでは見当がつかなかった。

 ロクシアがあれこれと考えていると、足音が聞こえて来た。

 それも一つや二つではない。

「(これから、何が起こるんだろう?)」

 ロクシアは不安になって来た。

「あら、魔王さん」

「やあ、マジョーおばさん」

 カウノは『マジョーおばさん』なる者と話をしている。

「(は?今、何かおかしくなかった?)」

 だが、ロクシアには何か引っかかるものがあった。

 マジョーおばさんは今、確かに

「魔王さん」

 と言った。

 そして、それに応えたのはカウノだった。

 話の流れから察すると

『カウノ=魔王』

 と言う事になる。

「(はぁぁぁあああ!?)」

 ロクシアは驚きのあまり声を出しそうになった。

『魔王』とは読んで字のごとく『魔物の王』だ。

 ロクシアたち魔法使いは魔物を統率する存在が居るだろうと考えていた。

 そして、便宜上それを『魔王』と呼び必死で手掛かりを探して来た。

 それがまさか毎日接している歩く事も出来ない魔物とは思ってもみなかった。

 ロクシアの驚きは計り知れなかった。

 そんなロクシアの驚きとは裏腹に魔王カウノとその眷属たちの会話は穏やかだった。

 まるでご近所さんと話しているみたいだった。

「どうしたんだい?急に呼び出したりして」

「うん、ちょっと紹介したい奴が居るんだ」

「あら、ガールフレンドかい?」

「違うよ。だいたい俺『許嫁』が居るし」

「あら~」

「『あら~』じゃなくって!」

「あらあら~」

「もう!話が進まないだろ!?」

「それで紹介したい人って誰なんだい?」

「それが……その……」

「なんだか歯切れが悪いね~」

「みんな、驚くと思うんだけど……」

「?」

「俺……実は……」

 カウノは数秒間、言葉に詰まった。

 しかし、意を決して真実を話した。

「魔法使いと暮らしてるんだぁぁぁあああ!!」

「……知ってた」

「えええぇぇぇーーー!!」

「いやぁ、隠してるのかなって思って黙ってたんだ」

「全然、隠せてなかったけどね」

 カウノが絶叫する反面、住民の反応は穏やかだった。

「さっきから後ろに隠してる子でしょ?」

 それどころかすべて見抜かれていた。

「ほら、そんなところに隠れてないで出ておいで」

 そう言われて、ロクシアは魔物たちの前に姿を現した。

「……」

 ロクシアは黙っていた。

 こんなにたくさんの魔物を見たのは初めてだった。

 緊張していたのだ。

「初めまして、魔法使いさん」

 マジョーおばさんがロクシアに語り掛けた。

 その声は見た目とは裏腹にとても優しかった。

「あたしはマジョーって言うんだ」

 マジョーおばさんの挨拶が済むと隣に立っていた魔物が続いて自己紹介した。

「初めまして。僕は『ルスキニア』って言います」

 ルスキニアなる魔物は中腰になってロクシアに話しかけて来た。

「君の名は?」

「えっと……」

 ロクシアは少しどもったが

「ロクシアです。初めまして」

 何とか自己紹介が出来た。

「ロクシアさんか、良い名前だね」

「そうですか?」

「うん。覚えやすいし響きも良い」

「ありがとうございます」

「うん、これからよろしくね。ロクシアさん」

「はい。よろしくお願いします」

 カウノはその様子を見て

「(ただの杞憂だったな)」

 と反省した。


 それからロクシアが群れに馴染むのには時間はかからなかった。

「おばさん、おはようございます」

「あら~ロクシアちゃん、おはよう」

 ロクシアとマジョーおばさんが互いに挨拶を交わした。

 もうすっかり二人は打ち解けていた。

 正直、カウノの方が群れに馴染むのに時間がかかった。

 カウノの為にキクロが何度も手を焼いた。

 それから比べたら、ロクシアのコミュニケーション能力には驚かされる。

「それ、私が持ちますね」

「良いよ、そんな事しなくて」

「遠慮しないで下さい」

 そう言うとロクシアはマジョーおばさんから『壺』を取り上げた。

 壺の中にはおばさんが春に集めたハチミツが入っていた。

 おばさんは魔物の養蜂家なのだ。

 魔物の間ではハチミツは貴重な品だった。

「そこまで言うなら、お願いしようかね」

 おばさんはロクシアに壺を預けた。

「ロクシアちゃんは働き者だね~」

「そんな事ありませんよ」

 ロクシアは受け取った壺を大事そうに抱えた。

 魔法使いにとっては大した重さではないが、これが大切なものと言う事を知っていた。

「私こそいつもお世話になってますし」

「『お世話』なんて、助け合うのがあたしたちの流儀だから」

おばさんとロクシアは群れに向けて歩き出した。

おばさんは群れのはずれに蜂を飼っている。

群れから離れるのは、魔物にとっては危険な事だった。

「それにロクシアちゃんが来てからこっちも助かってるし」

 実際、ロクシアの功績は目覚ましかった。

 岩を除けたり倒れた木を片づけたりと力仕事で彼女の右に出る者は居なかった。

 害獣駆除でもロクシアは力を発揮した。

 その結果、カウノが治める『第四の群れ』では穏やかな時間が流れていた。

「魔王さんがロクシアちゃんを連れ込んでるって知った時はそりゃ驚いたよ」

 魔王とはロクシアの同居人のカウノの事だ。

 カウノは先代の魔王に名指しで魔王に任命されたのだと言う。

 その時、カウノはまだ新米で群れ中が不安に包まれたらしい。

「でも、こうしてロクシアちゃんがあたしたちの為に頑張ってくれるのを見てるとあの人の判断は正しかったんだなって思うの」

「ええ、私も感謝してます」

 ロクシアはお世辞ではなく、本当にそう思っていた。

 カウノは敵であるにも関わらず負傷した自分を助けてくれた。

 自分の命の危険を顧みずにだ。

「あ、群れが見えて来たよ」

 おばさんが前を指さした。

 そこには大小様々、色とりどりの魔物が集まっていた。

 カウノもキクロもクセニも居た。

 皆、寄り添いあって生きているのだ。

 ロクシアは魔物たちを見ながらこう考えていた。

「(あたしが、このか弱い生き物を守らなくては)」

 ロクシアの胸の内には使命感のようなものが宿っていた。

それから少し時間が流れた。

 雨がちだった天気は連日、晴れになり刺すような日差しが照り付けるようになった。

 そんなある日

「おい、どんな様子だよ」

「また来てますね」

 キクロとクセニは木陰から様子をうかがっていた。

 視線の先には、魔法使いが三、四人うろついていた。

 魔法使いを見かけるようになったのは、ここ最近の話ではない。

 もう何か月も前からだった。

 それこそ『カウノがロクシアをつれて来た頃』からだった。

「探してるんだろうな」

「え?」

「ロクシアをだ」

 そう、魔法使いたちはロクシアを捜索しているのだ。

 魔法使いは国の切り札だ。

 魔法使いの数がその国の軍事力を決めると言っても過言ではなかった。

 だから、ロクシアの故郷『緑の国』は彼女を見つけるために捜索隊を派遣して来た。

 だが、いくら探してもロクシアは発見出来なかった。

 まるで消えたかのようだった。

 それもそのはずだ。

 ロクシアはカウノが連れて行ってしまったのだから。

 そうとは知らない魔法使いたちは懸命の捜索を続け、徐々に範囲を拡大しつつあった。

 そして、その捜索の手はカウノたちが住む『第四の群れ』に近づいていた。

「まずいぞ、このままじゃ」

「急いでカウノさんに知らせましょう」

 キクロとクセニは早速、この事をカウノに知らせた。


「と言う訳なんだ、カウノ」

「そうか」

 キクロとクセニから話を聞いたカウノは唸った。

 こうなる事は最初から予想はついていた。

 しかし、こんなにも早くに魔法使いが迫って来るとは想定外だった。

 そして、何か有効な手が打てていた訳でもなかった。

「何で悩んでるの?」

「ロクシア?」

「こんなのあたしが帰ればそれで終わりじゃん」

「話はそんなに簡単じゃない」

「どうして?」

「お前はかれこれ三ヶ月以上ここに居る」

「だから?」

「どうやって三ヶ月間も生活して来たんだ?」

「それは……」

「間違いなく連中はそれを確認しようとするだろう」

「そんなの『自力で何とかした』って言えば良いじゃない」

「腕が折れてる奴がどうやって瓦礫から這い出して手当するんだ?」

「そ、それは……」

「しかも医者さながらの」

 ロクシアは答える事が出来なかった。

 カウノの言う通りだった。

 自分一人の力だけで生きていくなんて絶対に無理だ。

 それはロクシア自身が一番分かっていた。

 そして、そこを質問されたらきっとボロが出る。

 結局、カウノがロクシアとかかわった時点ですでに後戻り出来ないのだ。

 ロクシアは悩んだ。

「(この群れを救うにはどうしたら良いんだろうか?)」


ロクシアが明確な答えが出せないまま数日がたった。

 そんなある日、見慣れない魔物がカウノのもとを訪ねた。

 カウノがとっさにロクシアを隠したから騒ぎにはならなかった。

 見慣れない魔物はカウノと二、三やり取りをしてから『木の板』を手渡した。

 ロクシアは魔物が見えなくなるのを待ってからカウノに訊ねた。

「それ、何?」

 カウノは一つため息を吐いてから答えた。

「召喚状だ」

「召喚状?」

「そうだ『魔物の評議会』のな」

「何?それ」

「ロクシアさんはカウノさんがこの群れの『魔王』だとご存知ですよね?」

カウノの脇に控えていたクセニがロクシアに確認した。

「うん、知ってるけど?」

「そして世界に『群れ』は八つあるんです」

「あ~、なるほど」

 ロクシアはそこまで言われて理解した。

 クセニは説明を続けた。

「そうなんです。それは魔王が一堂に集まる集会の召喚状なんです」

「じゃあ、カウノはその集会に行かなくちゃいけないの?」

「ああ」

 カウノは召喚状をぞんざいに放り投げた。

「今回の議題は多分『お前』だと思うからな」

「あたし?」

「そう、お前」

 カウノはロクシアを触手で指さした。

「どうせ誰かがうっかり漏らしたんだろう」

 そう言うとカウノはもう一度大きなため息を吐いた。

 ロクシアには覚えがあった。

 カウノがロクシアを群れの仲間に紹介した時の事だ。

 カウノはそれまでロクシアの事をひた隠しにしてきた。

 にもかかわらず、ロクシアの存在は周知の事実になっていた。

 魔物の世間で隠し事をするのは難しいらしい。

 だから、仮によその群れにロクシアの事が知れ渡っていたとしても不思議ではなかった。

 ロクシアは妙に納得していた。

「面倒臭いなぁぁぁあああ!」

 カウノは心底嫌そうだった。

「そんなに嫌なところなの?評議会って」

「嫌な奴が居るんだよ」

「そう言う事か」

「それにあの会場、遠いんだよ」

「だから行きたくないのか」

 ロクシアは文句を垂れるカウノをしばし見ていたが

「その評議会ってあたしも言った方が良い?」

 不意にとんでもない事を口走った。

「え?」

 カウノは間の抜けた声を出した。

 あまりにも予想だにしない提案だったからだ。

「だってほら、あたしの話をするんでしょ?」

 ロクシアはカウノが投げ捨てた『木の板』を拾い上げた。

「だったらあたしも一緒に行った方が話がスムーズに進むと思うの」

 板には下手くそな字で召喚状の文面が掘られていた。

 そして、その中に

「貴殿の拾得物について詳しい説明を求む」

 とあった。

「それにほら、あたし走るの早いし」

 確かに魔法使いの足なら、いつもの何倍も早く会場に到着出来る。

 ロクシアの提案は悪い話ではなさそうだ。

 だが

「う~ん」

 カウノはなかなか承諾しなかった。

触手で腕組みしてうんうん唸っていた。

「何が不満なの?」

「不満って言う訳じゃないんだが……」

「じゃあ、何よ?」

「正直、来て欲しくない」

「何でさ!?」

「お前が来るとややこしい事になりそうな気がするから」

「あたしが暴れるって言いたいの?」

「そうじゃあない」

「違うなら何なの」

「お前が来るとまともに話を聞いてもらえなくなる気がする」

「だがカウノよぉ」

「ん?何だ?キクロ」

「実際にロクシアを見せてやった方が連中も納得すると思うぞ?」

「確かにその方が早いとは思うけど……」

「カウノさん、僕もその方が良いと思います」

「クセニまでそんな事言うのか?」

「多分、七人の魔王様もそれが目的でカウノさんを呼んでるんだと思います」

「う~ん……」

 それから一週間ほどしたある朝。

「じゃあ、行ってくるから」

「行ってらっしゃい。カウノさん。ロクシアさん」

「留守は任せとけ。お前らは安心して行ってこい」

「ああ、行こうロクシア」

「うん、つかまって」

 ロクシアはカウノに右腕を差し出した。

「じゃあ、失礼して」

 そう言ってカウノはロクシアの右腕をつたって彼女の背中にしがみついた。

 一応、これで『おんぶ』のつもりらしい。

「ロクシアさん、カウノさんの事をよろしくお願いします」

「大丈夫。あたしがちゃんと送り届けるから」

「大丈夫だクセニ。こいつに任せておけば」

「はい、きっと無事に戻って来て下さいね」

「じゃあ、行ってきます」

 そう言い残すと、ロクシアは走り出した。

「ぬぉぉぉおおお!」

 カウノはあまりの速さに悲鳴をあげた。

 ロクシアは決して強い方の魔法使いではない。

 階級も『四級魔法使い』で平凡な魔法使いの一人だった。

 だが、それでも常人と比べれば桁違いの身体能力を持っていた。

 そんなロクシアの速さにカウノが驚くのも無理は無かった。


 ロクシアが走り出して五十分が経とうとした頃。

「あ、あの~。ロクシアさん?」

 カウノの弱々しい声が背中から聞こえた。

「何?カウノ」

「少し休憩しよう」

 ロクシアは立ち止まった。

「あたし、まだ疲れてないよ?」

「酔った」

「へ?」

「俺が酔ったの」

 そう言いながらカウノは力なくロクシアの背中から降りた。

 なるほど、見てみると気分が悪そうだ。

「うえぇぇぇ。気持ち悪い」

 カウノが乗り物酔いするのも無理は無かった。

 ロクシアは高速で縦横無尽に動き回った。

 木から木へ跳び移った事もあった。

 そんな事をされたら誰だって酔う。

 少なくとも魔法使い以外は

「大丈夫?」

「しばらく休んでれば大丈夫だと思う」

「吐きたいの?」

「そこまでじゃない」

 ロクシアたちは、その場でしばし足止めを食う事となった。

 群れから出て一時間も経っていなかったが、もう半分は来ていた。


「大丈夫?」

「あんまり」

 カウノはしばらく風に当たっていた。

 そんな時、木陰から大きな獣が姿を現した。

 熊だ。

「……」

「……」

 カウノと熊はにらみ合っていた。

 熊に遭遇したら下手に刺激してはいけないのだ。

 魔物は熊と戦って勝てない。

 だから、カウノは熊を脅かして逃がす方法を考えていた。

 しかし、状況は急変した。

「はっ!」

 ロクシアが熊目掛けて走り出した。

 そして、一瞬で間合いを詰めたロクシアは熊の脳天に魔具を振り下ろした。

 次の瞬間、熊の頭が『五六式魔導銃剣』によって叩き潰された。

 辺りに熊の頭の破片が飛び散った。

 間違いなく即死だ。

 ロクシアの水色の髪が返り血によって赤く染まった。

「よしっ!」

 ロクシアは熊の亡骸を見てガッツポーズをした。

「『よしっ!』じゃねーよ」

 カウノはそう突っ込まずには居られなかった。

 魔法使いの戦闘能力が高い事は分かっているつもりだった。

 しかし、まさか熊を一撃で肉塊に出来るほどとは思っていなかった。

 カウノは、キクロやクセニがロクシアの事を最初恐れていた理由が今さら分かった。

 ロクシアがその気になれば、第四の群れは一夜で壊滅するのだ。

 かつて、第七の群れがそうであったように。

「どうしたの?」

 ロクシアは不思議そうにカウノに訊ねた。

 彼女は自分がどれほど恐ろしい事をしたのか分かっていないのだ。

 こんな危険な人物を、今から魔王たちに紹介しなくてはいけないのだ。

 魔王たちの反応が目に浮かぶようだった。

 カウノは頭が痛くなった。


一休みした後、カウノを背負ってロクシアは再び走り出した。

 今度はロクシアも少し速度を緩めて走った。

 カウノも今度は酔わなかった。

 そして、ロクシアがカウノの指示に従って五十分ほど走るとそれは見えて来た。

 ロクシアはこんな物を見た事が無かった。

 それは、一見すると小さな丘に見えた。

 しかし、コンクリート製の扉が取り付けてあった。

 明らかに人工物だ。

「ここ、何?」

 ロクシアは思わず、カウノに訊ねた。

 こんな大掛かりな建造物を魔物が造れるわけが無い。

「古代遺跡だ」

 カウノは答えた。

 古代遺跡。

 ロクシアはその単語を聴いた事があった。

 確か、古代の高度な文明を持つ人々が築いたとされる建造物の総称だ。

 遺跡には優れた科学が眠っていて、それを解析すると文明が飛躍的に進歩するらしい。

 ロクシアたち魔法使いの身に着けている装束や魔具などの装備もその恩恵を受けている。

 その為、古代遺跡の発掘調査には多額の費用が出されいているらしい。

「ここで評議会があるの?」

「そう言う事だ」

 そう言ってカウノはロクシアに壁の一部を指した。

「あれを倒して欲しいんだ」

「あれ?」

 ロクシアはカウノの示す方を見た。

 見るとそこには長さ一メートルくらいの金属製の棒が生えていた。

 棒は黒と黄色のしましまで装飾してあった。

「(この模様は何の意味があるんだろう?」」

 そんな事を考えながら、ロクシアは棒を倒した。

 すると、コンクリート製の扉がスライドして道が出来た。

「……」

 ロクシアは開いた口がふさがらなかった。

 こんな仕掛けは初めて見た。

「さ、入るぞ」

 カウノはロクシアに中を進めた。

 中は意外と明るかった。

 壁や天井、床がぼんやり光を放っているのだ。

「ここ、入って大丈夫?」

 ロクシアは少し怖かった。

「何度も来てるから大丈夫だよ」

 カウノはロクシアを安心させるために優しく語り掛けた。

 ロクシアはカウノに促されて中を進んだ。

 それから五分ほど歩くと、行き止まりになった。

「先に俺が入って事情を説明するから、お前は後からおいで」

 そう言ってカウノは行き止まりに向かって這って行った。

 そしたら何と言う事だろうか。

 金属の壁がスライドして通路が出来た。

 どうやらこの建物にはスライドする壁がいくつもあるらしい。

 ロクシアにとってここは驚きの連続だ。

 カウノはそのまま、中へと入って行った。

「……」

 ロクシアはそれを黙って見守っていた。

 カウノが通り過ぎると、壁が再び動いて行き止まりに戻った。

 それから十分ほど経過した頃だろうか。

「ロクシア、入って来て」

 中からカウノの声が聞こえた。

 ロクシアは恐る恐るカウノがさっきしたように壁に向かって進んだ。

 すると、さっきと同じように壁が動いて通路が出来た。

 どうやら、この壁は誰が相手でも動くらしい。

 中からは光が差していた。

 ロクシアは意を決して中へ入った。

 中は十畳くらいの四角い部屋になっていた。

 壁も床も天井も汚れている点を除けば白かった。

 中央には大きなドーナツ状の卓が一つ置いてあり、椅子が九脚据えられていた。

 椅子にはそれぞれ、魔物が座りカウノも席についていた。

 なるほど、この八体の魔物が『魔王』と言う訳か。

「……」

 魔王たちは黙ってロクシアを凝視していた。

 それこそ穴が開くほどに。

 ロクシアは猛烈に居心地が悪かった。

 こんな気分になったのは面接の時以来だ。

 ロクシアがそんな事を考えていた時だった。

「……お終いだ」

 魔王の一体がそう言った。

 その一言を皮切りに、魔王たちは絶望に包まれた。

「もうダメだ」

「こんな事あってたまるか」

 魔王たちは口々に悲鳴をあげた。

 だが、これが通常の反応だった。

 窓も無く出入り口は一つだけの部屋。

 そこに熊をも瞬殺する相手が仁王立ちで居るのだ。

 その恐怖と絶望は想像を絶するものだろう。

「……」

 ロクシアはどうする事も出来ず、立ち尽くしていた。

 と、その時

「終わり?違うな。始まったんだ」

 魔王の一体がそう呟いた。

 彼の名は『コルムバ』と言い、第六の魔王だ。

 今回の評議会を開催したのは彼だった。

 コルムバは続けた。

「強力な武器を手に入れたんだ!」

 コルムバはロクシアを指さした。

 ロクシアは少しムッとした。

 だが、コルムバは気付かずに続けた。

「そいつをよこせ!そいつの力で奴らに目に物を見せてやる!!」

「コルムバ、彼女は俺の客だ」

 カウノはコルムバを戒めた。

 その声にはどこか怒りが感じられた。

「ぬるい事言ってんじゃねぇよ!」

 コルムバは立ち上がった。

「魔法使いは『兵器』なんだよ!」

 コルムバは語るうちに徐々にヒートアップしていった。

「兵器は飾って楽しいコレクションじゃねぇ!使って初めて意味が有るんだよ!」

「武器は使う事が全てじゃないし、重ねて言うが彼女は兵器じゃない」

 カウノは決してコルムバの意見を認めようとはしなかった。

 過激派のコルムバと人間との共存を模索するカウノ。

 正反対の二人の意見が対立するのは当然だった。

「てめぇ!」

 コルムバはカウノに詰め寄った。

 その時、一体の魔物が両者の間に割って入った。

 それはいつぞやの『ニッポニア』だった。

彼は魔物界で数少ない医者だ。

 そして、カウノの治める『第四の群れ』の隣にある『第五の群れ』の魔王だった。

 ロクシアは彼を知っていた。

 なぜなら、ロクシアの傷を治療したのはニッポニアだったからだ。

「どけ!ニッポニア」

 コルムバはニッポニアを睨んだ。

「落ち着いて下さい」

 しかし、ニッポニアは動じなかった。

 とても静かで落ち着いていた。

「私たちは争うためにここに集まったわけではありません」

「そこに居る骨なし野郎が悪いんだろうが!」

「身体の事で人を侮辱する事は許されません」

「じゃあ、てめえはそいつの味方するってのかよ!?」

「そうではありません」

 ニッポニアはコルムバからどんなに怒声を浴びせられても落ち着いていた。

 まるで静水のように受け流していた。

 ニッポニアは続けた。

「ただ、話を整理しようと言っているのです」

 ニッポニアの目がキラリと光った。

「感情的にならずに」

 その目を見たコルムバは押し黙った。

「ちっ!好きにしろ!」

 コルムバはドカッと席に戻った。

「皆さんも落ち着いて下さい」

 ニッポニアはコルムバが座るのを見届けてから部屋の隅で震えている魔王たちに声を掛けた。

「そこに居る方は危険な人物ではありません」

 ニッポニアは胸に手を当てて言った。

「私が証拠です」


ニッポニアに促されて、評議会は仕切り直しになった。

「取り乱してしまって申し訳ない」

 そう言いながら、魔王の一体はロクシアの方をチラチラ見ていた。

 ロクシアはカウノとニッポニアの間の空いた席に座った。

「では、皆さん」

 ニッポニアは全員がキチンと座った事を確認すると切り出した。

 部屋の中にはピリピリとした緊張感が漂っていた。

「もうご存知だとは思いますが、数か月前にここに居る第四の魔王『カウノプロトゥス』がこちらに座っていらっしゃる『ロクシア・クルウィオストゥラ』さんを救助しました」

 ニッポニアは、静かな口調でポツリポツリと語り始めた。

 『救助した』とは良い言い回しをしたなとロクシアは思った。

 その表現なら

『カウノはあくまでも人命救助を優先しただけで、他意は無い』

と言う事が出来るからだ。

 ニッポニアは続けた。

「ロクシアさんは彼の献身的な看病のおかげで、この通り回復されました」

「……」

 他の魔王たちも黙って聴いていた。

 コルムバも不満そうな顔をしつつも、横槍を入れたりはしなかった。

「しかし、ここに来て問題が発生しました」

 ニッポニアは一呼吸してから少し大きな声を出した。

「魔法使いが第四の群れに近づいているのです」


 ニッポニアはあらかた説明した。

 少し前から魔法使いの活動が活発になっている事。

 魔法使いたちは恐らくロクシアを探しているであろう事。

 そして、その捜索範囲が徐々に広がりつつある事。


「そんなの自分で蒔いた種だろうが!」

 コルムバはここまで聴いて我慢が出来なくなった。

「お前だったら見捨てたか?」

 カウノはコルムバに訊ねた。

「魔法使いなんかと関わるからこういう事になったんだろうが!」

 コルムバは魔法使いを憎んでいた。

「コルムバ殿の言う通りです!」

 ニッポニアの隣に座っていた魔王がコルムバを支持した。

 魔法使いを憎んでいるのはコルムバだけではない。

 大半の魔物は魔法使いが嫌いだ。

「重要なのはそこではない」

 ニッポニアの向かい側に座った魔王が発言した。

「問題はこの事態をどうやって解決するかだ」

 その一言で、議論は振出しに戻った。


「ロクシア……さんを都へ返すと言うのはどうでしょうか?」

 先程コルムバを支持した魔王が提案した。

「魔法使い達はロクシア……さんを探しているのですから……」

「それで本当に解決すると思うか?」

「それは……」

カウノが鋭い指摘をした。

『目的の物を渡したのだから、相手は自分たちを見逃してくれるだろう』

なんて言うのは楽観論だ。

そんな保証はどこにもない。

ロクシアと魔物がここまで深く関わってしまった以上、今さら引き返す事は出来ない。

「では、どうしろと言うのですか!?」

「戦うに決まってるだろ」

「コルムバ殿?」

 コルムバが自分の案を出した。

「そいつの力を使って連中と戦う。それしかねぇ」

「そんな事が出来るのか?」

 カウノの隣に座った魔王が訊ねた。

「相手は魔法使いだ、裏切るかも知れない」

「ロクシアは裏切ったりしない」

 カウノが注意した。

「なぜそう言い切れる!」

「信じてるから」

「カウノはもっと現実を見るべきだ!」

「だったらあんただったらどうするんだ?」

 カウノはイラッとした。

「否定だけしてないで出したらどうだ?代案を」

「……」

 カウノに言われて魔王は黙ってしまった。

「やっぱり、俺の案で文句ないみたいだな」

 コルムバが得意げに言った。

「お前の案に賛同してるわけじゃない」

 カウノはぴしゃりと言った。

「そもそも武力で対抗しようって話が間違ってるんだ」

「何だと!てめぇ」

「二人とも、落ち着いて下さい」

 この後も不毛なやり取りが続いた。

 結局、この日の議論では大した成果が得られなかった。

 せいぜい、ロクシアの名前が魔王たちに知れ渡ったくらいだ。

 そして、魔法使いが想像以上に怖がられていると分かったくらいだ。

 その日の帰り。

 日は落ちて空には『白鳥座』が瞬いていた。

「ねぇ、カウノ」

 ロクシアはカウノを背負って走りながら訊ねた。

「ん?何だ?」

「あたし、戦った方が良いのかな?」

「それはお前が気にする事じゃない」

「でも、あたしが原因で起こってる事でしょ?」

「原因を作ったのは俺だ」

 カウノは毅然とした態度で言った。

「俺の責任だ」

「あたしは関係ないっていうの?」

「……そうだ……」

「あたしの気持ちはどうなるの?」

「お前の……気持ち?」

「そうだよ、あたしの気持ち」

 ロクシアは立ち止まって星空を見上げた。

「あたし、考えてたの『自分にも何か出来ないか?』って」

「お前は十分俺たちの力になってくれてるよ」

「嘘……吐かないでよ……」

「……」

「カウノがあたしの立場だったらそうは言わないでしょ?」

「……まぁな……」

「やっぱりこのままじゃダメなんだよ、あたし」

「お前一人で何が出来る?」

「無力だったとしても、それは何もしなくて良い理由にはならないよ」

「……」

「あたし、戦うよ!」

 ロクシアは意志を固めた。

 いや、既に固まっていたのかも知れない。

「ちょっと待て」

「止めても無駄だから」

「そうじゃあない。ちょっと当てがあるだけだ」

カウノはロクシアに進路を変えるよう指示した。

 ロクシアは森のはずれに来た。

 そこでは一体の魔物が天体望遠鏡を覗いていた。

「来ると思っていたぞ、カウノ」

「何もかもお見通しなんだな。お前は」

 その魔物は望遠鏡から顔を離し、ロクシアたちの方を見た。

 しかし、特に何のリアクションもしなかった。

 魔法使いを見たのに平然としていた。

「あれ、誰?」

 ロクシアはカウノに訊ねた。

「あれは『ディノールニス』だ」

「ディノールニス?」

「ああ『魔道師』なんだ」

「魔道師?」

 ロクシアは魔物にも魔道師が居るのかと驚いた。

 『魔道師』とは簡単に言えば魔法を探求する研究者だ。

 ロクシアたち魔法使いの武器を始めとする装備は魔道師が開発した。

 魔道師は軍にとって大切な仕事だ。

 その為、国は魔道師の研究に国費を割いている。

 国のお抱えの魔道師になる人も居る。

 しかし、魔物の世界には必要ない職業だ。

 魔道師は魔法使いが居るから必要になる。

 だから、魔法使いが居ない魔物には全く関係ない。

 ロクシアには『魔物の魔道師』の意味が分からなかった。

「初めまして、お嬢さん」

「はじめ……まして」

 ロクシアはディノールニスとあいさつを交わした。

「ロクシア……さんだったね」

「は、はい」

「お主たちが来る事は分かっていた」

 ディノールニスは厳かな声で言った。

「儂に力を貸して欲しいのだろう?」

「流石は耳が早いな」

「こうなる事は予測出来ていた」

月に照らされて三人は戦いの相談を始めた。

「魔法使いと戦うに際してお主たちには足りないものがある」

 ディノールニスは自己紹介もそこそこに本題に入った。

「一番の課題は『戦力の差』だ」

「ああ、それを訊きに来たんだ」

 カウノもその為に来た。

「お嬢さんの等級は?」

「『四級』……ですけど……」

 ロクシアはディノールニスの質問に答えた。

 四級とはロクシアの魔法使いとしての等級の事だ。

 魔法使いは一級から順に五級まで等級が分けられている。

 つまり、ロクシアは下から二番目の等級と言う事だ。

「四級……悪くはない」

 ディノールニスは噛みしめるようにつぶやいた。

 ロクシアは確かに四級魔法使いだ。

 だが、それは魔法使いとしては普通だった。

 魔法使いは等級が上がると数が少なくなっていく。

 だから、ロクシアは良くも悪くも『普通の魔法使い』だった。

「しかし、魔法使いの部隊長は全て『三級魔法使い』以上だ」

 もちろん、ロクシアの上司の『フリンギッラ』も三級以上の魔法使いだ。

「そして、魔法使いは基本的に『四人一組』で行動する」

 ロクシアはうんうんと頷きながら聴いていた。

 魔法使いはほとんど魔物の事を知らないのに魔物は魔法使いを良く研究している。

 そこに感心していた。

「つまり、お主等は自分たちの四倍以上の戦力と戦わねばならん」

「そうなんだ」

 カウノはため息を吐いた。

 ロクシア一人でさえ十分脅威になる。

 それなのに、その四倍の戦力を相手にしなくてはいけないのだ。

 夢だと思いたい。

「それと戦う為には戦力を底上げしてやらねばならん」

「出来るのか?そんな事が」

「無論だ」

「どんな方法なんだ?」

「それは……」

「『合体』だ」

「何だって?」

 カウノはそう訊ねずに居られなかった。

『合体』とは何だ?

何やらいかがわしくも聞こえる。

「まあ、そう興奮するな」

「してねーよ」

「今からちゃんと説明する」

ディノールニスは小さく咳ばらいをすると説明を始めた。

「魔法使いの力の源、それは何か知ってるか?」

「『賢者の石』だろ?」

『賢者の石』とは魔力を絶えず生産し続ける不思議な鉱石の事だ。

大きさは三センチをほどの球体で血のように赤い。

魔力を扱う素質を持つ者にこの石を埋め込むと魔法使いの完成だ。

「そう、魔法使いは賢者の石から魔力を得ている」

「知ってるよ、そんな事」

「しかし、魔法使いは皆、賢者の石の力を十分に活かせておらん」

「え?そうなのか?」

カウノは身を乗り出した。

今、ディノールニスは『魔法使いは皆』と言った。

つまり、全ての魔法使いは魔力を無駄にしていると。

簡単には信じられなかった。

「さよう、魔法使いは多くても賢者の石の力の四割しか発揮出来ておらん」

「残りはどうなってるんだ?」

「身体から放出されて空気中を漂っておる」

「マジか!?」

 カウノには驚きの連続だった。

 魔法使いは常人の何倍もの力を発揮する。

 それなのに、そのエネルギーを無駄にしているなんて信じられなかった。

「本当だ」

 ディノールニスはうなずいて見せた。

「つまり、魔法使いに今以上に魔力を有効活用させれば戦力が上がる事を意味する」

「それと合体と何の関係があるんだ?」

「やっと本題に入る事が出来る」

 ディノールニスは『合体』についての説明を始めた。

「合体とは魔法使いと魔物が重なり合う事だ」

「何の為に?」

「魔力を有効活用するためだ」

 ディノールニスはカウノの質問に待ってましたと言わんばかりに即答した。

「実は、魔物にも魔力を扱う事は出来る」

「そうなんですか?」

 ロクシアには初耳だった。

「と、言うより扱える者が魔物になる」

「?」

 ロクシアにはディノールニスの言葉の意味が分からなかった。

『なる』とは何だろう?

何からなるのだろう?

だが、ディノールニスはそれについて語らなかった。

「つまり、魔法使いが無駄にしている魔力を魔物が回収して魔法使いに還元してやるのだ」

「なるほど、そうすれば魔法使いは扱える魔力量が増えるから強くなると」

「そう言う事だ」

「で、それが必要になるには戦闘中だから一心同体じゃないといけないと」

「ご名答」

「なるほど、意味がやっと分かった」

「しかし、それにも問題がある」

「何だ?」

「どの魔物でも良いと言う訳ではない、と言う問題だ」

合体にはいくつか条件があった。

・魔力の扱いに長けた魔物である事。

・ロクシアと心を重ねられる魔物である事。

・ロクシアと絶えず密着出来る魔物である事。

「そして、それらの条件を満たせる魔物は……」

 ディノールニスはカウノを指さした。

「カウノプロトゥス、お前だけだ」

「そうだろうな」

 カウノの反応は落ち着いていた。

 まるで、最初からそうなる事が分かっていたかのようだ。

 だが、カウノは分かっていたのではない。

 覚悟していたのだ。

 ロクシアが戦う決意をした以上、自分も戦場に出ていく事になる。

 そう思っていたからだ。


 カウノとロクシアはディノールニスから合体の方法を説明された。

「色々とありがとうな」

 カウノは礼を言ってディノールニスの元を後にしようとした。

 ディノールニスは再び、天体望遠鏡を覗いていた。

「おい、ディノールニス」

「何だ?」

「お前、いつから天体観測なんて趣味が出来たんだ?」

 カウノは来た時から気になっていた。

 ディノールニスは星なんてそんなに見ない。

 魔道師の興味はいつも魔法や魔力に向いている。

 それ以外の事にはあまり興味が無いのが通常だ。

「カウノ……」

「ん?」

「急いでくれ」

 ディノールニスはカウノの方を向くと懇願した。

「時間が無いのだ」

「それは分かってるよ」

 カウノだって魔法使いがすぐそこに迫っている事は分かった。

 だが、それとディノールニスが星を見る理由は関係ない筈だ。

「奴がいつ来るか分からん」

「『奴』って何の事だ?」

「それはまだ言えん」

 ディノールニスは星空を見上げた。

「皆に不安を与える訳にはいかんのだ」

 カウノには何の事かさっぱり分からなかった。

「くれぐれも頼むぞ、カウノ」

「ああ……」

カウノはそう返事するだけで精一杯だった。

ディノールニスは何を恐れているのだろうか?

 それが喉に刺さった小骨のように心に引っかかった。

「ねぇ、カウノ」

「ん?どうした」

 ディノールニスから『合体』を授けられた帰りにロクシアが訊ねた。

「何かさっきの会話で気になるところがあったんだけど」

「天体望遠鏡の事か?」

「ううん、違う」

「じゃあ、何だ?」

「魔物に『なる』ってどう言う事?」

「ああ、それか」

 カウノはポツリポツリと語り始めた。

「ロクシアは俺たち魔物がどこから来たか知ってるか?」

「ううん」

「じゃあ、俺達がどうやって増えてるかは?」

「それも知らない」

「そりゃ、そうだろうな」

「どうして?」

「俺たちは生まれて来る訳じゃないんだ」

「じゃあ、どこから来るの?」

「都だ」

「え?魔物の都があるの?」

「違う、人間の都から来るんだ」

「……どう言う事……?」

「俺たちは元人間なんだ」

「はぁ!?」

「俺は元々『緑の国のパッセリフォールメス』に住んでたんだ」

「パッセリフォールメスってあたしが住んでたところじゃん!」

「そうだな、魔法使いの基地もそこにあるな」

「嘘でしょ!?」

「まあ、すぐには信じられないだろうな」

 カウノにはロクシアの気持ちが分かった。

 自分もそうだったからだ。

「でも、そのうち嘘じゃないって分かると思うぞ」

「?」

 カウノは含みのある言い方をした。

 それからしばらく、カウノとロクシアは合体の修行に力を注いだ。

 ディノールニスは簡単に説明したが、やってみると意外と難しい。

 何せ、カウノは今まで一度として魔力を扱った事が無いからだ。

 いくら『才能がある』と言われても、努力をしないと上達はしない。

 カウノはロクシアから魔力の扱い方を手取り足取り教えてもらう事になった。

 今まで『生きる術』をカウノからロクシアへ教えていたのに、それが逆になったのだ。

「ほら、もう一回やって見せて」

「ふんぬぬぬぅぅぅううう!!」

 カウノは全身に力を込めた。

 身体に血管が浮き出した。

 だが、それだけだった。

「違うってば『大切なのはイメージだ』って言ったでしょ?」

「イメージねぇ……」

「自分の身体に管が走っててそこに魔力を通すイメージ」

「……」

 目を閉じてカウノはロクシアに言われた通りのイメージを形成した。

 なに、そう難しい事ではない。

 血管のような物を想像すれば良いのだ。

「……」

 ロクシアからカウノの身体に魔力が流れていく。

 そしてそれがカウノの触手の一本から放出された。

「あっ……」

 ロクシアが声をあげた。

 カウノが目を開けると、触手に薄紅色の炎のような物が灯っていた。

 魔力だ。

 この『手の先から魔力を放出する』のが魔法の基礎だ。

「やったじゃん、カウノ」

 ロクシアはカウノをほめた。

 ここまで来るのに一週間くらいかかった。

 しかし、遂にカウノは魔力を扱えるようになったのだ。

「はぁ~疲れた」

 カウノは大きなため息を吐いた。

 残り時間が少ないのに、修行がなかなか進まない。

 カウノの中に焦りがあった。

 だが、時間は無情にも流れて行った。

 カウノが修行に入ってしばらくしたある日。

「カウノさん!大変です!!」

 クセニがカウノの洞窟に駆け込んで来た。

「どうした!クセニ」

 カウノにもただ事でないとすぐに分かった。

 と言うより、何が起こったか分かった。

 魔法使いが警戒ラインを越えたのだ。

「遂に来たんです!」

 カウノたち魔物は『警戒ライン』と言うものを設定していた。

 つまり『この線を越えるまではこちらからは手を出さない』と言う線だ。

 カウノたちは魔法使いが警戒ラインを越える前に合体を習得しようとしていたのだ。

 そして今日、魔法使いがラインを越えてこちらに近づいて来てしまったのだ。

「ロクシア、出られるか!?」

「あたしは大丈夫だよ!」

「カウノさんはもう行けるんですか?」

「もう少し細かいところを詰めたかったけど仕方ない」

 カウノはこの日の為に合体を会得していた。

 しかし、完璧ではなく六割くらいの完成度だった。

 だが、未完成でも出撃するしかなかった。

「今行かないと全部ダメになっちゃうからな」

 カウノの覚悟は決まっていた。

「うん、行こう!カウノ」

 そして、それはロクシアも同じだった。

「カウノさん!ロクシアさん!!」

 クセニは二人に駆け寄った。

「必ず生きて帰って下さい!」

 クセニの声は震えていた。

「大丈夫だよ、クセニ」

カウノはクセニの肩を優しくたたいた。

 そして、二人は死地に向かった。

「カウノ!」

「ロクシア!」

「「合体っ!!」」


続く

この度は『それは魔法使いと魔物の物語り・前編』を読んでいただき、誠にありがとうございます。

この作品は私の処女作にあたり、誰かに作品を見せるのはこれが初めてです。

なので、できれば皆さんの忌憚のない意見を聞かせてもらえればと考えています。


どうかお願いします。

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