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銀河戦記/脈動編  作者: 神崎理恵子
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第二章・滅亡都市 Ⅰ


 探索隊の隊長 ウォーレス・トゥイガー大尉。(英♂)

 副長     ジェレミー・ジョンソン曹長。(英♂)

 船長     フリートヘルム・クラインミヒェル。(独♂)

 機関長    ヨーシフ・ペカルスキー。(露♂)

 航海士    ヴィクトル・ヤブロコフ(露♂)

 操舵手    ディオニシオ・カサルス(西♂)

 レーダー手  フェリシア・ヨハンソン。(瑞♀)

 通信士    フランカ・メインス。(蘭♀)

 生物学者   コレット・ゴベール(仏♀)

 医者     ゼバスティアン・ハニッシュ(独♂)


 漆黒の宇宙を進む探索艇。

 宇宙生物の対処法が確保されたことで、銀河を安心して探索できるようになった。

 ウォーレス・トゥイガー大尉率いる探索隊もマゼラン銀河中心部方面の担当を任された。

 アメーバーの犠牲になったロレンソ・セサルに変わり、ディオニシオ・カサルス(西♂)が操舵手に入り、航海士のヴィクトル・ヤブロコフ(露♂)が航路図作成のために加わっている。

「まもなく我々担当の捜索範囲の端に到達します」

 航海士のヤブロコフが伝える。

「これまで、十二の恒星と三個のガス状超巨大惑星を調査したが……居住や鉱石採取に適した星はなかったな」

 トゥイガー大尉が呟く。

「引き返しますか?」

 探索範囲は、ニュー・トランターから出発して、扇状の範囲に渡って調査していくことになっていた。進路を変更して扇の円弧に沿って進んだ後に帰還ルートに入る。

「そうだな。予定通りのコースを取ってくれ」

「了解しました。左舷九十度転進!」

 転進する探索艇だったが、しばらく進んでいると、突然の衝撃に見舞われた。

 激しく揺れる艇内、あちらこちらに投げ出され壁に身体を打ち付ける隊員たち。

「なんだ、どうしたんだ? 重力波振動か?」

 重力波振動とは、超新星爆発時に時空の曲率が光速で伝搬する現象。ブラックホールなどの大質量の連星系がインスパイラル運動をしている時にも発生する。

「ち、違います。スクリーンを見てください!」

 外部モニターが映し出す星が高速で流れている。

「星が流れている? いや、この艇が流されているのか?」

「銀河乱流に入り込んでしまったようです」

「舵が利きません」

「無理するな、艇が壊れるぞ。姿勢を安定させるだけにして、このまま流れに乗って行くだけにしよう。どこかに流れの淀んだ個所があるはずだから、その時に脱出する」

 銀河乱流に流されながら、何処かへと向かう探索艇。

「救難信号打電しますか?」

「そうしてくれ。燃料が足りなくなるだろうからな」

 数時間流されたが状況は変わらなかった。

「一向に緩やかになりませんね」

 冷静さを保っていたトゥイガー大尉だったが、レーダー手フェリシアの次の一言で緊張の度合いを上げた。

「前方に異常な重力波を検知しました!」

「重力波だと?」

「ブラックホールの可能性大です」

「まずいな……。機関長!」

 端末を開いて、機関室に連絡する。

「機関室、ペカルスキーです」

「合図と共に、機関出力最大全速力だ。準備してくれ」

「了解。合図を待って機関出力最大全速力」

 端末を閉じて機会を待つ。

「カサルスは、乱流に上手く乗るように姿勢を維持してくれ」

「了解!」

 スクリーンには、前方投影された宇宙空間が映し出されている。

「あれは? やはりブラックホールか!」

 数えきれないほどの星の海が広がっていたが、艇が向かっている先の中央部分には、真っ黒で何もない空間があった。

 このまま進んでいけばブラックホールに捕らえられて、光さえも脱出できないシュヴァルツシルト半径内に突入してしまう。

「ヴィクトル、脱出コースの計算してくれないか」

「了解」

 ブラックホールまでの距離と重力値変動、乱流の速度、艇の機関出力などから計算を始める。

「計算終了。コース設定しました。三分後に全速力出してください」

「分かった……。機関長、三分後に機関出力最大全速力を出す」

『三分後了解』

 緊張の永遠かと思われた三分間が続く。

「一分前!」

「総員何かに掴まれ!」


「五秒前、四秒前、三秒前、二秒前、一秒前」

「今だ! 機関全速!」

 隊長が叫び、機関長が機関出力最大全速力に上げる。

 艇が激しく揺れ、今にも壊れそうだった。

「隊長! 大丈夫なんですかあ?」

「喋るな! 舌を噛むぞ!」

 エンジンが唸りを上げる。

「頑張れ!」

 機関長がエンジンに向かって声援を送る。


 数時間後。

 漂流する探索艇。

 艇内には、気を失って倒れている隊員たちがいる。

「ううっ……」

 トゥイガー大尉が気づいたようだ。

「乱流を抜け出せたのか?」

 起き上がり他の隊員に声を掛けて起こす。

 全員無事だった。

 それから各自の担当における任務を遂行する。

 船長と副長は、艇内の損傷個所の確認。

 船医は、隊員の怪我などの体調確認。

 生物学者は、船医の補助。

 機関長は、エンジン関係の確認と修復。

 操舵手は、運航機器の確認。

 航海士は、現在地の確認と航路図への乱流の位置書き込み。

 通信士は、基地本部への連絡と救援要請の確認。

 レーダー手は、ブラックホールの影響確認。

 などである。


 救援の船が到着し、燃料と物資の補給を終えて正常任務に戻る探索隊。

「ボスから銀河乱流の正確な位置情報を調べて航路図に記入しろとの指令だ。引き続き探索を続行する」

 乱流遭遇前は、これで帰れると思っていたのに……と不満を漏らす隊員だったが、海の難所を後に続く者に知らしめることは、船乗りとしては義務である。SOSを受信したら、敵であっても救助に向かうのと同じである。

 銀河乱流に沿って注意深く進み、流域を航路図に記入していく。


「せっかく調べ上げた乱流の座標も永遠というわけでもないですよね。流れが変わることもあるだろうし、定期的に観測しなければ」

「まあそういうことだな」

 調査を続けるものの、乱流は結構広範囲に広がっており、燃料不足の懸念から、別の班に引き継いで帰還することとなった。

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