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銀河戦記/脈動編  作者: 神崎理恵子
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第一章・謎の宇宙生物 Ⅱ



 仲間の一人を救えなかったという悲痛な思いを抱きながらも、捜索隊が惑星のラグランジュ点にある基地に戻ってきた。

 船着き場に艇を係留させて下船する一行。

 基地入り口の消毒シャワーを浴びてから宇宙服を脱ぎ、基地に入場する。

「あんまり慌てていたので、検体を一つも移送できなかったのが名残惜しいです」

 医者が嘆くと、生物学者も同意した。

「わたしもです。あのアメーバーの一部分でも採取できていれば」

「言うなよ。逃げ出すだけで精一杯だった。アレ一体だけとは限らないのだからな。気が付いたら無数のアメーバーに取り囲まれていました、なんて考えたら心砕けるぞ」

「そうですね。生物かどうかもまだはっきりしていませんが、もし生きているのなら生殖とか種族維持とか調べたかったですけど」

「何にせよ。今頃あいつは恒星でくたばっているか、無限増殖をはじめているかのどっちかだ」

「くたばっていてほしいですね」

「ともかくボスに報告するか」

 基地指揮官のオフィスに向かう。

「やあ、お帰り。ご苦労様」

 暖かく出迎える指揮官。

 指揮官に詳細を報告する隊長ウォーレス・トゥイガー大尉。

「そうか……、亡くなられた隊員のご家族には私から連絡しておこう。ご苦労だった。もう休んで良いぞ。報告書は明日にでも提出してくれ」

「かしこまりました」

 指揮官室を出た一行は、それぞれの自室に戻った。



 自室に戻りシャワーを浴びてからベッドに入るトゥイガー大尉。

 その時だった。

 照明が点滅を始めたのである。

「なんだ……まさかな」

 ふとよぎった予感は、現実となる。

 照明が消え、回っていた換気扇の音が止まった。

「おいおいおい、本当のまさかかよ」

 青ざめて飛び起きて通路に出ようとしたが扉が開かない。

「電力喪失かよ。こりゃ本物なんじゃないか?」

 緊急用の開閉装置を手で回して扉を開けて通路に出た。

 非常事態を察した部下たちも飛び出していた。

 通路は停電用の非常灯が点いている。

 生物学者のコレットが駆け寄ってくる。

「隊長! これは?」

「おまえのところもか?」

「はい。電力が通じていません!」

「まさかあいつがもう一匹いて侵入されたのか?」

「アレが生物であるならば、増殖していたとしても不思議ではありませんが」

「一匹だけとは限らないか……」

「本当にアレに侵入されたとしたら、どうやって排除しますか?」

「そうだな。ブラスターは相手に加勢するようなもんだしな。何とか弱点を突き詰めないと大変なことになるぞ。おまえ生物学者だろ? 何とかならんか」

「そんなこと言われても、UMO(Unidentified Mysterious organism/未確認生物)なんですから知るわけないですよ。標本採集して色々と生体実験とかしてみなきゃ……」

「だろうな……。ともかくボスのところへ行って対策を考えよう」

 基地指揮官のいる部屋へと歩き出す二人。

「他の仲間の方々は何してんだ? この非常時に」

「たぶん停電時の扉の開け方を知らないのでは」

「しようがない奴らだ」

 放っておいて先に進む。

「非常灯が!」

 バッテリー内臓の非常灯が消えた。

「電池切れか」

「大丈夫です。ちゃんと用意してきました」

 というと手提げ鞄から懐中電灯を取り出した。

 アメーバー相手には役に立たないが、暗闇から突然襲われることはないだろう。

 懐中電灯で照らしながら、慎重に進んでいく二人。

「ボスの部屋だ」

 指揮官の部屋の前にたどり着いた。

「トゥイガー大尉、入りますよ」

 返事はなかった。

 嫌な予感がして、扉を手でこじ開けて中に入る隊長。

「ボス! いますか?」

 返答はなく、何かが蠢くような音がした。

 コレットが懐中電灯で部屋の中を照らす。

 そこにいたのは……。

「あ、あいつだ!」

 まぎれもなく探索艇を侵食したアメーバーだった。

 そして床に干乾びて倒れている指揮官。

「どうやって入り込んだんだ?」

「こっちに向かってきます!」

「俺たちの生命エネルギーを喰らう気だ。逃げるぞ!」

「どちらへ?」

「操船室だ!」

「まさか?」

「その、まさかさ。あいつを放っておくわけにはいかない。まだ動くうちに恒星に落下させる」

 だが操船室に向かう通路にアメーバーが待ち受けていた。

「ちくしょう! 先回りされたか?」

「別のヤツかも」

「こうなったら機関室へ行って直接エンジンを操作して軌道を変えよう」

 機関室へ行き先を変更する。

「しかし、他の隊員に出会いませんね」

「扉を開けるのに苦労しているか、それとも……」

 二の句を飲み込む隊長だった。

 無言で機関室へと向かう二人。

 懐中電灯で照らしながら進んでいく先を塞ぐ怪しげな影。

 その足元に転がるのは人だった。

 照らされて見るその表情は恐怖に引き攣ったまま硬直している。

「あいつだ!」

 ここにもアメーバーが侵略していた。

「これでは機関室には行けないな」

「それどころか、前と後ろを挟まれました」

「一体何匹いるんだよ」

 立ち止まった場所は、超伝導発電機室だった。

「ここへ逃げ込もう」

 扉をこじ開けて中へと入る。

 電力が通じていれば、カードキーなしでは開かないが、停電時には手で開けられるようになっている。

 発電室に逃げ込んだ。


 そこには発電機室担当の耐熱スーツを着込んだ職員がいた。

 ここは超伝導を発動させるために、絶対零度に近いヘリウムによて、機械が冷やされているので、洩れる冷気によって部屋全体が極寒状態である。

「何だおまえは? 何か用か?」

 外で起きている事変に気づいていないようだった。

「怪物が船の中に侵入したんだ!」

「怪物だと?」

「気づいていないのか?」

 事情を説明する隊長。

「俺たちは、こんな格好だからこの区域からほとんど出入りしないからな。外のことなど分からん」

「ちょっと指令室に連絡してみるよ」

 コントロールルームに入って連絡を入れる職員。

「だめだ、繋がらないよ。やられたのかな?」


「しかし寒い!」

 超伝導を発動させるために、発電機がヘリウムによって極超低温に冷却されている。それが部屋全体を冷やしている。

「そこのロッカーに耐熱スーツが入っているぞ」


 壁の側にあるロッカーから耐熱服を取り出して着込んだ。

「入ってくるのか?」

 待ち構える。

 やがてドアの隙間から侵入してきた。

 今まさに襲われると思った時、アメーバーの動きが鈍くなり、そして停止した。

「止まった?」

 動く気配がなかった。

 ふと、後ろにある発電機を見る。

「まさか、こいつのせいで動きが鈍ったのか?」

 相手はエネルギーを吸収する化け物だ。

 極超低温の環境では動けないのか?

 吸収するどころか、自身内部のエネルギーを奪われて停止してしまったのか?

「死んだのか? いや報告では宇宙を漂っていたとある。あくまで冬眠状態になっていると言った方がいいかもしれない」

 完全凍結させて、粉々に粉砕したら死ぬのだろうか?

 このまま放っておけば、凍結が溶けたらまた動き出すに違いない。

「ともかく動き出さないように、完全凍結させておくか……」

 超伝導発電機に繋がっている液体ヘリウム注入用のチューブを外して、アメーバーに向かって放射した。

 バリバリに凍ってゆくアメーバー。

「これでも喰らえ!」

 そばにあった椅子で、粉々に砕いてしまう職員。

「よし、塵一つ残さないように集めろ!」

 かき集めて保冷ボックスに入れ、液体ヘリウムの容器に沈めた。

「奴の弱点は冷気だな。凍らせて動きを止めた時に、破砕して保冷容器に密封して閉じ込めてしまおう」

「液体ヘリウム漏出の際に使う絶対零度冷却ガンを使用しましょう」

「そうだな。全員に冷却ガンを持たせよう」

 アメーバーに対する退治法が分かったので一安心する一同。


「あいつが何匹いるか分かりませんが、どうやって退治しますか?」

「エネルギーを求めて徘徊する奴だ。基地内のすべての動力源をカットして、一カ所だけ動かしていれば誘蛾灯のごとく集まってくるだろう。そこを一網打尽に凍結させて捕獲する」

 作戦が決まれば実行するのみである。

 綿密な計画が練られて、アメーバー退治が行われた。


 数時間後、ついにアメーバーの駆除に成功した。

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