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銀河戦記/脈動編  作者: 神崎理恵子
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第六章・会敵 Ⅰ




 イオリスの民は、天の川銀河から最も近いタランチュラ星雲の領域内の惑星開発を完了して勢力圏に収めることに成功していた。

 星雲内部には、1立法cmあたり100個から1万個の分子が存在すると考えられる超高濃度真空となっている。地球上の海抜0mの大気が、1立法cmあたり25x10の18累乗個の分子が存在することを考えれば、希薄すぎるといえるかもしれない。それでも何光年も離れた遠くから見れば、電離した水素イオンなどが背景にある青色巨星の光を受けて色鮮やかに輝いて見えるのだ。


 この星雲の外縁部で、超新星1987Aが発見され、発生したニュートリノをカミオカンデが観測して、日本人がノーベル物理学賞を受賞した。

 タランチュラ星雲は、直径1862光年ほどに広がっており、その中心付近にはNGC2070散開星団、さらにその内側にR136超星団(直径35光年)やホッジ301星団などを内在している。HⅡ領域の輝線星雲であり、非常に巨大な星形成領域として数多くの恒星が生まれては滅んでいる。星形成領域はオリオン大星雲の三十倍に広がっている。

*R136=ラドクリフ天文台マゼラン雲カタログ番号

 


 敵対する交戦国の存在があることを知ったイオリス国は、惑星開拓を進める一方で戦闘艦の造船と戦闘訓練を頻繁に行っていた。


 折しもアントニー・メレディス中佐とウォーレス・トゥイガー少佐、両者が率いる艦隊同士の戦闘訓練が始まっていた。

 仮想戦闘宙域は、タランチュラ星雲内R136超星団で行われる。


 メレディス中佐の乗艦する模擬戦闘艦301号以下の三十二隻、トゥイガー少佐率いる模擬戦闘艦401号以下の三十三隻が相対する。

 模擬戦闘艦には実弾は装填されていない。炸薬の代わりに、着弾と同時に四方八方に弾ける花火のような火薬が詰められた弾頭が使われている。

 ミサイルが当たっても艦体が少し凹むだけだが、当たり判定を模擬戦闘シュミレーションシステムが計算して戦績をはじき出す。

 今回の模擬戦は、艦隊戦の訓練で戦闘機は参加しない。



 メレディス中佐の艦隊は、ウォルフ・ライエ星に分類される青色超巨星であるR136a1という恒星系に展開していた。HⅡ領域と呼ばれるイオン化された水素からなる巨大な領域の中央に浮かんでいる。


*ウォルフ・ライエ星=猛烈な恒星風によって、恒星表層の水素が吹き飛ばされて、ヘリウム・窒素などが融合反応を起こしている超高温の内層が露出して、三万から十万度という超高温で輝いている。


 a1星は全天球中で最も重く最も明るい星である。315太陽質量、870万太陽光度。太陽の一年分のエネルギーをたった四秒で放出しているという化け物である。

 仮に太陽系の冥王星の軌道にあったとしたら、地球からは太陽と同じぐらいの大きさに見えるが、なんと二千四百度という高熱となり全ての生物は死滅する。

 対不安定型超新星爆発という、通常の超新星爆発よりもさらに高威力で中心にブラックホールすら残さない超大爆発を起こすとされる。



「恒星より二千八百デリミタ。全艦、配置に着きました」

*デリミタ=天文単位(AU)/一億五千万km、に相当する。


「恒星風に流されるなよ」

 操舵手に注意勧告するメレディス中佐。

「了解!」

 操舵手は、士官学校を卒業したての新人である。

 戦闘訓練には、総員の三分の一が新人であり、先輩から指導を受けながら、自分の担当部署の熟練度を上げてゆく予定だ。

 副官のセリーナ・トレイラー中尉が質問する。

「なんでわざわざこんな危険な恒星系を仮想戦闘宙域に設定しなのでしょうか?」

「敵は、時と場所を選んでくれないからな。最悪の条件下においても最善を尽くせるようにな。まあ、この辺りは一応ハビタブルゾーンに入っている」

「惑星があればですけど……ありませんね」



 トゥイガー少佐の艦隊は、隣の恒星R136a3付近に展開していた。

 こちらの星系もa1に負けず劣らずの青色超巨星であるが、表層にはまだ水素が四割ほど残っている。

「時間です」

 副官のジェレミー・ジョンソン准尉が、作戦開始の時刻を告げた。

「よし。微速前進だ」

 動き出す艦隊。

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