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2話

 魔人を倒した功績が評され、王国に一軒屋敷をもらうことになった。


 15部屋はある豪邸だ。5人で暮らしてもおよそそん色はない。もちろん一斗にも部屋が一室与えられた。ゲームはないが、異世界にきたといえ、前と変わらない生活だった。


 夜。ベッドで寝ていると、こんこんとドアがたたかれた。


「開けていいかな?」

 一音だった。


「開けてから言うなよ……」


 文句を言う間もなく、一音が部屋へと入ってくる。


「ちょっと、お話ししたくて」


 そういってベッドに腰掛ける。風呂上りあろうが、わずかに頬が上気している。薄手のローブが揺れるたびにプロモーションが明かされる。


「な、なんだよ。話って」


「……不安になっちゃって」

 一斗の手を握りながらそう言った。


「不安って……このまえ魔人だって討伐したじゃないか。国では英雄だって騒がれてる」


「でも、三音ちゃんが怪我したわ」


 そうだった。先の魔人戦。結果は辛勝だった。三音がけがを負ったのだ。三音だったからけがで済んだが、魔人の一撃を受けたのが別の姉であったとしたらさらに被害は甚大だったであろう。


 勝てない相手ではない。しかし楽に勝てる相手ではないというのも同時に明らかになった。まして、倒したのは一体の魔人。その先に15体の魔人が。そしてそれを統べる王もあるのだから。


「やめたらいいだろ」


「え?」


「魔人と戦うより、王国から逃げてひっそりと暮らすほうが生存確率が高い。かずねえたちの力があれば造作もないだろ。魔人域から離れた辺境の小国の一つにでも召し抱えられて、国からでなければ魔物との遭遇確率も低い」


「でも……そんなのだめだよ。この世界のこと」


 そういって不安そうに視線を揺らす。10年前の魔王の復活からここまで、人類の被害人数は4億を超えるという。人間の生存域は全盛期の3分の1まで減っている。


「……それに、魔王がいるといっちゃんも危険ってこと、でしょ」


「この前の、気にしてるのか?」


 無理行ってついていったダンジョン。結果的に足を引っ張り、一音にけがを負わせる結果となった。


「この前は守れた、けど、やっぱり今のままじゃいつ何が起こるかわからない、から。一斗だけは守る。守るから……お姉ちゃん頑張るよ。世界を、平和にする」


「……俺のことを思うなら、ひっそりとみんなで辺境の地で暮らしたいもんだけどね」


 世界なんて知ったこっちゃない。


「お姉ちゃんのこと、心配してくれてるの?」


 そういって一音は嬉しそうに一斗に抱き着く。


「だ、だから離せって。そりゃ、知らない他人より、かずねえのほうが大切に決まってるだろ」


「た、大切。ふふふ」


 そういって離してくれやしない。


「あ、あのさ。もし、魔王を倒したらひとつだけ、お姉ちゃんのお願い、聞いてほしいの」


「お願い? 魔王を倒せるような力を得たかずねえに、俺がしてやれることなんてほとんどないと思うけど……」


「結婚しよう」


「……は?」


 なんて言った。


「なんて?」


「お姉ちゃんと、結婚してください」


 ……。


「は、いや、は? 何言ってんの。『お姉ちゃんと結婚』、もうその言葉から矛盾をはらみすぎだろ。俺たちは姉弟だろ!」


「この世界ではね。兄妹で結婚しちゃいけないって決まりはないのよ。15歳から結婚できるし。だから、お姉ちゃんと結婚しよう」


 何を考えてるんだ? 吊り橋効果か? 命の危険にさらされるという異常事態で、近い人間に恋を錯覚させる、あれ、か。


「お姉ちゃん!」


 だが、勢いよく扉が開かれ、入ってきたのは三音だった。


「け、けっこ、結婚って、一斗くんと。お姉ちゃん、本気?」


 かあと頬を上気させて攻めるように三音は言う。当然だろう。


「みつねえ、かずねえを止めて……」


「ずるい! わたしだって一斗くんのこと好きなの、お姉ちゃんだって知ってるくせに」

 泣き出しながらそう言った。


「一斗くんと結婚したい!」


「な、みつねえまで何言ってんだ」


「ずっと好きだった。姉弟だからって我慢してた。だけど、……この世界なら結婚できるなら私」


「わたしだってそうだよ。だからいっちゃんと離れるためにアメリカに行った。一緒にいると、おかしくなっちゃいそうだったから。いっちゃんが引きこもったって聞いて本当は嬉しかった。だってもしいっちゃんに彼女とかできたりしたらってずっと、不安で不安で。でも、引きこもりだったら、一生私が養ってあげれば姉弟としてだけどずっと一緒にいられるって」


「お姉ちゃんは一斗くんから離れたくせに。毎日お世話してたのは私だよ。ご飯だって私が作ってた。一斗くんと一緒になる資格があるっていうなら、わたしだよ!」


 そういって二音は一音につかみかかる。


「ちょっとふたりとも落ち着けって」


 必至になだめようとするが止まらない。


「うるさーい!」

 そうしているとどんと壁がたたかれた。


 立っていたのは三音と四音だった。


「姉ちゃんたち、なに騒いでるの?」


「みつねえ、よかった。二人を止めてくれよ」


「三音ちゃんはかまわないで、今、どっちが一斗くんの結婚相手にふさわしいか、話し合ってたの」


「結婚相手? はあ。弟だぞ、そいつ!」


「そうだよ。この世界では姉弟で結婚しちゃダメって決まりはない。こんな日が来ることずっと願ってた。今まで誰ともお付き合いしてこなかった。こんな日を、夢見てた、から」


「なんだよ。それ……。だいたい弟と結婚したいっておかしいよ。一斗、こんな人たちと結婚するなんてやめて」


「そりゃ、当然」


「結婚するならうちにしたらいいじゃん」


「は?」


「もも、もちろん、一斗がいいなら、だけど。うち全然女の子っぽくないし……姉ちゃんたちみたいにおっぱいも大きくないけど。でも、絶対になにがあっても一斗を守るよ。それは誓える。だから……」


「なんで三音ちゃんまで入ってくるの!」


「うちだって一斗が好きだ!」

 三音もそういった。


「三音ちゃんも、いっちゃんのこと……」


 取っ組み合いをしていた二人の手も止まる。


「あのさあ、お姉ちゃんたち、あたしも話していいかなあ」


 ため息をつきながら手を挙げたのは傍観していた四音だった。


「ここにいる『みんな』一斗のことが好きってことでしょ。結婚できるならしたい。モテモテだねえ、一斗」


「いや、ちが……っていうか、みんなって……」


「いいじゃん、なら。役得役得。日本じゃさあ、姉弟でなんてスキャンダル起こせない……ずっと仕事に集中して気持ちにウソついてたけど。いいなら話は別。それにかず姉ちゃん、言ってたよね。魔王を倒したら結婚してくれって」


「うん。世界を救ったらお願い聞いてほしいっていっちゃんに言ったの」


「私たちはこれから魔王を倒す。魔王を倒した一人と、一斗は結婚する」


「いいじゃん。わかりやすくて。そうしよう。姉妹でいがみ合っても仕方ない」


「う、うん。いいよ。わ、私負けない」


「わたしだって。いっちゃんのことが好きな期間なら私が一番長いんだから」


「決定ね。一斗……」


 そういって四音は一斗の首をくいと持ち上げる。


「お姉ちゃんたち、すぐ魔王とやら、倒してくるから」


「いや、俺は」


「見てて、そこで、私たちのこと。一斗の前をちゃんと歩いてるから、顔をあげて」


 そうして手を伸ばす。


「ちょっとだけ先で、ずっと待ってる。一斗に追いつかれないようにって。お姉ちゃんでいるために」


 光り輝く道上。ちょっとだけ先? 遥か遠くの間違いじゃないか? 必至に走っても追いつかない。いや、必至に走ったこともないかもしれないけれど。





 翌日、四人は冒険服に身を包んでいた。


「じゃあ行ってくるから」


「……」

 一音の言葉になにも応えないと、少しだけ寂しそうに視線を揺らした。


「あ、あの一斗くん。この前町で見つけたんだけど」


 そういって三音が指輪を取り出した。


「これ付けていると、お互いが危険になるとわかるの。マジックアイテム。もし一斗くんが危険になったら転移魔法で帰ってくるから、絶対に身に付けてて」


 そういって三音は一斗の手を引くと、左手の薬指に指輪をつける。


「ちょっと、三音、なにやってんの」


「もういっこは私の薬指に……お揃い」


「お揃い、じゃないでしょ。抜け駆けすんな」


 そういうわけで、首飾りにして首から下げるということで落ち着く。


「あと王国からもらったお金置いておくから、ちゃんとご飯三食食べてね。あ、夜は帰ってこよっか」


「いいよ、飯くらい。なんとかなる」


 どっさりと置かれた金貨。魔人を倒した功績で、屋敷とともに王国からもらった給金だ。


 そういうわけで四人は勇者一行として魔王討伐の旅へ。一斗は自宅警備員としての生活が始まったのだ。



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[気になる点] なんかたまに二音と三音の名前が入れ替わってる気がする 地の文の名前と口調がズレてるような [一言] ヒモになる系すこ 齧れる脛が多すぎる
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