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不死鳥の聖女  作者: りすこ
第二章 世界の裏事情
8/70

謎の錬金術師②

イレギュラーですが、一話追加で話を更新しましまた。

「…………………………」


 互いに目を見張り言葉を失う。

 男はそろっと近づくと素早く腕をとって、無言で元にもどした。


 カチッと音を立てて繋がった腕。

 オモチャみたいだ。


 そして、手を握ったり開いたりして、動作を確認した後、にっと笑った。だけど、口の端がひくひく動いている。


 サラは呆然としたまま口を動かす。



「お前は……なんなんだ……? 自動人形(オートマタ)なのか……?」



 自分でいって、それはあり得ないと打ち消す。

 自動人形(オートマタ)は一定の動きしかしない。

 目の前の男は表情豊かに動いて、機械仕掛けに見えなかった。

 食い入るように見るサラに、男は愛想笑いのまま答える。



「おれの名前はセト。冒険者で、錬金術師」

「錬金術師……? 機械がか?」

「あー……えっと……」



 セトは視線をさ迷わせ、深く息を吐いた。



「ノームじいさんの所にいけばバレるしいっか……」



 ぶつぶつ言い出して、セトは胸部までしかない黒い服装を突然、脱いだ。

 丸い円が描かれた褐色の逞しい筋肉が見え、サラがびくりと大きく体を跳ねさせる。

 彼は気にすることなく、胸筋の溝に両手を添えた。


 パカッと扉みたいに胸筋が開いた。

 継ぎ目もなにもなかったように見えたのに、開いたのだ。


 その行動も信じられないが、中身も信じがたいものだった。


 配線で繋がれた透明なフラスコがあり、中身は乳白色に光輝く何かがあった。

 親指ほどの大きさのそれは、人のかたちにも見えるし、胎児のようにもみえる。

 フラスコに入った透明の水に浸って、体を丸めていた。

 こぽこぽと小さな泡が水面に向かう光景に、サラの頭は真っ白になる。



「おれは命を吹き込まれた人形──ハーツマタ。このフラスコの中身はホムンクルス(人造人間)で、おれの本体だよ」



 セトは実に明るい笑顔で、非現実的なことを言った。
















「ホムンクルス……?」


 数分間、たっぷりと黙った後、サラから出てきたのは一言だけだった。


 セトは扉になっている胸筋を閉じて、服を着る。

 着替えると屈託のない笑顔をサラにむけた。



「ホムンクルスだ。知ってるか?」



 当然、知らない。

 人造人間など、聞いたこともない。人造の言葉から察すると、彼は人工的に作られた人間ということだろうか。

 フラスコに入っていたあの小さいものが人間。

 フラスコの中の小人は泡を吐いていたし、呼吸して生きているようにも思えるが、人間というには程遠い姿だ。


 ホムンクルスというものは何か詳しく聞きたくなったが、言葉は飲み込んだ。

 今、判断しなければならないのは、彼は敵なのかということだ。


 彼の服装を見ると、王宮の護衛でも近衛兵でもないことがわかる。

 王宮に仕える者は、胸にフェニックスの紋章が入っているが、彼の服にはそれがない。


 ならば、サラを燃やして力を剥奪しようとしている神官かと思うが、それでもなさそうだ。

 なによりシャツの色がありえない。

 黒色は【大魔王】の象徴とされているので、この国の者ならまず身につけない色だった。


 セトは純白の髪をアップにして、ひたいには点の模様がある。

 服装は簡素で、肩と腹をだした黒いシャツ一枚に、腰から下はふくらみのある白いズボン。

 靴はすぐ脱げそうな革製のサンダルだ。


 褐色の肌を見ても異国民であることがわかった。


 容姿以前に、ハーツマタなんて技術は国内に存在しないはずだ。


 彼はドルトル側の人間ではないのか。

 そうなら、自分に近づいた目的はなにか。

 サラはすぐ戦闘体勢に入れるように、力を発動させようとした。



「ストーっプ!」



 セトが大声を出して、手のひらをサラの顔に近づけた。

 蛇の紋様が描かれた手のひらを見ながら、サラは眉根をよせる。



「今、力を使おうとしただろ? 瞳孔が細くなった。ほんと、トカゲみてえな目だな」



 サラが驚いて力の発動をとめる。



「あ、元に戻ったな。その状態でよく聞けよ?

 おれは、眠っているあんたをかっさらってきた。あんたが馬車に乗せられて大聖堂にいく所を襲撃して、アジト(ここ)まで連れてきたんだ」



 サラはひゅっと息を飲んだ。


 襲撃? 信じられない。

 警備は厳重だったはずだ。

 どうやったというのだ。



「あ、その顔は信じてねえな。うーん、どうすっかなぁ」



 セトは腕組みして考え込むが、すぐ膝を打って予想外のことを言った。



「ひとまず全裸は寒そうだから、服を着るか?」



 確かに全裸だったが、それよりも状況を把握したい。

 悠長に服を着ている間に、目の前の男が何をしてくるのか未知数だ。


 ドルトルには、隙をつかれてやられた。


 ──と、彼を思い出したとき、刺されたはずの脇腹に痛みがないことにようやく気づく。


 動揺している間に、セトはパンっと両手をつけて右手だけを下にむける。



「【エメラルド・タブレット】、オープン」



 機械がだすような声で言うと、彼の両肩と両腕──全部で四つの模様がエメラルド色に発光する。



「再構成、開始」



 そう呟き、たぐりよせていたシーツの端にのせた。



「──え?」



 ピカッと小さく光がでて、シーツはサラの服にまとわりついた。そればかりか、丈が膝まである白いワンピースになった。



「ひとまずこれでいーだろ」



 満足そうにするセト。サラは開いた口が塞がらない。



「今のは……」

「錬金術。錬金術師だって言っただろ?」

「いや、そうだが……」

「錬金術、見たことねえの?」



 サラは茫然としたまま、首を縦にふっていた。


 錬金術の存在は知っていても、術を使うところは見たことがない。

 術式は国家機密とされていたからだ。

 アメリアの踊り子のようなステップは錬金術といえるものなのか、それすら判断できないほどサラは錬金術を知らない。


 実際にこの目で見ると、本の中の出来事みたいだ。

 瞬間的に洋服ができた。

 神話で語られる魔術みたいだ。


 サラは白いワンピースに触って縫製を確かめたが、しっかりしていた。

 本当に信じられない。



「魔術みたいだな……」

「そうか? あー……まぁ、おれの錬金術はふつうじゃねえし、そう見えるのかな。でも、魔術じゃないよ。詳しく話してもいーけど、あんたはおれのことを信じてないだろ?」



 言葉に詰まった。

 セトの言うとおり彼を信用してはいない。


 次々と知らないことが起きて頭の中はパンクしかけているが、自分を助けた理由のほうが知りたい。



「錬金術の話は後でいい。馬車を襲撃したというのは本当なのか……?」

「本当だよ」

「証拠はあるのか?」

「証拠? あー、えーっと……あるか? あんたが着ていたドレスならあるけど」



 セトがベッドの脇に置いてある麻袋を指差す。


 目線だけで確認すると、麻袋の中から深紅のドレスが見えた。

 フリルの形に覚えがある。



「あんたが寝ている隙に悪いけど全部、脱がした。あんたは熱が出てたし、はぁはぁって言っていたから、窮屈そうな服装とコルセットは脱がしたんだよ。そんで、介抱した。もう熱はないだろ?」



 全裸を見られた羞恥心はぬぐえないが、それよりも気になることがある。


 ドルトルに刺された傷は致命傷ともいえる深いものだった。

 服の上から刺された箇所を手のひらで確認したが、痕すら残っていないようだ。


 こんなの奇跡だ。


 アメリアが作ったポーションを彼も持っていたのだろうか。



「……傷が跡形もない。なにをしたんだ?」

「ん? あぁ、完全回復薬(エリキサー)を溶かしてスプーン一杯飲ませた」



 セトは床に乱雑におかれた古びた雑嚢(ざつのう)に手を入れて、淡いエメラルドグリーンの光を放つ石を取り出す。

 宝石みたいだ。

 大きさは彼の手のひらにおさまるほど小ぶりだった。



「これが完全回復薬(エリキサー)だ」



 セトはベッドに腰かけるとサラの眼前に、得意気に石を見せる。当然、エリキサーなんて初耳だったサラは首をひねった。



「宝石にみえるが、回復薬なのか……?」

「これは原石。これを坩堝(るつぼ)で溶かすと薬になる。スプーン一杯で、すべての傷を治し、体力を完全回復させてくれるんだ」



 神のみわざとしか思えない話だ。



「ポーションのようなものか?」



 アメリアの黒いポーションを思い出して、まじまじとエリキサーと呼ばれる石を見る。



「フル回復するから、ポーションより上級のものだな。つーか、ポーションなんて言葉、よく知ってんな。この国じゃ流通してないだろ? あれか? あの女が配っていたやつか?」

「……あの女とは、アメリア嬢のことか」

「あぁ、そうだよ」



 セトはまるでこちらの出来事を全て見たかのように淀みなく答えた。

 不信感を持ちつつも頷くと、セトは鼻で笑った。



「ポーションという言葉で惑わしたか。本物の魔女みてえなやつ」



 軽蔑した声色に無言でいると、セトは気を取り直したのか、明るい口調で話し出した。



「あんたの飲んだポーションは、ポーションっていう名前だけで、全く違うものだ。

 実物を見ないと成分は分からないけど、【未完成の賢者の石】だろうな。黒かっただろ?」



 確かに黒かったが、賢者の石とな?

 自分の知っている賢者の石は、赤い鱗を持てる聖女の力で、色は赤だったはず。



「黒かったな……賢者の石というものは、赤だけではない色があるのか?」

「色によって効能のレベルが変わるんだ。弱いのが黒。次が白。次が赤で、完成形の色は七色になるはずだ」

「そうなのか……お前の話が真実なら、アメリア嬢のポーションは、一番弱い賢者の石ということか?」

「ご明察。ポーションってのは、本来、無色透明だ。ニンフっていう精霊の住む湖の水を汲んで、その中に月の石をいれて二十日間寝かせて作るんだ。

 そうすると傷を治癒できる水、ポーションができる」



 精霊も月の石も見たことがないから、現実味がない。

 お伽噺の世界に迷いこんだみたいだった。


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― 新着の感想 ―
[一言]  最初は、ポーションが洗脳系の薬で、何度も飲んでいるうちに操り人形になるのかと思っていたんですが、どうも違和感があって。  どうやら、流出した技術の奪還とか、サラマンダー以外にも人間に付与で…
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