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不死鳥の聖女  作者: りすこ
第五章 善と悪の戦い
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錬金術師 対 錬金術師 ①

 セトはとっさに、ミルキーとライラを両脇に抱えて跳んだ。


 ──ドゴオオオン!


 ゴーレムの一撃はセトをとらえず、礼拝堂の床にめり込んだ。

 衝撃で大地がゆれ、石の床は砕けちる。

 ゴーレムの指も折れて、ぼろぼろと崩れたが、また元に戻ってしまった。


 ──ライラを逃がさねえと!


 セトは彼女の安全を第一に考え、ゴーレムから離れた。

 ライラを地面に下ろし、声をだす。


「走って、逃げろ!」


 ライラは体を大きく震わせながら、足を動かそうとする。

 が、ゆらりと佇む巨人に足がすくんでしまい、その場にへたりこんでしまった。


 あれは神話にでてくる魔神ではないか。

 太陽を隠すほどの巨大な存在に恐怖して、呼吸を忘れてしまう。


 怯えて動かないライラを背にして、ミルキーは笛を鳴らした。

 鳥型のロボットが彼女に近づいた。


 背中には、ミルキー愛用の斧がくくりつけられていた。

 堂々と武器を持ち込むと不審がられるため、ロボットに付けていたのだ。

 背中のひもを解いて、斧を回して構える。


「うっ……」


 崩れた礼拝堂から、誰かのうめき声が聞こえた。


 すぐさま二人とも声の方に駆け寄った。

 礼拝堂の中にいた神官だ。

 体の半分が埋まっているが、まだ生きている。


「ミルキー、おれが瓦礫をぶっ壊すから!」

「わかっているわよ! やりすぎないでよ! 建物が倒壊するわ!」


 セトは瓦礫を拳で壊して、どかしていく。

 ミルキーが神官を救出したのをみて、完全回復(エリキサー)が入った袋を投げて、彼女に渡した。


「もう、大丈夫よ」


 ミルキーが神官に完全回復(エリキサー)を飲ませる。彼は回復をした。

 服に血はついたままだが、体は元通りだ。


「くそっ! 他の奴はまだ中かっ!」


 セトは瓦礫を掻き分けて、他の神官を探した。

 ライラが泣きそうな顔で、回復した神官に近づく。

 生きててよかったという安堵は声にならず、ライラはすがりつくように神官に抱きついた。


 その様子を見ていたアメリアが、興味深そうに目を三日月の形にする。


「まぁ……不思議なポーションをお持ちなのですわね……完全回復薬かしら?……ふふ。あなたが持っているなんて、幸運だわ」


 アメリアが笑っているのが不快でたまらなかったが、今は神官の救出が先だ。


「あら、大変そうですわ。お手伝いいたしましょうね」


 アメリアはにたりと笑う。


「魔神マナフよ。その男を潰しなさい」


 ゴーレムはセトに向かって、拳をつきだした。


「邪魔すんじゃねええ!」


 セトは、その拳を両手で受け止めた。

 避けたらまた礼拝堂が崩れて、神官たちの命が危ない。

 自分の背丈よりも大きな拳だったが、力なら上だ。


「ひっこんでろ!」


 セトは力任せに、拳を押し戻す。

 ゴーレムは後ろによろけたが、また踏みとどまり仁王立ちする。


「あら、ずいぶんと力持ちさんなんですね」


 無邪気な声を無視して、セトは錬金術を発動する。


「エメラルド・タブレット、オープン! 分解、開始!」


 両手をつけて、瓦礫を砂にかえしていく。

 その様子を見て、アメリアは目を丸くした。


「まあ、本当に魔法のようですわ」


 くすくす笑うアメリア。

 セトはミルキーと一緒になって、下敷きになった神官を救出した。


 五人いた神官はすべて瓦礫から引きずりだせたが、一人は息が絶えていた。


 その者は、ミルキーと会話した神官だった。

 彼の穏やかな声を思いだし、ミルキーの目が真っ赤になる。


「いやっ……」


 ライラが亡骸にふらりと近づく。

 彼の前に立つと膝から崩れた。

 金色の瞳から、大粒の涙がこぼれる。


「いやあああっ……!」


 亡骸にすがりついてライラが泣き叫ぶ。

 ライラの悲痛な声を聞いて、セトは拳を強く握りしめた。

 完全回復(エリキサー)は、死者を呼び戻す力はない。

 彼はもう帰らないのだ。


 全身を怒りで震わせた後、アメリアとゴーレムを鋭く睨んだ。

 ミルキーは怒りの形相で叫ぶ。


「早く、逃げて。できるだけ遠く。遠くよ!」


 彼女の声に我に返り、一人の神官が泣きじゃくるライラの肩をだき、一人は遺体を丁重に持ち上げて、全員で駆け出した。



 神官たちの足音を聞きながら、セトは残った瓦礫を踏んで跳躍する。

 柱だけになった場所に立ち、アメリアと視線を合せる。

 ミルキーは肩に斧をのせて、小さい体を器用に動かして、後に続いた。


 対峙した三人。

 セトは構えをした。

 ミルキーも肩から斧をはずして、切っ先をアメリアに向ける。


「ぶっ潰してやる……」


 セトが低い声で言うと、アメリアはうっそりと微笑んだ。


 ──オオオオオオオオ!


 ゴーレムの拳が、セトに向かってきた。


 頭に当たったら脳に集中したコンピューターが誤作動を起こすかもしれない。

 セトは拳をかわし、一度、巨大ゴーレム全体が見える位置まで跳ぶ。

 建物の瓦礫でゴーレムの細部までは見えないが、体の芯は見えた。


 セトは目をスキャンモードに切り変える。

 レントゲンで映したみたいになり、ゴーレムの骨格が透けた。


 ゴーレムは砂でできているので、骨はないが、動力となる護符があるはずだ。

 喉の辺りにあると、予想を立てたが、護符は見つからない。


 ──真理の文字を掘っているタイプのやつか?


 頭文字を消さない限り、ゴーレムは再生を繰り返す。

 セトは、ズーム機能を使って、ゴーレム体から文字を探した。


 空振りしたゴーレムは、巨大な手のひらを横にスライドさせて、ミルキーに襲いかかる。

 ミルキーはふんっと鼻息を鳴らして、拳をかわした。


「アタシがあの女をやっちまうから、兄さまは巨人の方をお願いね!」


 ミルキーがゴーレムの腕の上を素早く走る。

 もう片方の腕がミルキーをとらえようと動いたが、彼女の方がわずかに速い。


 ゴーレムの四角い頭を器用に上り、ミルキーはジャンプすると、勢いのままにアメリアに向かって斧を振り上げた。


「うりゃああっ!」


 ──ガキン!


 アメリアは黒い籠手(ガントレット)で斧を受けとめた。

 ミルキーはギリギリと歯を食い縛る。

 アメリアはニタリとルージュがついた唇を持ち上げた。


「そんなものでは、わたくしの鎧は貫けませんわ……」

「言ってくれるじゃないのっ……」


 ミルキーは目を見開き、斧を引くとさらに力を込めて、一太刀を繰り出す。


 ──ガキンッ! ガキンッ!


 肩の上で、二人が攻防を続けている間、巨大な手がミルキーを拘束しようとゆらりと動いた。


 跳躍していたセトが、ゴーレムの反対側の肩に着地して、ミルキーに襲いかかる手に向かって足をだす。


 ──バキッ!


 ミルキーをとらえる直前。

 セトの鋼鉄の足がゴーレムの指をへし折る。


「おりゃあっ!」


 セトは滞空しながら、何度も蹴りをして、ゴーレムの手を崩壊させた。


 ──オオオオオオオオ!


 意思のないはずのゴーレムが、怒ったように体を反らす。


「くっ……」


 肩に乗っていたミルキーがふらついてしまった。

 アメリアはその隙を見逃さなかった。


 ──ガキンッ!


 腕をしなやかに振り上げ、ミルキーの斧を黒い籠手(ガントレット)で弾いてしまう。

 斧は回転しながら、地面に刺さった。


 ──オオオオ……!


 巨大ゴーレムが足をあげて、斧を踏んだ。


 持ち手が木製だった斧は、柄が無惨に割れて、使い物にならなくなってしまう。


 ミルキーは舌打ちして、一歩、後ずさる。

 アメリアは狂気で口元をつりあげた。


「あははは! さようなら、妖精さん!!」


 間合いをつめられ、鋭い爪先がミルキーに襲いかかる。

 ミルキーはセトと同じ武術の構えをした。


「妖精なめんな! 武器がなくたって、戦えるんじゃあああ!」


 ミルキーは低い身長を、さらに低くして猪のように突っ込む。

 アメリアの鋭利な切っ先を寸前で、かわした。


「うおおおっ!」


 ミルキーはアメリアに体当たりをして、彼女の体に両手を回してホールドした。


「わさわざ死ににきたの? バカな妖精さん」


 アメリアがニタリと笑い、爪がミルキーの脳天をとらえる。

 ミルキーはふがーっと鼻息を出した。


「バカはそっちよ! アタシの兄さまはむちゃくちゃ強いって言ったでしょ!」


 ゴーレムの両手を破壊したセトが、アメリアの背後に跳んでいた。


「ミルキー! どけえええ!」


 ミルキーの手が離れるのと、アメリアがセトに気づくのは同時だった。


 ──バキッ!


 アメリアの頭に、セトの回し蹴りが炸裂する。

 被っていた黒い兜が吹き飛び、アメリアの体は、ゴーレムの肩から投げ出された。


 ゴーレムがアメリアを受け止めようとするが、両手がなくなってはそれもできない。


 アメリアは地面に叩きつけられた。


 ──オオオオオオオオ!


 ゴーレムが割れんばかりに咆哮する。

 彼女が攻撃されたことを怒りくるっているようだ。

 地面に落ちていた砂を吸い込み、壊された腕が再生されていく。


 ゴーレムは気を失ったアメリアを片手で大事そうに抱いた。

 もう片方の手で、セトたちを握りつぶそうとする。


 ──オオオオオ!


 セトはミルキーを脇に抱えて、一撃をかわす。

 そのまま翻り、地面に着地すると、ゴーレムはセトに向けて巨大な足をあげて、踏み潰そうとした。


 ──ズドンッ!


 回避すると、重い地響きを立て、ゴーレムの足跡分、地面がへこむ。

 ゴーレムはうなり声をあげて、何度もセトを踏み潰そうとする。


 礼拝堂はもはや形をなくして、瓦礫の山だ。

 激しいゴーレムの地響きは、礼拝堂の手前にあった聖門にヒビを入れた。


「──ひっ」

「うわあああっ!」


 まだその場に留まっていた第三隊の兵士が、倒れてくる門に青ざめ、逃げ惑う。


 ──ドゴン!


 数人が巻き込まれ、下敷きとなってしまった。


 セトたちはゴーレムの相手に集中していて、建物の向こう側の混乱までは気が回らない。


 しかし、ヤルダーとミゲルが大聖堂前に到着して、住民の退避命令をだしていた。

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