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不死鳥の聖女  作者: りすこ
第五章 善と悪の戦い
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脱獄③

「行くぞ、ミルキー!」


 ライラを背負ったセトは、伸びた兵士の剣を漁るミルキーに声をかけた。


「ちょっと待って……もう、長剣ばっかねえ。アタシ、長剣は苦手なのよ。斧はないの? 斧は!」

「早くしろって!」

「……短剣があったわ。これにしましょっ」


 ミルキーは短剣を手にして、鼻息を荒くする。

 二人は走りだした。


「どっちに行けばいいんだ!」

「たぶん、あっち! 階段があるはずよ!」


 見張りの兵士は、全員片付けたらしく細長い廊下には誰もいない。

 階段がある入り口は、鉄製の分厚い扉で、鍵がかかっていた。


「やだもお。鍵はどこよ。誰か持ってんのかしら」


 ミルキーが鍵穴を覗き込む。

 セトはライラを下ろすと、後ろにさがるように言った。


 錬金術を使うのかしら?とミルキーが見ていると、セトは扉にむかって、思いっきり体当たりした。


 ──ドカッ!


「いや、ちょっと、兄さま……」


 ──ドカッ! ドカッ! ドカッ!


「そこは物理攻撃じゃないでしょおお!」


 ──ドガンッ!


 留め具が外れ、扉が重い音を立てて倒れる。

 セトはふんと鼻を鳴らした。

 それを見てミルキーは、あちゃあ、と思うと同時に驚きを隠せなかった。

 少し前のセトは、もっと冷静だったはずだし、こんなに感情をむき出しにしなかった。


 ──サラさんのおかげで、より人間ぽくなったのかしら……? でも、脳筋に拍車がかかっているわ……


 またライラを背負って駆け出したセトの背中を見ながら、嬉しいと思う反面、コントロールが難しそうだと感じていた。



 三人は石造りの階段を駆け上がっていく。

 これだけ暴れたというのに、奇妙なぐらい静かだ。

 てっきり他の兵士がくるかと思ったが、足音が前から聞こえなかった。


 ──扉が開いたら、待ち構えていましたとかないわよねえ……


 ミルキーは短剣を握りしめる。

 入り口まできたとき、また扉があったので、今度は錬金術をつかえと、セトにきつく言う。


 セトはライラを下ろして錬金術を発動した。

 鉄の扉が腐食してボロボロに崩れた。

 セトが一歩外に出ると、両脇にいた見張りの兵士と目が合う。

 叫びだしそうな見張りの口を、セトは手のひらで押さえた。


「ちょっと黙っててくんねえ?」


 淡々と言って、見張りの体を持ち上げる。

 くぐもった叫び声を出し、見張りの足がばたつきながら床から離れる。

 腹を殴り気絶させると、背後にいたもう一人は回し蹴りして、床に叩きつけた。


 左右を確かめると窓一つない廊下だ。

 薄暗く、入り口が見えない。

 セトは瞳を暗視モードに切り変えた。

 右の入り口で、物音に眉根をよせる兵士が二人いた。

 ライラの肩を支えながら出てきたミルキーに、セトは問いかける。


「右に行けばいーのか?」

「え? そうよ。よくわかったわね」

「兵士がくる。その子、おぶってくから援護頼むな」

「斧がないからちょっとむずかしいけど、やってみるわ」


 セトはライラをおんぶして、彼女に声をかける。


「暴れるから、しっかり抱きついておけな」


 ライラはこくりとうなずき、細い手を彼の首に回した。


「行くぞ」


 短く声をかけて、セトは走り出す。

 足音を聞いた兵士が向かってきた。

 セトは加速して、一気に跳躍した。

 足を止めて、唖然と自分を見上げる兵士を眼下にとらえる。


 後ろ回し蹴りをして頭をぶっ飛ばす。

 着地すると、ミルキーが短剣で兵士と応戦していた。


 ──キンッ キンッ


 刃物がぶつかり合う音がする。


「やっぱり斧が欲しいわねえええ!」


 ミルキーは剣同士の打ち合いにせりかった。

 剣を弾かれた兵士はミルキーを睨み付け、体勢をととのえまた剣をミルキーに振りかざす。


 ──ドガッ


 ミルキーに刃物が届く前に、セトが足を高くあげ、兵士の後頭部に踵を食らわす。

 兵士はめんたまが飛び出るかという衝撃を受けて、剣を振り上げた体勢で倒れた。


「アタシ、いらなくない?」


 肩をすくめるミルキーを置いていけぼりにして、セトは走り出した。

 ミルキーは外に出たら鳥型のロボットを呼び出して、くくりつけてある斧をゲットするかと、思い直して彼を追いかけた。



「なんだ、貴様は!?」


 ──ドガっ! バキッ!


 集まってきた兵士を足だけで次々と倒していくセト。

 押し寄せてくる兵士に、ミルキーも応戦する。


「うぜえ……」


 蹴っても蹴っても向かってくる兵士に、セトはキレた。

 ぽいぽいっとサンダルを脱ぎ捨てて、膝を屈伸させて跳躍する。

 兵士の肩を踏んづけて、天井につきそうなくらい高く飛んだ。

 両足を器用にパンッと合わせて、右足だけを下にする。

 そして、王宮の壁に向かって両足をつけた。


「エメラルド・タブレット、オープン! 分解開始!」


 ──メキメキッ


 壁にエメラルドグリーンの閃光が走り、大穴が開く。

 セトは穴から外に飛びだした。


「あーあ、やっちゃった」と、ミルキーが間抜けな声を出し、集まった兵士は呆然自失だ。


「なんなんだ、あいつは……」

「人間なの……か?」

「ちっ、バケモノめ……」


 異質な力を発揮したセトを畏怖の目でみて、ざわつく兵士たち。

 ひるんだ隙にミルキーも壁の外に出た。

 外は日が昇ったばかりのようで、紫色とオレンジ色がまじった雲が流れていた。


 セトたちを警戒しながら周りを兵士が囲んでいる。

 どう攻撃をしかけようか様子を見ているようだ。


「めんどくさいから、足で振り切る」

「へ?」


 セトはライラをおろすと、錬金術を発動して足を太くする。

 そして、ライラの体を右脇にかかえる。

 ミルキーの体もひょいと左脇にかかえた。


「ちょっと、オニイサマ?」

「すげえ、早いから目と口は閉じておけ」

「え? まさか、まさかなのおおおおおっ!」


 ミルキーが話し終わる前にセトはダッシュ。

 兵士に頭突きして一人を倒して、次は蹴って踏みつけて、猛ダッシュする。

 壁はひとっとびして、そのまま大聖堂まで一気に駆けた。

 朝早く、人気のない道をぐんぐん走る。


 あまりの風圧に、引き結んだはずのミルキーの分厚い唇がめくりあがって、歯茎がむきだしになる。


「あばばばばっ」


 ライラはセトのスピードについていけずに気を失った。




 ***


 大聖堂の前にいた第三隊の兵士を蹴散らして、セトは礼拝堂の中に突っ込んだ。

 朝の礼拝をしていた神官たちは、突然現れた褐色の男にどよめく。

 礼拝堂を守っていた兵士二名が、神官たちの前にでた。


「下がってください!」

「貴様、何者だっ!」


 セトは質問に答えるのが嫌になり、兵士を無視した。

 脇に抱えていたミルキーを床に置いて、気絶したライラにようやく気づく。


「ライラ?!」


 慌てて彼女の頭を上にして、顔を覗き込む。

 床にへばりついていたミルキーが体を起こした。


 セトのスピードについていけなくて、頭がぐらんぐらんする。

 二日酔いよりひどい状態だ。

 ミルキーは頭をふると、ぐったりしたライラの顔を覗き込んだ。


「意識を失っているみたい。呼吸はあるわ」

「そっか。じゃあ、完全回復薬(エリキサー)を……」


 セトが腰ベルトのポケットから、サラに持っていろと言われた完全回復薬(エリキサー)がはいった袋を取り出す。

 その時、一人の神官がおぼつかない足取りで歩み寄ってきた。


「ダストゥール・ライラ……」


 ミルキーと会話をした神官だった。

 ライラに近づこうとする神官を、兵士が声を張って止める。


「近づかないでください。下がって! 下がって!」

「でも、ダストゥール・ライラがそこにいるんです! 私たちの最高位神官が!」

「助けだしますから、下がってください!」


 兵士の怒号が聞こえるなか、セトはエリキサーのカプセルを一つ摘まんで、指先で割る。

 エメラルド・グリーンの液体がライラの口に入っていった。

 溜飲してくれるだろうか。

 不安だったが、ライラはふっと目を覚ました。

 細かった体が、みるみるうちに年頃の少女らしいものに変わる。

 瞬時に回復した様子を見て、神官も兵士も目を見張った。


「大丈夫か?」


 セトが尋ねると、ライラは瞳を瞬かせる。

 彼の背後に見慣れた礼拝堂の天井が見えて、ライラは体を起こした。


「ここは……」

「大聖堂に着いたのよ。体、大丈夫? ふふっ。ガリガリで気づかなかったけど、とっても可愛い顔してたのね」


 ミルキーが笑顔でいうと、ライラは自分の手を見て驚いた。

 爪先がふっくらしている。

 黒いポーションだけでは回復しきれなかった体が、すっかり元通りだ。

 こんなの信じられない。

 呆然としながら、ライラはセトを見上げた。


「……あなたはやっぱり、救世主さまなのですか……?」


 セトは苦笑いをしながら、首をふる。


「おれは錬金術師だよ。立てるか?」


 ライラはこくりと頷いて、セトに手を支えられながら立ち上がった。

 刃物を向ける兵士に気づいて、身をこわばらせた。


「貴様たちは一体……」


 信じられないものを見て驚く兵士が声をだす。

 礼拝所の入り口には、他の第三隊が集まってきた。


「その者たちを捕えろ!」


 指揮官と思われる男が声を出した。

 セトはミルキーと視線で合図すると、体を反転させる。

 向かってくる兵士に構えをした。


 ミルキーはライラの横に立って、前の兵士を警戒した。


 このままでは彼らがひどい目に合う。

 咄嗟にライラは叫んでいた。


「下がりなさい! この人たちを傷つけることは許しません!」



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