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不死鳥の聖女  作者: りすこ
第五章 善と悪の戦い
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脱獄① side セト

セト編です。サラと別れたところまで時間が遡ります。

 サラと別れた後、セトは一人で城壁の近くまできていた。

 城壁の上をズームさせると、兵士たちが慌てている姿が見える。


「おいっ!聖女……いや、サラさまが検問所に来ているぞ!」


 サラが出てきただけで、兵士たちは引き寄せられるように検問所に向かう。

 誰もいなくなると、セトは壁に穴をあけて不法侵入し、また穴を閉じて駆け出した。

 錬金術を使って、俊足にモードチェンジする。

 シペトから王都までは、馬車で三日かかるが、セトならば六時間でいける。

 風のように駆け抜け、王宮までたどり着いた。



 王宮は赤い煉瓦作りの壁で囲まれていた。

 セトは高い壁と、その先にそびえ立つ王宮を睨む。


 ──全部、ぶっ壊してえ……


 ここにいる住人のせいで、サラは苦しみ、ミルキーは囚われた。

 何もかもを破壊つくしたくなる。

 セトの憎悪に反応して、胸の右側──愛のチャークラの反対側がざわめいた。


 ──人間のみをコロセ。人間は不要。コロセ。


 と、殺戮兵器のボディが、セトの憎悪を後押しする。


 ──スイッチを押せばいい。完全にロボットになれる。感情はいらない。かけがえのない者を守りたいなら、さぁ、押せ。スイッチを押せ。


 囁くのは誰だろう。このボディの持ち主か。

 意識が吸い込まれそうになったとき、セトの心臓──愛のチャークラが熱く反応した。


 サラの言葉が、脳内で再現される。


 ──セトはセトだ。兵器ではないだろう?


 セトは我に返り、パンっと両頬を叩く。


「おれは殺戮兵器じゃねえ。錬金術師だ」


 どんな困難があろうとも願いの為に邁進する。

 それが錬金術師だ。


 セトは王宮をもう一度、見やる。

 正面突破はせずに、地下を掘っていこう。

 その方が無用な争いをさせられる。


 王宮の地下から煙突が出ているのが見えた。

 暖炉か風呂があるみたいだ。

 ということは、煙突の先には部屋があるということだろう。


 やみくもに掘るよりはあたりをつけた方がいいと判断して、セトは人目がないところに隠れ両手を合わせ、右手だけを下にした。


「エメラルド・タブレット、オープン。分解、開始」


 土の地面に両手をつける。

 すると、地面に穴が開いた。これを繰り返す。

 セトは土まみれになりながら、地面を掘り進めていった。



 どのくらい経ったのか。

 掘り進めているうちに、セトはおかしな事に気づいた。

 そろそろ王宮の壁が見えてきてもいい頃であるが、赤い土しか見えない。

 セトは方位を確認する。

 ノイズがまじって、方向感覚が狂っていた。


 ──なんだこれ……結界でも張られているのか……?


 魔術的なものはあまり信じていないが、サラに呪詛をかける国である。

 魔除けの結界があっても、おかしくはないだろう。


 セトは深く息を吐き、方位を確認する機能を停止させた。

 ここからは勘だ。直感で掘ってやる。


 セトは気合いを入れなおし、両手をつけて錬金術を発動させた。



 数時間後……


 ──壁だ!


 ようやく見えた石壁。手をつけて材質を確める。

 周りの土と同じものだ。なら、簡単に穴を開けられる。

 脳内でレシピを瞬時に検索。セトは錬金術を発動した。


 ──バラバラ……


 壁は分解され、セトが通れる分の穴が空いた。

 穴の縁に足をかけて、中を覗く。


「なんだ、ありゃ……」


 セトが穴を開けた場所は、地下二階ではあったが、王宮の奥の突き当たりだった。

 そこは、地下三階から吹き抜けになっている太陽の間にあたる場所。

 三つの首がある黒い蛇──ダハーカがいる部屋だった。

 黒い蛇は、人の腕をバリバリと咀嚼していて、赤い液体を口から滴らせている。

 何人も食べたのか、床が赤い血で染まっていた。


 セトは目をズームさせて、黒い蛇の映像を撮る。

 瞬時に脳内のコンピューターにあるデータベースと照らし合わせてみるが、検索結果はゼロ。

 つまり、精霊の世界で暮らす生き物ではないということだ。

 自然に発生したものではない。

 これは錬金術師が、生き物を掛けわせて作った錬成生物(キメラ)だろう。


 ──こんなモノを作りやがって……!


 同じ錬金術師として、人間を食べる蛇を作り出したことが腹立たしい。

 が、今は構っている暇はない。

 後で黒い蛇を消去しようと決めて、その場を後にしようとした時。


 ──ぐりん。


 六つの赤い瞳が、セトを捕らえた。


 ──ギャアウワアアアアア!


 黒い蛇が、この世のものとは思えない叫び声をあげる。

 小さな翼を羽ばたかせて、セトに向かってきた。


「エメラルド・タブレット、オープン!」


 セトは身を引いて、壁を元に戻そうとする。


 ──ギャウワアアア!


 しかし、一瞬、遅かった。

 黒い蛇は牙をむき出しにして、セトに食らいつこうとする。

 それを寸前で避けて、後ろに引いた。


 ──ガチン、ガチン!


 牙を鳴らしながら、黒い蛇は穴をこじ開けようとする。

 黒い蛇の衝突に壁が耐えきなくなって、ヒビがはいった。このままでは、地下が壊れる。

 ミルキーが危ない。


「くそっ! エメラルド・タブレット、オープン! ──再構成、開始」


 セトは錬金術をつかい、周りの土を利用して強固な一枚の壁を作る。

 それを全力で押した。

 壁が黒い蛇を押し返す。

 黒い蛇も錬成した壁を破壊しようと暴れくるう。


「おまえに構っている暇はねえんだよ!」


 足を踏ん張り、力の限り押す。

 突っ張っていたセトの両手が震えだし、掘ったばかりの地面はサンダルでは滑る。

 だけど、力比べなら負けてたまるか。


「くそったれええええっ!」


 セトは吠えて、フルパワーで押していった。


 ──ずっ……ずっ……


 壁が黒い蛇を押しながら、王宮へ戻っていく。


 ──ギャアウワアアアアア!


 ドンッ!


 城の壁まで押切ると、びしゃっと、黒い蛇の一部が引きちぎれてとんだ。

 腕を突っぱねたまま、セトはサンダルを脱ぎ捨てる。


「エメラルド・タブレット、オープン! ──錬成開始!」


 器用に両足をつけて、右足を下にする。

 そして、壁に両足をつけた。

 城の壁が元に戻っていく。ひび割れもなくなった。


 ──ドンッ! ドンッ!


 黒い竜が体当たりしてあるのか、壁から轟音が響く。早くこの場を去りたい。

 セトはサンダルを履くと、壁づたいに穴を掘ろうとした。


「ん? なんだこれ……」


 地面にびくびく動いている黒い塊がある。

 黒い蛇の残骸だ。

 意思を持ったように動くソレを手にとり、成分を分析する。


 ──エラー。ロックがかかっています。パスワードを入力してください。


 脳内のコンピューターが検索結果を返してきたが、ロックの文字にセトは首をひねった。


(ロックをかけたのは、ノームじいさんか? なんで……)


 素材を分析できないと、錬金術が使えない。

 セトは通信をオンにしてノームに尋ねようとしたが、ノイズがまざって音声は拾えなかった。


(ったく……外に出たら、連絡するか……)


 あの黒い蛇を消去するにも、この黒いモノが何か知る必要がある。

 セトは手早く腰ベルトから、小型のタブレット端末を取り出すと、ノーム宛にメッセージを送信した。

 電波が届けば、自動でメッセージは送られるだろう。


 セトは予想外の事態に苛立ちながらも、掘り進めていく。

 太陽の間の先を掘ったところで足をとめた。

 思いの外、時間がかかったことにムカムカして、錬金術を使わずに、壁をおもいっきり殴ってしまった。


 ──ドンッ ドンッ ドンッ! ドガンッ!!


 冷静さに欠けたまま、壊した壁の中を覗く。

 そこは幸運なことに、ミルキーたちがいる場所だった。


 口をあんぐり開けたミルキーと目が合う。

 元気そうな姿にほっとしていると。


「バカああ! そんなド派手に登場してどうすんのよ! 脱獄ってのはね! 静かに粛々とやるもんなのよ!」


 ミルキーに、こっぴどく怒られた。



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