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不死鳥の聖女  作者: りすこ
第五章 善と悪の戦い
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潜入④

「ミルキーさま。アーリア国に定住してくださいませ。もちろん、ウーバーに居た頃の倍額はお出しいたします」

「あら、素敵なお誘いですわ。でも、アタシがいなくなったら、悲しくて泣いちゃう家族がたっくさーんいるんです。丁重に、お断りいたします」

「まあ、そうなの。おかわいそうに。もう、ご家族に、お会いになれませんもの」


 アメリアが、たんっと黒い靴で床を踏む。それを合図に扉が開いて、近衛兵が駆け込んできた。

 二人を囲み、場は一気に緊張感が高まった。


「あらあら~。これは、どういうことでしょうか?」


 周囲を睨み付けながら、ミルキーは心の中で舌打ちした。


「ミルキーさまを傷つけるのは、おやめください!」


 フロックが前に出ようとするが、近衛兵に阻まれる。

 ミルキーはフロックに控えているように、手で合図する。


 ──いきなり監禁する気? ちょっとそれは、タイミングが早いんだけど。


 都合よく行くとは考えていなかったが、強行策にでるとは予想外だ。

 ミルキーは嘆息して、アメリアに話しかける。


「アタシ、ウーバー国の公認技術者なのですが」

「ええ、そうみたいですね。存じておりますわ」


 にこっと笑ったアメリアに、ミルキーは顔をしかめた。


 技術大国ウーバーでは、フェアリー・メイソンの幹部が中枢にして、精霊の存在にも寛容である。

 さらに、技術者の地位は高く、公認は国が守ることを意味している。


 ミルキーがアーリアに行ったまま戻らないことは、ウーバー国から調査が依頼がくるだろう。

 それが何を意味するのか。

 ミルキーが戻らないというだけで、国同士の関係を悪くする自体になりかねないということだ。


 アメリアはそれが分かっているのだろうか。

 彼女の思惑が分からず、ミルキーは口を引き結んだ。


「ウーバーとの関係を悪化させたいのですか?」


 脅してみても、アメリアは涼やかに笑うのみだ。

 その笑顔が不気味だった。


「ねえ、ミルキーさん。あなたって、わたくしが子供の頃、読んだ童話に出てくる小人にそっくりなんです。ウーバー国民の中に、そんな風貌の方はいたかしら? あなたは一体、何者ですか?」


 やはり精霊の存在を怪しんでいる。

 ミルキーは顔に焦りをださずに、不敵に笑った。


「それをいうなら、王妃殿下も同じでしょう?」


 ミルキーは一歩、前につめよる。


「あの喉ごしのわっるーいポーションを開発したあなたは何者ですか?」


 アメリアはころころと笑う。


「まあ、ポーションをご存知かのような口ぶりね。本当に妖精さんかしら? ふふっ。楽しい。あなたのお話、たくさん聞きたいわ」


 ミルキーは心の中で舌打ちした。

 ここで暴れてもよいが、人数が多すぎる。

 武器となる斧もない。

 ひとまず引こう。

 ミルキーは両手をあげた。


 アメリアが目で合図すると、近衛兵はミルキーの両脇を掴んで拘束する。


「ミルキーさま!」


 フロックが叫ぶが、近衛兵が剣の鞘で彼の頭を殴りつけた。

 血を流して倒れた彼を見て、ミルキーが地を這うような声をだす。


「おい、フロックに手をだすな。我らの仲間が黙っていないぞ」


 人間のものとは思えない声に近衛兵がひるむ。


「連れていきなさい」


 アメリアの指示により、ミルキーは地下牢へ連れていかれた。




 *




「いーやー!えっちー!」


 身なりをひんむかれたミルキーは、地下二階の地下牢にて全力で叫んでいた。


「大人しくしろっ!」


 兵士に囚人服を無理やり着せられ牢獄に閉じ込められてしまう。

 ミルキーはふんがーと鼻息を荒くして自主規制用語を散々、吐き出した。


 ひととおり文句をいい終えると、腰に手をあててもう一度、鼻息を吹き出した。

 荷物はすべて没収されてしまったが、ルンルンは動いている。

 自動モードにしたから、なにか探れればよいのだが。


 嘆息して周囲を見渡すと、牢の隅に人影を見つけた。

 近づくと、衰弱している少女だった。


「ちょっと、あなた大丈夫?」


 慌てて少女を抱き起こす。

 手足は細く息も絶え絶えだ。

 ミルキーは三つ編みにしていた髭をといた。

 長い髭の合間に、カプセル型のポーションを隠していたのだ。


「ほら、これ飲んで」


 外にいる監視を気にしつつ声をかける。

 少女はなんとか口を開いて、ポーションを飲んでくれた。


 少女の顔色がよくなり、虚ろな瞳が開く。

 ミルキーは胸をなでおろした。


「あなたは……」

「アタシはミルキー。ウーバー国の技術者よ」

「ウーバー……」


 少女が体を起こす。

 浮世離れした顔立ちの少女だ。

 瞳は金色で、髪は赤茶色。

 小柄だが、瞳と髪色が似ているせいか、サラの容姿と重なった。


 服も囚人服とは違っていて、白い神官服を着ていた。


 ミルキーは鉄格子に近づき、鉄の隙間から見張りの兵士を確認する。

 彼らは入り口の方に歩いていた。

 小声なら、話をしても聞こえなさそうだ。


 少女の所に再び戻って、小声で尋ねる。


「ねぇ、あなた。もしかして、最高位神官(ダストゥール)?」


 ミルキーが尋ねると、少女は体を大きく震わせて、口を引き結んだ。


「違うの? じゃあ、名前を教えてくれない?」


 少女は小さな声で答える。


「……ライラです」

「ライラね。宜しく。ね、ライラはどうしてここにいるの?」


 ライラは黙り込んでしまう。


「言いたくなけばいーけど。大聖堂に行ったら、神官が変な態度だったから、気になったのよねー」


 そう言うと、ライラはミルキーの服をつかむ。


「みなはっ……みなは、大丈夫なんでしょうかっ」


 切羽詰まった声に、ミルキーは笑顔でいう。


「見た目はいつも通りだったわよ。儀式もしていたし、大聖堂も壊れている様子もないし」


 そう言うと、ライラはほっとした顔をする。


「ねえ、ライラ。出会ったばかりで信じろって方が無理かもしれないけど、アタシ、力になるわよ。サラさんの仲間だし」

「サラ……さまの……?」


 ライラは目を見張り、瞳をうるませた。

 彼女の精神は擦りきれていた。

 誰でもよいから助けてほしいと願うほどに、心は限界だった。


 ライラは涙を流しながら、自分のことを話し出した。


「あなたのおっしゃる通り……わたしは最高位神官(ダストゥール)です……」

「ずいぶん、若いのね。いくつ?」

「今年で十五になります……成りたてなんです……先代は……ドルトル王によって殺されました……」


 ライラはドルトルが画策した婚約解消騒動の裏にあった話をした。



 そもそも聖女の儀式──赤い賢者の石は、ロスター教のはじまりからあるものだ。


 ロスター教の開祖ロスター・シュトナトフが最高神の信託を受けて、火の精霊サラマンダーを焼いたことから始まる。


 彼女の嘆願を受けて、ロスターは彼女の首を跳ねた。


 サラの首回りにだけ、赤い鱗が残っているのは、切断された箇所がそこだからだ。


 ロスターはサラマンダーの頭と体を、最高神の指示により焼いた。


 頭部は【賢者の剣】となり、体は【賢者の石】になった。


 賢者の石は聖杯の上で火に炙ると、赤い液体となり、ロスターの娘が飲んだ。

 娘は三日間、苦しみ続け異形の力を得た。

 火器に強い体だった。


 初代、聖女の誕生である。


 彼女はロスターに反旗を翻した者たちから、賢者の剣と火に強い体を武器に戦い、敵を退けた。


 その敵は、周辺国を飲み込み、今や巨大国家となっている。

 サラが戦ってきた帝国であった。


「サラマンダーさまがいなくなったのは、この国を帝国から守りたかったからなのね」

「……あなたは、サラマンダーさまをご存知なのですか?」


 ミルキーは曖昧に笑って、言葉を濁した。


 神話となってしまったので、実際、何が起きたのかは不明であるが、最高神というのは、神ヘルメスのことかもしれないと、ミルキーは推察した。


 ──神様がサラマンダーさまの願いを聞いて、聖女を産み出したのかしらね。

 それに、【賢者の剣】も聖女さまが持っていたという話なのも意味わかんないわ。

 なんであの王子が持ってるのかしら?


 思考をめぐらせていると、ライラは話の続きを話した。


「最高神さまの信託により、聖女の力が受け継ぐことが決められました。

 帝国から守るために、奇跡を与えつづけよ、と言い伝えられています。

 わたしたち神官は、最高神さまの言いつけを守り続けてきました。ですが……」


 ライラが顔をおおう。


「ドルトル王はサラさまから聖女の力を引き剥がし、賢者の石を粉々に砕くといいました。

 それは神の導きに背くものだと、先代が抵抗して、それで……」


 ドルトルは先代の最高神官(ダストゥール)をライラの前で殺した。

 彼女は先代の死を目の当たりにして、恐ろしさのあまり、ドルトルに命乞いをしてしまった。


 ライラの瞳から、ぼろぼろと涙がこぼれる。


「……わ、わたしは神官でありながら、神にそむく行為をしました。後は任せたと先代に言われたのに……わたしはっ……」


 ミルキーは咽び泣くライラの背中をさする。


「目の前で人が殺されたんだもの。しょうがないわ。怖かったわね」


 慰めを言いながら、ライラに尋ねる。


「命乞いをしたら、ここに連れてこられたの?」


 ライラがこくりと頷く。


「サラさまがいなくなられたとかで……」

「そう……それにしてはずいぶんな扱いみたいだけど……」


 ライラは細い腕を前に組んで、手を握った。


「命を絶とうと思って……食事をしなかったら、黒いポーションを飲まされて生かされています……」


 ミルキーは表情を厳しくした。

 ポーションをだけで命をつないでいたから、ライラは痩せこけているのだ。


 ミルキーは震えるライラの頭をなでる。


「あなたとここで会えたのはラッキーだわ。アタシってば、やっぱついているわね」


 ミルキーは髭に絡まっている爪先ほどの小さな通信機器をオンにする。


『あー、あー、電波が悪いけど、兄さま、聞こえる?

 捕まっちゃったから助けにきて。

 王宮のねえ、地下二階かな。

 うんうん。そうよ。


 サラさん、囮にするのね。わかったわ。

 うんうん。無理しないでね。


 それに、最高位神官(ダストゥール)も見つけたわよ。

 うんうん。大聖堂に送り届けた方がよさそうね。


 あ、兄さまは、王宮ごとぶっ壊すんじゃないわよー。アタシ、埋もれるからねー』


 声が掠れてよく聞こえないが、返事はあった。

 突然、精霊語で話したのでライラが驚いていた。


「ねえ、ライラ。ロスター教の神話って、確か救世主がいたわよね?」

「え……? はい」


 ライラはこくりと頷く。


「もうすぐ、救世主がくるわ。

 だから、死なないで、長生きしてくれないかしら?」


 ミルキーは、分厚い唇をにっと持ち上げた。



ネタバレの登場人物一覧にて、ドルトルが持っている【賢者の剣】の成り立ちは第五章にてと書いていましたが、この話で触れました……あちらの方も修正してあります。


次はサラ視点になります。

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