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不死鳥の聖女  作者: りすこ
第五章 善と悪の戦い
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潜入③

4話、まとめてアップしています。12時にもう1話アップします。

 サラたちとの通信を終えて、ミルキーは鞄の中から小袋を取り出す。

 その中には、カプセル状のポーションが入っていた。


 あーん、と大口をあけて一口で飲み干す。

 みるみるうちに鼻の傷は癒えた。


 回復したミルキーは荷物をまとめて、部屋から出た。

 扉を開くと護衛と目が合う。

 口を引き結んで気まずそうな彼に、にっこりほほえんだ。


「あら、アタシったらそんなに気になっちゃうほどいい女? そうよねー、そうよねー。アタシ、とってもキュートな顔をしているもの!」


 護衛に気安く抱きつき、指先で彼の腰をまさぐる。


 ──帯刀している剣は一本。飛び道具はもってなさそうかしらねえ。


 暗器を投げつけられ、刺されることはなさそうだ。

 うっとりとした眼差しを送りながら、熱心に確めていると、護衛は顔をひきつらせた。


「あのっ……」


 しどろもどろで身を引く護衛から手を離す。


「うふふ。アタシ、フロックに大聖堂を案内してもらうの。あなたも付き合ってくれるんでしょ?」


 護衛は目を泳がせた後、「仕事ですから」と短く答えた。



 ミルキーはフロックと護衛と共に王都を目指した。

 馬車で三日かけていき、レンドル橋を越えれば大聖堂は目の前だ。


 大聖堂の建物は白が基調とされた石造り。

 長い歴史があるせいか華美な装飾はなく、シンプルな外見だった。


 礼拝所の最上部には、翼を広げた人のレリーフがあった。

 天使のような姿は、神の使徒の一人──聖女である。


 礼拝堂の中にはいると、ガラスで囲われた中に燃え盛る炎が見える。

 ちょうど祈りの時間がきて、声が通る神官が熱心に聖典をうたいだした。

 フロックも祈りに加わり、ミルキーはそれが終わるまで待っていた。


 祈りが終わると、フロックとミルキーは帰っていく信者と逆方向に歩きだした。


 フロックがミルキーのことを司教に紹介して、儀礼的な挨拶をすると、神官は驚きながらも柔和な笑みを浮かべた。


「ウーバーからの訪問とは、さぞかしお疲れでしょう」


 地下鉄できたし、がっつり弁当も食べたから平気よ、とは言えずミルキーは笑顔で答える。


「はじめまして。お会いできて光栄ですわ。最高位神官(ダストゥール)さまのお顔を拝見したかったのですが、難しいのでしょうね」


 神官は最高位神官(ダストゥール)の名前を聞いて、急に青ざめた。

 瞳孔が開いて、目が泳いでいる。


「え、えぇ……最高位神官(ダストゥール)さまは……尊いお方なので、姿を見るのは残念ながら……」


 小刻みに震えだした神官に、ミルキーはあっさり引き下がった。


「そうですよね。つい儀式に感動して差し出がましいことを言いましたわ。……きっと、あちらの扉の先で、今も神に祈っているのでしょうね」


 警備兵が二人立った奥の扉に視線をうつす。


「え、えぇ……この国の安寧を祈願しております……」


 弱々しくなる言葉にミルキーは礼を言って踵を返す。


 おそらくだが、最高位神官(ダストゥール)はいない。

 いつからなのか分からないが、動揺が隠しきれていないところを見ると、つい最近のことなのかもしれない。


 ミルキーはフロックと共に足を踏み入れられる箇所は全て歩いた。

 建物の構造。兵士の人数をセトたちに知らせるために。


 ──結構、兵士がうろちょろしているけど、お兄さまなら平気でしょ。


 セトが侵入して呪いの解除ができればよいが、肝心の最高位神官(ダストゥール)はどこへ行ったのだろう。



 大聖堂を後にしたミルキーは、詳細を報告した後、王都で一泊した。

 ミルキーを紹介するため、フロックがドルトルに対して前触れを出したが、まだ返事が来ていなかった。


 その晩、ミルキーはフロックのお金でたんまり飲み食いした。


「いやぁ、お酒は最高よねえ! じゃんじゃんもってきてえ! お兄さん!」


 わっはっはっと、豪快に笑いながらジョッキを次々に空にしていくミルキー。

 フロックは苦笑した。


「ミルキーさまがお酒が強いなんて知りませんでした」


 ミルキーはにたりと笑って精霊語で話す。


『アタシ、ドワーフだもの。お酒はだあい好きよ。フロックとこんな風に飲める日がくるなんてねえ。この国に来てよかったわあ』


 ご機嫌なミルキーにフロックは優しく目尻をさげる。


『……私もこんな日がくるとは思いませんでした』

『フェアリーメイソンの講習って、地下の密室でやるからねえ。ただの技術提供だから、そっけなかったし。たまにはこんな風に飲んだっていーわよね。うふふ。タダ飲み最高!』


 ぐびぐびと酒を一気に煽る。

 フロックは苦笑いしながらも、嬉しそうに顔をほころばせた。


 上機嫌な二人の元に護衛が近づく。

 フロックの耳元で彼は会話をした。

 彼は顔を厳しくして、頷いた。

 ミルキーに向きなおったときには、また穏やかな顔になっていた。


「ミルキーさま、そろそろ宿にいきましょう。明日は出かけますし」


 その一言で、城に行くことが決まったのだと察する。


「おにいさーん! お酒、あと二杯もってきてえ!」


 ミルキーの注文にフロックがぎょっとする。

 ミルキーは精霊語で話かけた。


『飲んで飲んで、戦いに勝つわよ! あんたも一気飲みしなさい!』


 きたグラスをフロックに手渡す。

 フロックとグラスを合わせて二人は一気に酒を飲み干した。


 ふがーっと鼻息をだして、分厚い唇を手の甲でぬぐう。

 気持ちよく飲んだミルキーは、ニタリと笑った。


『フロック、さっき話、通りにいくわよ。演技、付き合ってちょーだいねっ』


 フロックは酒ビンをテーブルに置いて深くうなずいた。



 *


 翌日、ミルキーたちは王宮の来賓室に通されていた。

 大聖堂とは違い豪華な装いだ。

 ミルキーは「権力をごり固めたような部屋ねー」と思いながら、相手を待っていた。


 扉が開き、フロックが立ち上がり、ミルキーも立ち上がる。


 入ってきたのは白いドレスに身を包んだアメリアだった。

 フロックが床に膝をつく最上の挨拶をして、ミルキーはカーテシーの真似事をする。

 スカートは履いてないので、よく伸びるズボンの裾をつまんだ。


 アメリアはそんなミルキーの態度にも優美にほほえむ。


「陛下は執務がお忙しいので、わたくしが代わりにお話を聞かせていただきますわ」


 ドルトルではなかった。

 賢者の剣とやらを隙あらば見たかったが、それは無理なようだ。

 でも、アメリアが来てくれたのは好都合かもしれない。

 サラの話では彼女はゴーレムを自由自在に操る得体の知れない錬金術師。

 しかもサラと同じく武術も身につけている。


 ──見た目は、いいとこのお嬢さんなのにねえ。


 細い腕に華奢な腰まわり。

 サラみたいに、しなやかな筋肉がある体には見えない。

 瞳もまるで生気がなく、お人形のようだと感じる。

 ミルキーは彼女を観察しつつ、愛想よくほほえむ。


「王妃殿下にお会いできるだけでも光栄です」

「まぁ。わたくしも、フロックに技術を伝えた方と聞いて、ぜひお会いしたかったのですよ。

 それで、陛下にお見せしたいものとは」

「こちらです」


 ミルキーは返事をしてルンルンを取り出す。

 この国のエターナル・ループを模して作ったと言ったら、アメリアは感嘆の声をだした。


「素晴らしいですわ。陛下は国内の技術発展に力を注いでおりますの。こうした便利な機械は有益ですわ」

「ぜひ、使ってみてください。お許しくださるならここで動かしましょうか」


 アメリアは子供のように無邪気な笑顔になり、パンっと両手を叩く。


「えぇ、ぜひ。見てみたいわ」


 瞳が少し輝いている。

 フロックの話では、貴族のほとんどは機械を気持ち悪がっていたらしいが、彼女はそんな風に見えない。

 演技なのか、ただの好奇心か、判断が難しい。

 ミルキーはルンルンのスイッチをいれて動かした。


「ルンルンの動力源は、太陽の光です。光があるところでは半永久的に動けます」

「まぁ……すごいわ。そんな技術がウーバーにはあるのね」


 ウーバーには、この技術は教えていない。

 精霊都市のライデンでは動力として使われていた。


「ウーバーでも最新の技術ですわ」

「そうなの」


 アメリアは興味津々でルンルンを目で追っていた。


「王妃殿下……」


 おもむろにフロックが声をだす。

 アメリアは顔をあげた。


「私はミルキーさまのところに赴き、技術を学びたいと思っております」


 アメリアがきょとんとしたので、視線をそらしてフロックはミルキーをみる。


「私はルンルンを見て確信いたしました。もっと学び、自国に技術を持ち帰りたい。ですから、出立の許可をして頂けないでしょうか」


 勿論、嘘である。

 学びに行くと見せかけて、フロックたちをアーリアから脱出させたかった。

 それが叶わなくとも、アメリアたちがどこまでフロックを疑っているのか、確かめたかったのだ。


 精霊の存在に気づいているのか、いないのか。


 じっと待っていると、まぁ、とアメリアが驚いた顔をした。


「王妃殿下、どうかフロックの願いを叶えてやってくれませんか?」


 ミルキーも頼みこむと、アメリアは目を三日月のように細くした。


「そんな面倒なことをしなくても、ミルキーさまがここに居てくれればよいのでは?」


 アメリアはころころ笑って、パチンと手を叩いた。


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