潜入 side サラ&セト
ミルキーと通信を終えたサラは、小さく息を吐いた。
「ミルキーは大丈夫だろうか……」
つい不安が口からでると、タブレット端末を見ていたセトが安心させるような笑顔になる。
「いざとなりゃ、おれたちがすぐ行く。そのためにここにいるんだろ?」
サラはこくりと頷いて周囲を見渡した。
ここは、地下鉄の駅にある部屋。
フェアリーメイソンに技術を教えるときに、ドゥードゥたちが使っている部屋だった。
待機していると、黒いポーションを飲み込んだ鳥型のロボットが近くまで来た、とタブレットに表示される。
「ちょっと、行ってくんな」
セトが部屋から出ていった。
手持ちぶさたになったサラに、羽音を立ててリトル・シーがやってきた。
サラの肩にとまって、頭を頬にこすりつけてくる。
──サラ、大丈夫だよ。ぼくもいるよ。大丈夫だよ。
くすぐったくてサラは喉を震わせて笑う。
「ありがとう、リトル」
ここにリトル・シーがいるのは、自らサラに付いていくことを望んだからだ。
──サラはぼくの仲間! 仲間! ぼくも役に立つよ!
リトル・シーは羽を燃やすと回復の粉になる聖女みたいな鳥だ。
鳥を重んじるアーリアに居ても、手酷く扱われないだろうという判断で、同行が認められた。
リトル・シーの背中を撫でてやっていると、セトが戻ってきた。
サラの様子に安堵して、セトはほっと息を吐く。
「黒いポーションはドゥードゥたちがノームじいさんの所に送ってくれたよ。じいさんに任せておけば成分も分かるし、分かれば攻略法も見つかるだろ」
セトは自分の頭を、指でとんとんと叩く。
「やべえもんだったら、無効化するレシピをノームじいさんが作って頭に送ってくれる。かーさんも手伝っているし、早く解析してくれるって」
ウンディーネはセトに付き添っていない。
ノームたちと共に支援に回っていた。
「そうだな……本当に皆には感謝の言葉が尽きない」
一人ではないことが心強い。
何があっても、仲間がいるからドルトルに立ち向かえる。
囮にもなれるというものだ。
ミルキーが偵察してくれてはいるが、それもいつまで、どこまでできるか未知数だ。
ドルトルたちは、何を仕掛けてくるか分からない恐ろしさがある。
なら、サラが一人で出た方が、相手の動揺を誘えそうだ。
しかし、セトはこの作戦にはいまだに反対していた。
「なぁ、本気でおれと分かれて一人で国境の門に行くのか?」
心配する声にサラはほほえむ。
「一人ではない。リトルも付いてきてくれる」
「そうだけど……サラをぶっ刺した奴だぞ? 危険すぎる……」
「その為にリトルがいるんだろ?」
セトは行くなと強く言いそうになって、気持ちを消去した。
抱えていたら、サラをこの部屋に閉じ込めて一人で、何もかもを片付けてしまいそうだ。
でも、そんなことをしても、彼女は喜ばない。
だから、消去。消去。
心を機械化する。
彼女の望むことしか言わない存在になるんだ。
セトは押し黙って、床に置いてあった鞄を手で引き寄せ、中身を漁る。
ひとつの麻袋を取り出してサラに差し出した。
「ノームじいさんに頼んで、エリキサーを溶かして飲みやすいカプセル型の錠剤にしてもらった。ひとつ飲めば完全回復する」
サラは驚いて中身を確認する。
石だったエリキサーは、綺麗なエメラルドグリーンの錠剤になっていた。
「……全部、溶かしたのか?」
「うん。おれはエリキサー効かねえし、サラに持っていてもらおうと思って」
ふっとセトが目を伏せる。
「……サラの為に使えば、あいつもきっと喜ぶ」
セトは脳裏にユニコーンの姿を描く。
愛するものの為に使えといった遺言も。
ユニコーンのことを知らないサラは、含みのある笑みを見ても彼の感情のすべてが分からない。
でも、感じるものはあった。
サラは大事にエリキサーを一粒つまみ上げ、腰ベルトにあるポケットにしまう。
残りは袋ごとセトに渡した。
「お守りに一粒、もらっておく」
「一粒だけかよ?」
不満そうにするセトの肩にしなだれかかった。
彼は驚いて体を震わせる。
「私は丸腰でいくつもりだ。万が一、捕まったときにエリキサーを奪われたくない。セトが持っていて」
セトは嘆息して、サラの頭に自分の頭をつける。
「もっと持っていけよ。何があるかわかんねえじゃん」
「私が何かある前に、助けてくれるのだろ?」
目を伏せていうと、セトは口をすぼめてサラの肩に腕を回す。
「……助けるよ。あの野郎に傷つけさせるもんか」
引き寄せられたが、彼の腕の中だと安心する。
不安も何もかも溶けて、自分は戦いにいけるのだ。
「セトを信じている」
そう言うと、セトはサラを守るように強く抱きしめた。




