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不死鳥の聖女  作者: りすこ
第五章 善と悪の戦い
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潜入①

第四章は、同時刻に様々なことがおきます。途中で時間を巻き戻して、別視点になります。はじまりはミルキーからです。

 アーリア国シペト。

 国境の門の前で、門兵は目を点にしていた。


「はい、通行証」

「あ、はい……」


 目の前には自分の腰ぐらいの低身長の人物がいる。

 身なりは職人風情だが、長い髭を三つ編みにしていてピンク色のリボンでまとめていた。

 胸には金属の棒が下がったペンダント。

 背丈よりも、はるかに大きな鞄を背負っているのも首を捻りたくなる。


 シペトの検問所に勤めて日が浅い門兵は、今まで見たことのない人物を見て、不信感をつのらせていた。


「ちょっと、いくらアタシがすごくキュートだからって、じろじろ見るもんじゃないわよ。えっちね」


 目の前の人はふがーっと鼻息をだして、文句をたれる。それにギョッとして門兵は、慌てて通行証を見る。


 ──ウーバー国 公認技師 ミルキー・プリプリティ


 性別、女の文字に門兵は仰天する。

 立派な髭といい、どう見ても老人にしか見えない。

 通行証と本人を何度も見比べていると、同僚の門兵が声をかけてきた。


「どうした?」

「あ、いや、この方なんだけど……」


 近づいた門兵の顔をみたミルキーは、「ま、好みの顔だわ」と、にんまり唇を持ち上げる。

 それを見た門兵は悪寒が走った顔をした。

 今にも服を剥ぎ取られそうな興奮した眼差しから目をそらして、ミルキーに荷物を置くように命ずる。

 ドルトルが即位して以来、アーリア国への検問は厳しくなっている。

 荷物を改めないと通れないのだ。

 ミルキーは大きな荷物を地面につけて、荷をほどいた。


 鞄の中を見た門兵二人は固まった。

 そこには、精巧に作られた人の頭部があったのだ。


「これはウーバーでも最新の技術、アンドロイドの試作品よ。機械技師フロックに頼まれてね、今回持ち込んだの。アーリア国でも、王宮ではお掃除ロボットが使われているんでしょ?」


 王宮に出入りしたことがない二人は、無言で顔を見合わせた。


「アタシ、こう見てもフロックのお師匠さんなのよ? 疑うなら本人に聞いてみてもいいわ」


 ミルキーは他にも鞄をあさって、白い円盤を手にとる。


「こっちはお掃除ロボ、ルンルンよ。この子は自動で床をお掃除してくれるのよ。丸い円にしたのはあなたたちの国のエターナル・ループを模したものよ。新聞を読んで感動したの。次の千年は平和な世の中なんてステキね。アタシ、張り切って作っちゃったわ! ぜひ、使ってもらいたくて持ってきちゃったのよ。あとわねー」


 次々と出される機械に、門兵の頭は自分達では処理できないと判断した。

 上に報告して、フロックの家に連れていき身分の確認をせよと言われた。


「フロック様のところまでお連れします」

「うふふ。嬉しいわあ。あなたみたいないい男にエスコートしてくれるなんて、最高よ」


 パチンとウインクしたミルキーに門兵は苦笑する。

 ミルキーは、にんまりと笑って左手を差し出す。

 門兵は首をひねった。


「あら、この国じゃ、レディをエスコートするとき、お手をひかないの?」

「いえ、それは……」

「じゃあ、やってね。お・ね・が・い」


 戸惑った門兵は、そろそろと手をだす。


「もっと腰を落として! 転んじゃうでしょ!」


 横柄な態度をされても彼女の言う通りに門兵は、腰を屈めた。

 技師フロックは、今やドルトルが開く会議にもでているほどの地位がある。

 その師匠と言われたら一兵である自分は従うしかないのだ。


「ありがとう」


 門兵は彼女のじっとりとした視線に耐えきれず、足を早く進めようとした。


「あいたっ!」


 ミルキーがつまずいて盛大に転ぶ。

 顔面から大激突した。

 慌てて門兵は、彼女に声をかけた。


「すみません!」


 ゆらりと立ち上がったミルキーの顔は土で汚れていた。

 丸い鼻は血が出ていて、見るからに痛そうだ。

 門兵は、ひっとバケモノでも見た声をだす。


「ちょっと、痛いじゃない!」

「す、すみませんっ!!」


 ミルキーがギャーギャー騒いでいると、何事かと民衆が集まってきた。


「ひどいわああっ! もうお嫁にいけないいっ!」


 両手で顔をおさえ、わんわん泣き出すミルキーに門兵がオロオロする。


「すみませんっ すみませんっ」

「荷物まで散らばったじゃないっ」


 ミルキーはプリプリ怒りながらも、こっそりネズミがたのロボットにスイッチをいれる。二体だ。


 ──城壁に秘密がないか探ってきてね。


 二体のロボットは城壁の方へ動き出す。

 右と左に分かれた。

 あのネズミには映像記録、音声録画機能がある。

 得た情報はノーム元に送られて、解析をしてもらう仕組みだった。


 ミルキーたちは城壁が〝円の形〟であることを疑問に思っていた。

 古来は魔法円(まほうえん)という術式が使われ、膨大なエネルギーを円に溜める方法もあったという。

 いわゆる魔術と呼ばれるものだ。

 一国を滅ぼす力がある円陣など作れるのだろうかと思うが、偵察ロボットを放ち術式がないか調べることになった。



「あの……これを……」


 門兵がおずおずと黒い液体が入った小瓶をさしだした。


 ──あら、彼が持っているなんてラッキー


 ミルキーが心で笑い、不思議そうな顔をする。


「これは?」

「ポーションです。聖女アメリアさまがお作られた奇跡の回復薬です。傷を治しますから、どうぞ飲んでください」

「まあ! これが噂のポーションというものなのね! 優しい人。ありがと」


 上機嫌で笑うと、門兵は顔をひきつらせながら恐縮する。


「あなたからの初めてのプレゼントだもの。後でゆっくり、じっくり、頂くわ」


 ふがーっと鼻息をだしたミルキーに、門兵は顔を蒼白させる。

 その後は、慎重すぎるぐらい慎重にフロックのところまでミルキーは送られた。



 ***


「ミルキー……さま……ですか?」


 フロックの自宅を訪ねると、彼は家にいて出迎えてくれた。

 当然だろう。

 彼が自宅にいるのは事前に把握していたのだから。


 鳥型のゴーレムを飛ばして、彼が自宅にいる時間を狙い、ミルキーはシペトの検問所に来たのだった。


 玄関の扉を開いて、呆然とするフロックの背後に、なぜか護衛もいる。

 服装の紋章を見ると、ドルトルが率いていた第一隊のものだとわかった。

 彼は妻の義足を隠したがっていたので、王宮の者を家に上がらせたがるとは考えにくい。


 ──監視されているのかしら。ということは、フェアリーメイソンのこともバレたのかしら?


 ミルキーは護衛を一瞥した後に、フロックに向き直り、にっこりと笑う。


「んもお、いやぁね。バケモノを見たような顔をして。あなたが呼んだんでしょ? 土産、たーっぷりもってきたわよ」


 フロックは察した顔になり、穏やかな顔でミルキーと握手をした。


「遠いところをようこそ……お疲れでしょう。こちらで話を聞かせてください」


 所在なさげにしていた門兵は、フロックにミルキーことを尋ねた。

 フロックはミルキーの言ったことはすべて事実だと証言した。


「私が尊敬している方です。自国の発展の為にも、ミルキーさまのお力は必要です」

「もう、やだ! 褒め上手ね!」


 がははと笑い、フロックの腰のあたりをミルキーは強めにたたく。

 門兵は納得したようで帰っていった。


「お見送りありがとう。今度は夜に二人っきりで会いましょうねえ」


 んぱっと、ミルキーが投げキッスをすると門兵は青ざめて走っていってしまった。


「あら、照れ屋さんなのね」

「……この国では女性から積極的にアプローチすることはありませんからね」

「あら、そう。女なんて一皮剥けばみーんなハンターなのにね」


 ふがーっと鼻息をだしたミルキーにフロックは苦笑しつつ家を案内した。


 廊下を並んで歩いている途中、ミルキーはさりげなくフロックに話しかけた。


「少しみないうちに、ずいぶん賑やかになっているじゃない? どうしたの?」


 ミルキーが後ろを歩く護衛を見ながら言うと、フロックは笑顔を張り付けた。


「……陛下のご配慮です。忽然と消える──神隠しにあう事件がありましたので、陛下の会議に出る者は護衛が付くようになったのですよ」

「あら、ずいぶん偉くなったのね」

「はい。陛下は自動人形(オートマタ)に理解のある方で、私にもっと広めるように言ってくれています」

「そうなの。よかったわね」


 にこっと笑いながら、二人は視線で会話する。

 フロックの目は少しも笑っていない。

 危険を知らせる目だ。

 どうやら本気で監視されているみたいだ。

 不用意に精霊の会話するのは、まずいだろう。


 ──さて、どうするかしらねえ


 困った状況を楽しんで、ミルキーはニヤリと笑った。



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