表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不死鳥の聖女  作者: りすこ
第四章 精霊の住む都市
31/70

地下都市での邂逅①

 地下都市への入り口は、透明な筒に見えるエレベーターだった。

 エレベーターの中は、成人男性が十二名ほど入れる空間があり、小人の目線に合わせた行き先ボタンがある。


「えーっと、ノームとうさまは、地下三十階にいるかしらねー」


 ミルキーが、三十と書かれた行き先ボタンに触れた。

 すると、透明のドアが閉まり、丸い床が沈む。

 びっくりして、サラは両足を踏ん張った。


「……土の中に潜っているのか?」

「そうよ。そろそろ地下一階が見えてくるわよ」


 ミルキーが指差す方向を見ていると、茶色い地層が抜けて、目の前に大空間が現れた。

 サラは息を飲んで目を見張る。


 地下一階から五階までは、吹き抜けになっている巨大ステイションだった。


 先端が細長い白い乗り物──超伝導リニアモーターカーが並ぶ駅だ。

 ドワーフたちが動く歩道(オート・ウォーク)に乗って、楽しげに機械をリニアに積み込んでいる。


 母国では鉄道すらないので、サラは口を開いたまま閉じるのを忘れた。

 セトが顔を覗き込んでくる。


「息、しているか?」


 びっくりしすぎて呼吸を忘れていた。

 はっと息を吸い込むと、少しむせた。


「大丈夫だ。……驚きすぎて、息が詰まった」

「まぁ、あの国にいたらそうなるよな」


 きししっと笑うセト。

 その顔は嬉しそうで、誇らしげだ。


「すごい場所だな……」


 透明の壁に手をつけて、隅々までステイションを見た。

 好奇心で前のめりになるサラに、セトは破顔する。

 彼女が信じられない光景を見ても否定せずに興味を持ってくれるのが、嬉しくてたまらない。


 二人の様子を見守っていたミルキーが、ステイションの説明をしだした。


「サラさん。ここは、精霊たちが人間の土地に行くためのステイションよ。各国の近くに地下鉄の駅があってね。アタシたちはあの白い乗り物に乗って人間(フェアリーメイソン)に会いに行くのよ」


 サラはぎょっとした。


「各国……って、あの乗り物が世界中に繋がっているのか……?」

「そうよん。ほら、アタシたちって小さいじゃない? 人間のスピードより遥かに歩くのが遅いのよねー。だから、便利な乗り物を使っているってわけ。

 それにドゥードゥという精霊は、太陽の光を浴びると石になっちゃうの。

 だから、太陽の光をよけるために地下鉄があるのよ」

「そうなのか……精霊にも色々いるんだな。ミルキーは……ドワーフという精霊なんだろう? ドワーフは、太陽の下でも平気なんだな」

「アタシたちドワーフは太陽の下でも平気だから地上に住んでいるのよ。ドゥードゥたちは、地下に住んでいるわね」


 ミルキーが行き先ボタンを指さしながら、説明してくれた。

 地下十五階から二十階は、ドゥードゥたちの町。

 アリの巣のような横穴住居があるそうだ。


人間(フェアリーメイソン)に会うときは、やはり入国するのか?」

「いいえ。地下鉄の駅に会議室があってね。技術講習はそこで行われるのよー」


 ミルキーが筋肉質な薄い胸を張る。


「精霊が高度な文明を持っているなんて知ったら、人間たちは驚きすぎて腰を抜かしちゃうからね。

 精霊の存在は内緒。内緒のおはなし」


 納得がいく話だった。

 何世紀まで先をいっているのか分からないほど、科学が発展している。

 サラも最初は精霊の話を疑っていた。

びっくりする風景を見ても、興味を持てるのはセトがロボットの体であると知っていたからだろう。


「……精霊は内緒の話か……そうだな。でも、精霊たちはすごいな……ここから各地に技術が伝わっていくんだな……」


 敬意を込めていうと、ミルキーはふがーっと鼻息をだして、嬉しそうに笑った。



 エレベーターはさらに階数を進めていき地下三十階につく。


 エレベーターから降りると、細長い金属の廊下にでた。

 薄暗い廊下だ。

 床には白い光の点線が伸びていた。


「おとうさま、どこにいるのかしらねー。インターホンで呼び出しましょ」


 ミルキーは廊下の壁にある丸いボタンを押す。


 ──ピンポーン♪


 軽快な音が鳴り、しばらく待つとボタンの上にあるスピーカーから声がした。


『だれじゃい?』

「あ、おとうさま? アタシ、ミルキー。セトたちが来たから連れてきたわよ」

『そうかい。ご苦労さま。ワシは図書室にいるから来なさい』


 ブツッと音がして声が消えた。


「おとうさまは図書室ですって。行きましょう」


 ミルキーは床にでていた出っぱりを、短い足を上げておもいっきり踏む。


 ──ガタッ


 スイッチが入り床が動き出す。

 廊下は全て動く歩道(オート・ウォーク)になっていた。


 サラは初めての動く歩道(オート・ウォーク)に、体勢を崩して、とっさに股を開く。

 前には倒れなかったが、内股がプルプルする。

 重心をどこに置けばいいか分からなくて、気持ち悪かった。


「平気か?」と、セトが声をかけてきた。


「……自分が歩いていないのに、進んでいるのは変な感じだな……」

「あー、確かにな。慣れないと酔うかも。腕にしがみつくか?」


 サラは遠慮なくセトの腕に両手を絡ませた。

 素直すぎる反応にセトは「生まれたてのラバみてえ」と、からかうこともできずに、脳内をフリーズさせた。

 ウンディーネも二人の様子を見て、口元をおさえて「まあ!」と興奮している。

 サラは不安定な足元ばかり気にして、眉根をさげた。


「ちょっと寄りかからせてくれ……」

「お、おう……」


 セトは背筋を伸ばして、直立した。

 妙な緊張感が二人の間に流れるなか、ミルキーだけがニマニマ笑っていた。



 床のスピードが遅くなり、図書室の扉の前で止まる。

 ミルキーが先頭で扉に近づくと、扉は自動で開いた。

 サラは驚いて、立ちすくむ。


「これは自動ドアよ。この階の扉は全部、勝手に開くからねー」


 軽い調子で言われて、ミルキーが中に入っていく。

 サラもドキドキした心臓を落ち着かせて部屋の中に入ったが、すぐ足を止めた。


 今日、何度目かになる驚きに声を失う。


 図書室と言ってはいたが、そんな規模のものではない。

 十階分の吹き抜けの空間だ。

 壁一面、本棚だった。


 呆然と本の壁を見ていると、デスクと回転する椅子が視界に入る。

 椅子は後ろ向きで、誰も座っていないように見えた。

 ミルキーが椅子に近づく。


「おとうさまー、来たわよー」

「おお、ちょうどよかった。ネジを回してくれないか」


 椅子から声が聞こえたが、姿は見えない。

 ミルキーは腰に手をあてて「またぁ?」とあきれた声をだす。


「一人でいるからネジが切れるんじゃない。ちょっと待ってて」

「リトル・シーもおるわ。本を探してくれているんじゃ」


 ミルキーが椅子の上で、なにかをしているので、サラたちも近づいた。

 くるっと、椅子が回転したので、足を止める。


 椅子にちょこんと乗っているものがある。

 とんがり帽子をかぶったゼンマイ式のオモチャ。手のひらサイズの小さいものだった。


「ノームじいさん、久しぶり」


 セトが声をかけると、オモチャはジジジと音をだして足を動かした。

 カクカク動いている。

 小さいから椅子から、転げ落ちた。

 手を動かして立ち上がり足を九十度曲げてこちらにやってくる。

 セトの前にくると止まって、オモチャは万歳をした。


「久しぶりじゃの、セト。元気じゃったか?」


 顔は筆で描いているので、動かないがオモチャの中から声がした。

 セトはしゃがんで返事をする。


「元気だったよ。こっちがサラだ」


 セトがサラを指差すと、オモチャがカクカクと動き出した。

 サラは床に膝をつけて、オモチャを迎える。


「そうか、そうか。お前さんが、サラマンダーの末裔なのじゃな」


 顔がイラストなので表情は分からないが、声が感慨深げだ。

 サラは戸惑いながらも挨拶をする。


「サラです。……あなたが、ノーム殿ですか?」

「いかにも。わしが【はじまりの精霊】の一人、ノームじゃ。こんな姿でビックリしたじゃろ」


 サラは素直に頷いた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ