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狐火の市へ  作者: はなまる
魔法使いのおにい編

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其ノ十一 狐火の市

 広場の入り口に、浴衣を着た男の人が立っとった。天狗の面を被うてる人や。うちにはすぐにおにいやとわかったけれど、何だが照れ臭くて遠くから眺めてもじもじしてしもうた。

 浴衣姿なんて初めて見るし、何より今は翼がない。それに、おにいだけあんなお洒落してずるい! うちは山道を歩いて来て、汗だくで髪の毛もボサボサや。


『こんなことなら、うちも浴衣で来れば良かった!』


 そう思うたけど無理やった。うちはひとりで浴衣、着られへん。


 そのうちおにいがずんずんこっちへ向かって来て、黙ったままうちの手を取って、広場の方へ歩き出した。面からはみ出た耳が真っ赤になっとったので、おにいも照れていたのかも知れへん。


 最初に婆さまの店に挨拶に行った。婆さまも今日は狐の面を被うとる。二人揃って頭を下げたら、うんうんとうなずいてくれた。

 婆さまの店には、可愛いアクセサリーがたくさん並べてあった。お花や葉っぱの形のネックレスや、動物のブレスレット。髪飾りもたくさんある。布製のもの、紐を細かく編んだもの、針金を使ったもの……。どれもみんなめっちゃ素敵や!


(こ、これは目の毒や! みんな欲しくなってまう! 見たらあかんやつや!)


 うちはこれから必要なものを探さなあかん。最初の店からこんな調子やったら、宝物なんていくらあっても足りへん。

 おにいの袖を引っ張って、何とか次の店へと向かった。


 狐火の市は、中に入ってからも喋ることは出来へんみたいや。面も外すのもあかん。そしたら、どうやって品物を選んだらええのん?


 そう思ってあたりを見回してたら、天狗の面をつけた三歳くらいの女の子が、大きなスケッチブックを抱えて、トコトコと歩いて行く。

 女の子は飴細工の店まで行って、スケッチブックを開いた。そっと後ろから覗いてみると『ちょうちょ』と『ぞうさん』と書いてある。

 飴細工屋のおっちゃんは、それを見てうなずいて、注文の飴細工を作りはじめた。


(おつかいや、かわいい! それに(かしこ)い!)


 喋れへんなら、工夫せなあかんかってん。うちは準備不足やった。見回したら、身振り手振りでやりとりしてる人もおる。


 なんとかなるやろかかと歩き出したら、おにいが懐から、小さなメモ帳とエンピツを取り出して渡してくれた。おにいは、意外と頼れる男なんかも知れへん。

 

 おにいと一緒に色々見て回って、ようやくそれらしい店を見つけた。カエルの面を被った女の人の店や。

 うちはその店で、小さな横笛をひとつ買うた。萌黄色(もえぎいろ)で、(つた)が絡まるような模様の入った、可愛らしい笛だ。

 両方のポケットから、おにいのビー玉と、おっきなおっきな木の、葉っぱを取り出して渡す。女の人は、その二つをじっと見つめて、コクリとうなずいてくれた。

 うなずいてくれて、うちは心底ほっとしたんやけど、同時に涙が出そうにもなった。どちらもたくさんの想いがこもった、二度と手に入らへんうちの宝物や。


 それが、狐火の市なんやね。


 笛の吹き方は、おにいが教えてくれる約束をした。


 それから婆さまの店に戻って、じっくりアクセサリーを選んだ。うちはおにいに組紐(くみひも)のブレスレットを買って、おにいはうちに布製の花の形の髪留めを買ってくれた。


 二人とも、婆さまにごっそり搾り取られた。


 帰り際におにいが、照れ臭そうに名前を教えてくれた。おにいの名前は『シロハ』。人間たちが『天狗』と呼ぶ空のあやかしや。


 でも、どうやら鼻は長くはないらしい。




       * * * *




 こうしてうちの、村で過ごす最後の夏が終わった。


 おにいに教えてもろた曲は、一年かけて練習する。うちは横笛に触るのも初めてで、今はまだ最初の音を出すのさえ一苦労や。

 来年は受験生になる年やから、勉強も忙しゅうなる。せやけど、これは頑張らなあかんことや。


 植物はタネ屋のサキさんが引き受けてくれた。サキさんは植物が大好きな鳥のあやかしで、狐火の市では不思議な種をたくさん売ってはる。

 サキさんの説得にも関わらず、植物のほとんどは種や小枝や実を託すだけで、水に沈むことを選んだ。

 サキさんはとんでもない量の、植物の分身を抱えて「これからせわしなるわ」て言いながら、さっさと新天地へと飛んで行ってしもた。


 うちには植物の気持ちやらは全然わからへん。サキさんは「地面に根っこ張ってるもんは、その土地から離れたがらへん。そういうもんや」言うていた。サキさんの『そういうもんや』は、やけに説得力がある。うちも、そういうもんやと思うことにした。


 種が芽を出し、挿木(さしき)が育ち、新しい場所で、しっかり根を張って欲しいと思う。



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