其ノ八 投了
「俺は、婆さまにハメられたんか?」
おにいがムッとして言うた。
「さあて、どうじゃろうな。やましいことでもあるのか?」
婆さまは涼しい顔や。完全に役者が違うてる。
「シロは村がのうなって嬢ちゃんに会えなくなるのが嫌で、先に逃げたんや」
おっちゃんが言うと、おにいがプイッとソッポを向いた。
おにいはそんな前からダムのこと知っとったんやね……。なんで教えてくれへんかってん? なんでそれでうちから逃げんの? 二年も、ずっと……?
「そ、それは、正体を明かそ思たら、メグミが怖がったから……」
おにいが、しどろもどろで後ずさる。
「それだけで二年? 自分で怖がらすようなこと、言うたくせに?」
うちはおにいに向かって、歩きながら言うた。
「うち、もう二度とおにいのこと、怖がったりせぇへんよ。だからもう、逃げんといてや」
「村がのうなっても、うちはおにいに会いに来る。もう、おにいに会えへんのは、嫌や」
「うちは、おにいが妖怪でも、怪物でも構へんよ。おにいはおにいや」
おにいの返事を聞かずに、言いたかったことを全部言ってやった。おにいがじりじり後ずさりしとったけれど、構わずどんどん近づいてやった。
婆さまが「王手じゃな」とボソッと言うた。おっちゃんが「ああ、詰みや」と言うた。
おにいは、顔を真っ赤にして「すまんかった」と言うた。
『投了ですな』
うちの手の中の葉っぱが、満足そうに光った。
※投了とは、将棋や碁で一方的に負けを認め、勝負を終えることです。




