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狐火の市へ  作者: はなまる
魔法使いのおにい編

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其ノ四 村祭り

 図書館で色々調べものを終えたうちは、早速新月の晩に向けて準備をはじめた。もちろん『狐火の市』へ行くための準備や。


 妖怪が集まる露店市やいう話やから、おにいに関することが、何かわかるかも知らへん。むしろ『おにいはきっとそこにおる!』。うちはそう思っとった。

 狐火の市へ行くために必要なもんは『狐の面』『提灯』『宝物』の三つや。あとは『喋るのはあかん』とか『歩いて行く』とかあったけれど、そんなんは当日のこと。まずは準備せなあかん。


 狐の面と提灯には心当たりがある。一週間後に、村の盆踊りがある。小さなお祭りやけど夜店も出るし、会場になる神社には提灯の飾り付けがあったはずや。


(宝物は……なんか考えなあかんな。何を用意したらええんやろか?)


 図書館で読んだ本には『自分にとってはお金よりも価値のあるもの』と書いてあった。


(せやけど、うちはおにいを探してるだけやし……)


 特に欲しいものはあれへん。それに大切にしてるもんは、大抵両親と住む家に置いてある。

 手元にある大切なもんちゅうたら、おにいに(もろ)うたビー玉だけや。


 うちがおにいと初めて()うた日……。うちが迷子になって、大泣きしたった日。あの日落ちていた青いビー玉を、うちは“魔法使いのビー玉”と呼んで大切にしとった。

 おにいに再会した時に渡したら『ええよ、メグミにやる』と返された。それからは“おにいのビー玉”と呼んで、お守り代わりにいつも持ち歩いとる。


(おにいのビー玉は、人にあげられるもんとちゃうねん!)


 そう思ってから、ふと思いあたった。


 それこそが『自分にとってはお金よりも価値があるもの』。つまり、宝物……ということやろか……?




 一週間後、予定通り村祭りが開催された。


 心配やったお面の屋台も見つけて、ひとつだけ売っとった狐のお面を買うた。ペラッペラのプラスチックのお面やけど、作法的には大丈夫やろか? 素材の指定なんていう、やかましいことは言わんといて欲しい。


 提灯(ちょうちん)はお祭りの係の人に『思い出にどないしても欲しいさかい、お祭り終わったら、ひとつ譲って下さい』てお願いした。

 係の人はめっちゃ喜んでくれて『ひとつ言わず、二つでも三つでも、好きなだけ持って行き!』て、涙ぐみながら言うた。

『なんや大袈裟な人やな』て思うとったけど、村長の挨拶を聞いたら合点がいった。


 村長は「これがこの村の、最後の村祭りや」て言うた。


 来年の夏までに、村の人らが立ち退きを終えたら、それ以降この辺り一帯は立ち入り禁止になる。そして、二年後の春にはダムに沈む。この村だけやのうて、隣の村も、反対隣の村も沈む。

 一両だけの電車がのんびり走っとる線路も、だんだん畑も、鹿の親子がおった林も、黄色い甘い実がなっとった木も、猿がぶら下がっとった木も、みんな沈む。


 爺ちゃんと婆ちゃんの家も、ハチのお墓も、高台も、おっきなおっきな木も、みんなみんな沈んでしまう。


「そんなん、聞いてへんわ……」


 おとんもおかんも、爺ちゃんも婆ちゃんも、なんで教えてくれへんかったん⁉︎ うちがこの村のもんやないからか?

 この村のもんやなかったら、悲しないとでも思うとったんか? うちは大人になったら、この村で暮らそう思うてたんやで?


「いやや! そんなん、いやや!」


 うちは我慢出来へんで叫んだ。村長が台の上でびっくりしとる。


「いややー‼︎」


 大声で泣きはじめたら、近所の爺ちゃん婆ちゃんが寄って来て「ええ子や、ええ子や」やら「ほんま、おおきにな」やら言いながら、うちの頭を撫でた。


 村でここ数年、若い人や子供をほとんど見かけへん理由がやっと分かった。村に残ってるのは、故郷との最後の別れを惜しむ年寄りだけや。

 うちの爺ちゃん婆ちゃんも、そのひとりやってん。もうすぐダムに沈んでまう畑で野菜を育てるんは、どんな気持ちなんやろう。


 でも……ほんなら……。


 動物たちはどないするん? 連れ出してくれるん? 虫は? 鳥の卵や(ヒナ)は? 花のツボミは? おにいは?


 おにいはどうなるんや?


 なぁ、村長のおっちゃん、ダムのこと……妖怪には知らせとるんか?

 なぁ、誰か……えらい人いるんやろ? えらい人は、えらいんやろ? 答えてや。なぁ……。


 答えんかいボケェ‼︎

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