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狐火の市へ  作者: はなまる
魔法使いのおにい編

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其ノ三 おにいの行方

 その年の夏中、おにいと会われへんかった。うちはあの後も毎日高台に通ったけれど、おにいはおらわかった。

『おっきなおっきな木』に登って、てっぺん近くまで探しても見つからん。高台からおっきな声で「おにいーーーー!」と呼んだけれど、返って来たのは山びこだけやった。


 次の年の夏も、その次の年の夏も、うちは高台へ通った。ハチが天国へ行ってしもうたので、ひとりで坂道を登った。

 ひとりぼっちの高台は、いつもと同じに()え風が吹く。せやけど、待ちぼうけのうちには、その風が、どうにも他人行儀(たにんぎょうぎ)に感じられる。

 おっきなおっきな木がざわざわと鳴ると、うちから逃げるように飛び立った、おにいの翼の音を思い出した。


 うちは、そんなに怒らせるようなこと、してもうたんやろか。正体、探るようなことしたせいなん? おにいのことを知りたい思うのは、いけないことやったん?

 確かに少し怖いと思うた。せやけど、天変地異を起こせるような生き物が、怖ないわけあれへんやん。

 自分で言い出したくせに、なんであんな傷付いた顔するねん! 謝ることもさせてくれへんなんて、どんだけ心が狭いねん!


 中学二年生の夏。うちは心に決めた。


 高台へ来てくれへんなら、うちがおにいのところまで行ったる。探し出して、首根っこを捕まえて、うちから逃げたことを謝らしたんねん。

 どうせ、初めて会うた時から『魔法使いや!』思とった。今更、怪物やろうが、妖怪やろうが知ったこっちゃないわ!


 もう二度と、絶対に、怖がったりなんかせぇへん。



 うちは高台へ行くのをやめて、村役場の隣にある、小さな村営の図書館へと通った。村の伝承や民話を調べるためや。

 不思議なことや術のことを調べれば、きっとおにいへと繋がる何かが見つかるはずや。


 図書館に通いはじめて三日目。それらしい本を見つけた。それは昔話というよりは、よく聞く都市伝説みたいのを集めた本やった。

 学校で噂されとる『七不思議』にも似とる。うちの中学には『夕方カーテンを全部閉めて、体育館の真ん中に立つと、舞台の上を右から左へ、九尾の狐が走る』っちゅう有名な七不思議がある。


 本のタイトルは『関西地方おける、民話と伝承』。その中の『狐火の市に関する考察』という項目や。

 なんや難しいそうな本やけど、うちは少し緊張しながらも、その本を読んでみることにした。



『狐火の市に関する考察』


 春から夏にかけての新月の晩。近隣の山に炎のような光が目撃されることがあるらしい。この光は『狐火』と呼ばれるもので、多くの地方の民話や伝承に登場する。


 狐火は『狐の嫁入り』とも呼ばれており、単体、又は隊列を組むように光ると云う。なお『狐の嫁入り』は天気雨の別称でもある。


 この地方に伝わる狐火の特徴は、その形と、比較的近い山での目撃例が多いことだろう。狐火は、ひとつ、二つと時間差で灯っていき、最後には三つが三角形を形成する。

 その明かりは、山火事と見間違うような、まさに揺らめく『炎』として見えるらしい。実際、昭和初期には通報事例があり、消防隊の出動記録が見つかった。山に近づくにつれ見失ってしまったらしく隊員の『ありぁ、狐火やった。うちらの出番やない』という記述がある。なんとも興味深い話だ。


 この三つ灯る狐火は『合図』としての役割を持つ。狐火が三つ灯った新月の晩に、それを目印に山へと入ると『狐火の市』へとたどり着ける。

 それは妖怪たちが開く、不思議なものを売る露天市だという。

 この『狐火の市』については、かなり詳しい伝承が残されている。まずはたどり着くための『作法』から検証してみよう。


 ひとつ目は、狐の面を被って行くこと。

 二つ目は、提灯を持って歩いて行くこと。


 そして三つ目が『決して声を出して喋ってはいけない』。


 これは日本の昔話によく見られる『制約』と『報酬』だろう。約束を守れば歓迎され『報酬』が手に入る。破った者には悲しい別れや、手痛いしっぺ返しが待っている。

『鶴の恩返し』でもいうと、『決して覗いてはいけない』が制約で、『美しい反物』や『嫁との幸せな生活』が報酬となる。

 与ひょうは約束を破って、つうの正体を見てしまったため、全てを失ってしまう。


『狐火の市』では、三つの約束は『作法』と呼ばれている。作法を守ることが狐火市へたどり着くための、絶対的な条件となっている。つまり報酬が『狐火市』そのものなのだ。

 ところが、制約を違えた場合に関しての記述が見つからない。作法を破った場合は、狐火の市へはたどり着けないのだろう。だが、それだけなのだろうか? そこに若干の不気味さを感じる。


 昔話に付き物なものが、もうひとつ。『対価』である。こぶとり爺さんで言えば『鬼の宴会で見せる余興』であり、おむすびころりんならば『握りメシ』がそれにあたる。

『狐火の市』で対価となるものは『自分の宝物』だ。狐火の市では貨幣は使えない。

 自分の大切なもの、大事にしている宝物。それらを差し出さなければならない。それは、場合によってはお金よりも価値がある。何を要求されるのか、気になるところだ。

 狐火の市を目指すには、それなりの覚悟や理由が必要とされるのかも知れない。


 さてここで、筆者には気になることがひとつある。これだけ具体的に示された『狐火の市』へ行く方法。試してみた者はいないのだろうか?

 ともすれば子供でも満たせる条件だ。無茶をして、山に入ってしまう子供はいないのだろうか?


 地元警察の行方不明者や、家出人の捜索願いの提出状況を調べてみた。

 答えは『ゼロ』だ。狐火の市へ行くと言って、行方不明になった人間は、ひとりも確認出来なかった。

 これは目印となる狐火が、灯らない現状を反映しているのだろうか。いいや、狐火の目撃情報はある。では、そもそも伝承を信じる子供や若者(もしかして大人も)がいないのか?


 この答えは、筆者には用意出来ない。


 だが、こんな想像をしてしまう。


 準備を整え、作法を守り、狐火の市を目指した人は、狐火の市へとたどり着いたのではないだろうか? たどり着き、そこで見た物、手に入れた物や経験……。それを口外しない選択をしたのではないだろうか? 筆者には、その気持ちがわかるような気がする。それはきっと恐怖ではなく、大切な想い出だ。


 狐火の市。


 そこはどんな場所で、どんな妖怪たちが、一体何を売っているのだろう。


 是非、筆者も行ってみたい。そう思わずにはいられない。『狐火の市』は、そんな親近感を感じさせる伝承だと言える。



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