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狐火の市へ  作者: はなまる
炭焼き小太郎編(群馬弁)

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其ノ五 餅つき

 小太郎がしゅんとうなだれて、そばと鼻水を一緒にすすっていると、広場がにわかに騒がしくなった。


 まんじゅうを焼く甘い味噌の香りや、甘酒の煮える匂いが漂って来る。のれんをめくると、いつの間にかいくつもの屋台が並んでいた。


 広場の真ん中では、粉雪にじゃれつくように、三匹の子狐が遊んでいる。その子狐には、尻尾が二本生えている。


「おい、そろそろ餅つき、はじめるど」


 鬼の面を被った大男が、臼を担いで歩いて来た。小太郎は、そばが鼻に入ってしまい、ゲホゲホとむせた。


 小太郎はむせながら、ようやくここが、どうやら人間の領分ではないことに思い当たった。


(よ、妖怪だんべか? おれ、取って食われちまうんか⁉︎)


 そう思って見ると、天狗の面も鬼の面も、とても恐ろしい顔に見えた。


 ところが当の面の男たちは、小太郎に興味なさそうに、餅つきの話をしている。


「この雪ん中、そらぁ酔狂なこったな」


「雪なら、じきに(もうすぐ)やむ。手伝えよ」


 天狗面の男は、ため息をつきながら立ち上がり、煙管(キセル)の灰をカチンと七輪に捨てた。


「ボウズも手伝え、そば代だ」



       * * *



 鬼の面を被った男が、軽々と(キネ)をふるう。小太郎はくっつかないように、餅に水をつける係だ。


 天狗面の男は、小太郎に手伝いを押しつけて、座り込んでまた煙管をふかしていたけれど、鳥面の女の人にドヤされて(怒られて)鬼面とかりばんこっつ(代わる代わる)で餅をついた。


 ホタル草の双葉たちが、餅つきの周りを取り囲むように漂い、(キネ)が振り下ろされるたびに、くるくると回転して光の色を変える。


 小太郎は最初、手を打たれたらどうすんべとか、餅がつき上がったら一緒に喰われちまうんべかとか、そんなことばかり考えていた。


 でも子狐が、ホタル草の真似をして跳ねたり、神社の狛犬そっくりな子犬が、金色の雲に乗って飛び回るのを見ていたら、なんだか無性に楽しくなった。


(妖怪たちも正月は餅食って、のんびりすんだな! 人間とおんなし(同じ)だな!)


 明日は元日だ。窯には火を入れずに、小太郎も山を下りる。双葉たちとのお別れは寂しいけれど、久しぶりに家に帰れるのは嬉しかった。



 その後、つきたての餅をからみ餅|(大根おろし醤油の餅)にして食べながら、大人たちは宴会をはじめた。


 小太郎はなぜか子守りを言いつけられ、コロコロと走り回らながら悪さ(イタズラ)する狛犬や狐の子供を追いかけた。双葉たちは、そんな小太郎の後を、くるくる回りながらついて来た。


 そうしてチビたちが全員コロンと転がるように寝てしまうと、双葉たちも広場のすみの雪溜まりへと着地して、いつも通りぼんやりと点滅しはじめた。


(お()たち、お別れだな。立派に育てよ! 兄弟、仲良くしろよ!)


 小太郎は大きい方から順番に、つやつやした葉を撫でた。一番チビの双葉だけ目を覚ましたらしく、小太郎の指にすり寄るように揺れて、また静かに光りはじめる。


 気がつくと、小太郎の肩に母ちゃんのホタル花がとまっていた。顔の周りをフラフラと飛んだと思ったら、ポロリとひとつ花が落ちた。


「おやおや、坊や気に入られたねぇ」


 後ろから鳥面の女の人に声をかけられた。


「滅多にもらえないんだよ」


 雪の上に落ちた花は、ヒヤリと冷たかった。透明な花は(へた)(しん)の部分がほんのりと黄色い。


「食ってみな、甘いよ」


 口に入れると、ホロホロとほぐれるように溶けて、甘い蜜の味がした。

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