其ノ三 ホタルぐさ
ホタル草は切り株の上で、日向ぼっこをしているように見えた。時折りゆらゆらと葉を揺らして、気持ち良さそうにしている。
「おめえ、土に埋まってねぇで平気なん? 枯れっちまわねぇんか(枯れちゃわないの)?」
小太郎が話しかけると、ホタル草は少し浮き上がってくるくると回転した。
「ははっ! 変なやつ!」
気がつけば、小太郎は一人ぼっちの心細さを忘れていた。初めての山での生活は、ホタル草のおかげで、毎日がワクワクすることの連続だった。
次の朝起きると、切り株の上のホタル草は三つになっていた。
「おめぇらも、飛べるようになったんか! すげぇな!」
ホタル草はすっかり小太郎に慣れて、肩や頭にとまるようになった。竹とんぼのようにくるくる回りながらついて来る。けれど、小屋の中や窯の近くには決してついて来ない。
どうやら、あたたかいのは苦手らしい。
その次の日には、芽吹いたホタル草は五つ全ぶが飛べるようになり、小太郎の周りはずいぶんと賑やかになった。
根っこはしまってあるらしく、小太郎が小さな皿に水を入れてやると、みんな揃って皿へと集まって来て、ペロリと根っこを出す。
一番最後に芽吹いた小さな双葉が、皿から弾かれてコロンと転がったり、大きな双葉に小さいのがじゃれつくような動きをする。
「ふふふ。うちの兄弟みてぇだな。ほれほれ、仲良くしろや!」
夜になると雪の吹き溜りへと戻り、ゆっくり、ぼんやりと光る。真っ白い雪の上で、大小五つの小さな双葉が明かりを灯す。小太郎は綿入れ半纏を着込んで、地面から這い上がる冷たさで足が痺れるまで、飽きることなく眺めた。
ある晩のことだ。
小屋の曇った窓の外が、ぼんやりと明るくなる。小太郎が曇ったガラスをこすって見ると、明かりを灯したホタル草が、ゆらゆらと漂っていた。夜に飛ぶのははじめてだ。
小太郎が戸を開けると、嬉しそうに全部のホタル草が一斉にくるくると回った。くるりと回ると光が赤みを増していく。またくるりと回ると今度は冴えた青色になる。
「おめぇら、これを見せに来てくれたんか?」
みかん色、桃色、藤色、水色。次々に色が変わる。くるくる回りながら色を変える様子が楽しくて、歓声を上げながら小太郎も一緒にくるくる回った。
やがてホタル草は、寝床である小屋の裏の林ではなく、細く続く峠道へと漂ってゆく。
少し進んでは止まり、少し戻ってまた進む。まるで小太郎を待っているようだった。
「どこいぐん(行くの)? おれも一緒に連れてってくれるんか?」
小太郎は誘われるままに、白い息を吐きながら、凍えるような夜道へと向かう。
ホタル草がくるくると回る。満天の冬空を背に、競うように――踊るように。
いつの間にか降り出した粉雪が、小太郎の肩に、頭に、落ちては消える。




