其ノ二 不思議な植物
小太郎は最初、ガラス細工の飾りものが落ちているのだと思った。軽い気持ちで拾えば、もっさりと根っこと土が付いて来た。
(え? なんだこりゃ……)
よく見ればそれは双葉の形をしており、茎も根も透明だ。だが、手触りは細工ものの硬質なものではなくなく、開いたばかりの双葉そのもののように柔らかい。お天道さまの光にかざすと、葉脈も見て取れる。
『えらい(ずいぶん)変わった植物だなぁ』
小太郎はそう思いながらも、引っこ抜いてしまった軽い罪悪感を覚えて、急いで元の場所に埋めた。
雪のない場所に移そうかとも思ったが『生えて来た場所がよかんべ(良いだろう)』と、元通り雪も被せた。
小太郎は予定通り、適当な枯れ木を倒して切り出して窯の前に戻った。煙の色を見ながら、小刀で木を削り、小さなケン玉を作りはじめる。
カマキリやアリなどの昆虫や、その幼虫には透明な身体を持つものがいる。芽吹いたばかりの植物なら、色の抜けたものがあるのかも知れない。
「帰ったら、爺さまに聞いてみんべ(みよう)」
爺さまは、山のことなら何でも知っている。
* * *
その日の夕方。
小太郎は透明な植物の様子を見に行ってみた。自分が一度抜いてしまったことで、萎れてしまっていないかどうか気になったからだ。
小屋の裏手に回ると、林の入り口あたりがぼんやりと明るい。あの植物のあった雪溜まりだ。小太郎がおっかなびっくり近寄ると、透明な双葉に明かりが灯っていた。
夕闇に、ゆっくりとまたたきながら光るその様子は、夏の夜に水辺で見られるホタルのようだ。
「こりゃ、葉っぱのふりしてる、ホタルかなんかだんべか?」
蛾やカマキリなど、植物に擬態する昆虫は多い。小太郎は近寄ってそっと光る葉に触れてみた。
逃げる様子はなく、昆虫らしい脚や触覚も見当たらない。
「んじゃあ、やっぱり作りもん?」
双葉をひっくり返したり、においを嗅いだり、こしょこしょっと、くすぐったりしてみる。
ピクリとも動かずに、ぷっくりと厚ぼったい葉は、かすかに青くさかった。
光るキノコがあるらしいと、爺さまが言っていた。だったら、光る植物もあるのかも知れない。小太郎はそんな風に納得した。
「たまげた(びっくりした)なぁ。だけんど、面白れえもん見つけた!」
この植物が育ったらどうなるのだろう。花や実をつけたりするのだろうか。その花や実も、暗くなると光るのだろうか。
「きっと、きれいだんべなぁ!」
雪の中で芽吹いたこの不思議な植物に、小太郎はあっという間に魅せられた。
次の日の朝。
「うわっ! 増えてる!」
昨日見つけた双葉は少し葉を大きくしていた。つやつやとしてみずみずしく、透明なままだ。その根元にひとつ、少し離れた雪の上にひとつ、種の殻を頭につけた、小さな芽が顔を出している。
「こっちの二つも透明だ!」
小太郎は葉に触れないように、そうっと種の殻を取った。
「雪の上に生えるんなら、冷たいのが好きなんだんべか? あったけぇ手で触ったら、毒(良くない)かも知んねぇ」
小太郎は本当は、この植物を小屋に持って行きたかった。鉢か何かに植え手近に置いて、ずっと見ていたかった。自分のものにしたかった。
けれど育て方がわからない以上、触らないのが一番だ。枯れたり萎れたりしたら、取り返しがつかない。
朝も昼も夜も。日に何べん(何度)も林へと足を運び、飽きることなく眺めた。『ホタル草』と名前もつけて、ともすれば炭焼きの窯を、放ったらかし(放っておく)にしてしまいそうなほどに夢中になってしまった。
そこで小太郎は、自分の中で決まりごとを作った。
『ホタル草、見たら煙見る、ホタル草のこと考えたら窯のことも考える』
(おらぁ、山に遊びに来てるわけじゃねぇ。もう十だかんな!)
そうは決めても、夢中になり過ぎて、慌てて窯の前に戻ることもしばしばなのだが。
二日後、新しい芽が二つ出て、ホタル草は五つになった。最初に出た芽は双葉を大きく広げている。
「雪の上で、冷たくねぇか? あっちの陽当たりのいい方へ、植え替えてやるべぇか?」
ちょんちょんと葉の先をつつきながら、話しかける。
すると。
なんと双葉が竹とんぼのように、くるくると回りはじめたのだ。そしてふわりと浮き上がり、ゆっくりと回転しながら、小太郎の周りをふわふわ漂うように飛ぶ。
「ひやぁー!」
小太郎は尻もちをついて、そのまま後ずさった。
(と、飛んだ! やっぱり虫の仲間だんべか?)
小太郎は刺されてはたまらんと、ゆっくり離れようとするが、ホタル草はゆらゆらとついて来る。
そのまま小屋の前までついて来て、切り株の上にすとんと着地した。




