其ノ八 ニアの店、ミサキの店番
五歳くらいに見える猫面の女の子は、段ボール箱に花柄のハンカチを敷いて、小さなアクセサリーを並べていた。
ぼくはスケッチブックを取り出して、色々質問してみることにした。普通のアクセサリーに見えるけれど、ここは狐火の市だ。きっと不思議な道具に違いない。
『こりゃ、どげな道具?』
たんぽぽの花のブレスレットを指さして、スケッチブックを見せると、女の子がそのブレスレットを自分の手首にはめた。
途端に、かぶっている猫面の眼からビームのように光が漏れる。
(め、眼が光っとるんか⁉︎)
危うく叫び声をあげそうになった。動揺を隠して、隣の四つ葉のクローバーの飾りを指さしてみる。
女の子が浴衣の胸につけた。ブローチらしい。
爪がにゅるにゅると伸びた。
女の子が、伸びた爪をヒラヒラしながら『どう?』とでもいうように首をかしげた。
首をかしげたいのはぼくの方だ。実演してもらっているのに、何に使う道具なのかさっぱりわからない。
ナナカマド実の赤い髪留めは、付けると髪の毛がバサッと逆立った。ぼくは笑いがこらえ切れなくて、吹き出してしまった。
必死に笑いをかみ殺す。こんなことで作法を破る危機に陥入るとは、さすがに考えてもいなかった。
『にゃーはまだ新米だから、たいした物は作れないにゃんよ』
女の子がスケッチブックに書いた。
(猫の面だけん、にゃー言うのだらーか? それとも……)
ゴクリと生唾を飲んで顔を上げる。提灯の灯りで揺れる女の子の影には、二股に分かれた尻尾が付いていた。
(ね、猫又⁉︎ 本当に妖怪なん?)
一瞬後ずさりしてしまいそうになって、踏みとどまる。
(猫又って悪い妖怪だっけ? 悪いのは化け猫⁉︎)
図書館で読んだ『妖怪図鑑』を必死で思い出す。
『まだひとつも売れたことがないにゃ』
しゅんとうなだれるその様子は、なんだか可愛らしい。ぼくは考えた末、リュックサックから、またたびの小枝をひと束取り出した。
『これと交換してくれん?』
たんぽぽのブレスレットを指さす。
猫面の女の子は、嬉しそうにブンブンと大きく頭を振って、スケッチブックに大きく『まいどあり!』と書いた。
可愛い。だんだん親戚の小さな子を相手にしている時の気持ちになって来た。つい女の子の頭を撫でてしまったら、面の奥からゴロゴロと喉を鳴らす音が聞こえた。
ぼくが手を振ると、猫又の女の子は両手を振った。初めて自分の作った道具が売れて、相当嬉しいらしい。
本物の妖怪に会ったにも関わらず、少しも怖くなかった。
(だども、油断したらいけんな。怖え妖怪だっていっかも知れん)
ぼくは眼が光るブレスレットを何に使うか考えながら、次の店を目指した。
次の店は、天狗の面をかぶった子供の店だった。
(また子供だ。みんな子供に化けちょーの?)
ぼくと同じ歳くらいの女の子が、妹らしき三歳くらいの女の子を連れている。他の店の人とは違って洋服を着ているので、普通の人間に見える。
商品が並んだ赤い敷物の前には『物見ノ玉屋』という、古めかしい看板が立てかけてあるが、その看板に『店主不在』と書かれた紙が貼ってあった。
二人は売り物の玉を提灯の灯りにかざして、なんだか楽しそうにしている。
『こりゃ、どげな道具?』
ぼくはスケッチブックを取り出して、さっき猫又の子の店で書いた質問を見せた。再利用だ。
『色々なものや場所が見える玉じゃ』
すごい! それはぼくの想像していた、妖怪の道具そのものだ。
『何を見ちょーの?』
『天狗のおっちゃんが、店番サボって夜釣りしとるん見とる。全然釣れとらん』
ぼくはまた吹き出してしまった。どんどん緊張感がなくなっていく。夜釣りをしているという天狗も『おっちゃん』と呼ばれると怖くない気がする。
『君たちも天狗なん?』
気がゆるんだら、好奇心が湧いて来た。女の子の影に羽はない。
『いんや。わたしは人間じゃ』
『なんで店番しちょるで?』
詮索が過ぎるだろうか? でも人間なら術で悪さをされたり、魂を取られる心配はない。
『ここは狐火の市じゃけん。客は、余分なことを言うとらんで、欲しいものを探すもんじゃ』
ぴしゃりとクギを刺された。天狗に弱みでも握られているのだろうか。
『助けが必要?』
無理やり狐火の市に連れて来られたなら、天狗の留守に、ぼくらと一緒に帰れるかも知れない。
『いんや。わたしは好きでここにおる。心配は無用じゃ』
女の子が妹をひざに抱いて、ニシシと笑った。良かった、妹も楽しそうだ。
ぼくはリュックから飴玉を取り出して渡し、次の店を目指した。




