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狐火の市へ  作者: はなまる
約束編(出雲弁)

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39/62

其ノ七 狐火の市

 ぼくとタクは、熱にうかされたように山道を歩いた。提灯の小さく頼りない明かりは、足元をおぼろに浮かび上がらせて、二人の影を長くする。

 風の音や虫の声は面越しに聞くと、どこか作りものめいて聞こえた。自分の吐く息の音も、つないだタクの冷たい手も、何もかもが現実感から遠い。


 今すぐに面を外して、タクに声をかけたくなる。


『具合はどげだ?』

『ちいと休むか?』


『わ(おまえ)、本当にタクなんか?』


 気が急いて、速くなりそうな足を必死になだめてタクの手を握ると、痛いくらいに強く握り返された。

 顔を上げて提灯を少し高くして見る。タクが少し狐面をずらして、歯を剥いてニシシと笑う。


 ぼくも狐面をずらして歯を見せ、親指を立てて下に向けた。タクがお返しと言うように中指を立てる。

 あははと笑いそうになり、慌てて口を押さえる。今度は二人一緒に、人差し指を立てて口に当てた。


 怖くない。タクと二人なら、何も怖くないと思った。


 やがて見えてきた、色とりどりの提灯の明かり。まるで急に夜祭りが始まったみたいだ。タクが小さく拳を振り上げた。


 ぼくらはつないだ手を離し、互いの手を高く挙げて思い切り打ち鳴らした。パーンと小気味良い音が響く。じんじんと痺れる手を、もうつなぐことなく、まっすぐ前を向いてゆっくりと並んで歩いた。


 そうして、ぼくらは狐火の市へたどり着いた。



   * * *



 キョロキョロと辺りを見回すタクの頭を小突いて、広場の隅に引っ張って行く。リュックサックから小さなスケッチブックを取り出して『おちつけ!』と走り書きする。

 タクがマジックを引ったくって『おまえもな!』と書いた。確かにぼくも興奮している。


『ほんにきつね火の市か? スゲエ!』

『みんな面をかぶっちょる。夜中に山ん中でこげな祭りがあーはずねぇ』


『あいつら、みんな妖怪だらか?』

『オバケかも知れんで!』

『あー、カメラ持って来ら良かった!』


 ずっと黙って歩いていた反動で、手が止まらない。ひとしきり、吐き出すように気持ちをスケッチブックにぶつけて、ようやく少し落ち着いた。


『別々に面白い(おもっせ)もんを探さこい』


 ぼくはタクの病気を治すような、前みたいに元気になるような物を探すつもりだ。タクと一緒だとやりにくい。


『二人の方が楽しいがね? 一緒に回らや』


 食い下がるタクを『どっちがおもっせもんを手に入れられえか競争さこい!』とやっと丸め込んで、右と左に別れた。


 タクの背中を見送って、広場の真ん中に立つ。


 広場に張り巡らされた縄に提灯がまばらに下がっていて、ぼんやりとした明かりを投げかけている。時折り風に揺れると、その下を歩く者の影も、ゆらゆらと不確かになる。

 店は屋台のような上等なものではなく、敷いた布の上に商品らしき物を並べてある。


 客も多くはなく、活気のようなものは感じられない。男も女も着物や浴衣を着ている者が多いが、華やかさとは無縁だ。祭りの晴れ着というにはやけに生活感がある。


 何より異様なのは、しんと静まり返っていること。話し声も、足音も聞こえない。耳がどうかしてしまったのかと思い頭を振ると、ひそめた含み笑いの声や、衣ずれの音が聞こえた。


(こりゃ……本気で人間の集まりだないかも知れんね)


 だが、相手が妖怪だろうとオバケだろうと、ぼくらは作法を守ってここに来た。文句を言われる筋合いはない。あとは目当ての物を探して、手に入れるだけだ。

 ふとタクを目で追うと、早速店の前にしゃがみ込んで、並んだ品々を熱心に眺めている。


(オチラと(グズグス)しちょー間は、ね!)


 ぼくは一番はしっこの、猫の面をつけた浴衣の女の子の店へと向かった。

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