其ノ三 種あかし
ぼくが三年生の時、本家で親戚の集まりがあった。婆さまの法事だか、墓参りだか、しゃん用事だっただねかと思う。
大人やちは大広間で宴会をしちょって、子供やちはその隣の部屋でゲームしたり、本家の従兄弟のマンガ本を貸してもらって読んどったり、退屈なやな、楽しいやな夜を過ごしちょった。
ぼくは中学生の従兄弟に、ゲームの裏ワザを教えてもらっとって、そのゲームの中に狐の面を被った中ボスが出てきた。そのボスに魔法で攻撃しながら、ぼくはなんの気なしに狐火の市の話をした。
「へぇ、ようあーやな感じだども、面白話だな」
隣の県の私立中学に受験して入った、親戚の中でも一番頭のいい従兄弟だ。
「マンチャラ(でたらめ)だと思おかね?」
「どげかなあ。だども、大昔には盗品やご禁制の品を売りさばく闇市があったげな」
「えっ? 悪りやつがやっちょーおぞい場所だで?」
ぼくは思わず手が止まって、画面に大っきゃん『ゲームオーバー』の文字が表示された。
「『沈黙の市』とか『顔なしの市』とか言うげな。お尋ね者は、顔を隠したいし余計な詮索は嫌がるけんな」
従兄弟の兄ちゃんの話は、ほんのことなやに聞こえた。ぼくがえげな場所へ行くための儀式だと思っちょった『作法』は、悪いヤツの汚い逃げ道を作うためのもんだった。
『だけん面を被ったり、喋えことを禁じいだねかな?』
従兄弟の兄ちゃんが笑いながら言った。ぼくにはその顔は得意そうに見えた。子供っぽか噂話ば信じとー、ぼくば馬鹿にしとー顔や。
「し、しゃんことだらと、思っちょったよ」
ぼくは精いっぱい平気なふりをして、ほにょってそーほど(やっとそれだけ)口にした。
サンタクロースはお父だ。近所の川に河童はおらんし、本家の床の間に座敷童子も出んし、お寺の墓場に火の玉は浮かばん。
狐火の市は、妖怪の不思議な市ではのうて、卑怯者が汚え金を稼ぐ場所だ。
「そもそも、お山に狐火なんか灯らんし、狐火の市なんか、あーはずもね……」
ぼくの夏休みは、宿題がたいそある、暑くて長いだけの休みになった。




