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狐火の市へ  作者: はなまる
約束編(出雲弁)

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35/62

其ノ三 種あかし

 ぼくが三年生の時、本家で親戚の集まりがあった。婆さまの法事だか、墓参りだか、しゃん用事だっただねかと思う。


 大人やちは大広間で宴会をしちょって、子供やちはその隣の部屋でゲームしたり、本家の従兄弟のマンガ本を貸してもらって読んどったり、退屈なやな、楽しいやな夜を過ごしちょった。

 ぼくは中学生の従兄弟に、ゲームの裏ワザを教えてもらっとって、そのゲームの中に狐の面を被った中ボスが出てきた。そのボスに魔法で攻撃しながら、ぼくはなんの気なしに狐火の市の話をした。


「へぇ、ようあーやな感じだども、面白(おもっせ)話だな」


 隣の県の私立中学に受験して入った、親戚の中でも一番頭のいい従兄弟だ。


「マンチャラ(でたらめ)だと思おかね?」

「どげかなあ。だども、大昔には盗品やご禁制の品を売りさばく闇市があったげな」


「えっ? ()りやつがやっちょーおぞい場所だで?」


 ぼくは思わず手が止まって、画面に()っきゃん『ゲームオーバー』の文字が表示された。


「『沈黙の市』とか『顔なしの市』とか言うげな。お尋ね者は、顔を隠したいし余計な詮索は嫌がるけんな」


 従兄弟の兄ちゃんの話は、ほんのことなやに聞こえた。ぼくがえげな場所へ行くための儀式だと思っちょった『作法』は、悪いヤツの汚い逃げ道を作うためのもんだった。


『だけん面を被ったり、喋えことを禁じいだねかな?』


 従兄弟の兄ちゃんが笑いながら言った。ぼくにはその顔は得意そうに見えた。子供っぽか噂話ば信じとー、ぼくば馬鹿にしとー顔や。


「し、しゃんことだらと、思っちょったよ」


 ぼくは精いっぱい平気なふりをして、ほにょってそーほど(やっとそれだけ)口にした。


 サンタクロースはお(とう)だ。近所の川に河童はおらんし、本家の床の間に座敷童子も出んし、お寺の墓場に火の玉は浮かばん。

 狐火の市は、妖怪の不思議(えげ)な市ではのうて、卑怯者が汚え金を稼ぐ場所だ。


「そもそも、お山に狐火なんか灯らんし、狐火の市なんか、あーはずもね……」


 ぼくの夏休みは、宿題がたいそある、暑くて長いだけの休みになった。

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