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狐火の市へ  作者: はなまる
約束編(出雲弁)

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34/62

其ノ二 約束

 その晩は寝床に入った後も、声を潜めて狐火の市の話をしちょった。


 どぎゃんもんを売っちょーだらか? 秘密の市で不思議なもんを手に入れて、無事に帰って来らいだらか? 狐の面と提灯をどげして手に入れえか?

 ふとんを被ってコソコソと話をしちょーと、えなげな気分になった。このふとんの中だけが安全で、外側には何だい得体の知れんもんが、ぼくらを取り巻いちょー気がした。


「人間だねてことは……妖怪やオバケの市だで?」

「油断しちょると魂を取らいたり、(さら)わいたりすーかも知れんな」


 どっちからともなしにつないだタクの手が、じんわり汗ばんどって、ぼくの腕にはサブイボが立った。

 (おぞ)がっちょることがバレたら……弱虫だと気づかいたら、ふとんの中になんぞ入って来てしまあーかも知れん。そげしたら狐火の市へも行けん。

 つないだ手をぎゅっと握ったら、ぞんぞがつく(背筋が寒くなる)感じが、ちょんぼし(少し)収まった。


「ひとりで行くのは危ないけん! 絶対、一緒に行くだで!」

「うん、約束すーわ。絶対二人で行かこい!」


 弱虫で肝が細せ(怖がり)ぼくらだけど、二人なら大丈夫なやな気がした。タクと一緒だったら行けえ。誰も見たことがない不思議な場所へ、少しも特別だないぼくらが行く。


「ぼくは空飛ぶじゅうたんが欲しい!」

「ぼくは動物の言葉が(わか)ーやんなりたい!」


 二人して『ええな!』と笑い合った。


「だども、ええもんと交換してもらあには、まげな(すごい)宝物が()いだないだらか?」

「うん、ぼくもそげ思う。マサト、お年玉残っちょー?」


 ぼくの貯金箱には、三十五円しか入っちょらん。


「宝物はお金じゃ買われんもんだと思う」


 ぼくがそげ言ったのは、負け惜しみなんかだない。断じて違わ。


「そげだな。お金で買われん、えげなもんを売っちょる市だけんな!」


 タクがそげ言ったのも、あいつのお財布がぺしゃんこだったけんだない。たぶん。


『宝物とは、他の人にとってはガラクタでも、本人にとって大切なもの』


 夜通し話し合った末に、出した答えはわーかしええもんだったやに思う。ぼくらは、自分たちが『ええわ!』と思うもんを探すことにした。


 物置きや押し入れをかき回いて、お互いの母ちゃんに叱らいたり、お小遣いを握りしめてタクのお爺に古道具屋さんへ連れて行ってもらったりした。

 早起きして海岸へ行って貝殻や瓶を拾ったり、河原できれいな石を探したり……。

 近所の雑木林の洞窟を探検した時は、危ねことをすうだないと正座させらいた。


「隠された秘宝とか、あーかと思ったにな!」


 二人で痺れた足をつっつきながら、クスクス笑い合った。

 新月の晩にはお互いの家に泊まって、夜更かしをして狐火が灯おのを待った。手作りの狐面と提灯を用意して、こっそり父ちゃんのコーヒーを飲んながら、必死に眠気(ねんた)と戦った。


 ぼくとタクの夏休みは、宝箱を開く前なやな、冒険に旅立つ前の晩なやな……。


 そぎゃん、特別な日々だった。




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