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狐火の市へ  作者: はなまる
約束編(出雲弁)

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33/62

其ノ一 幼馴染

「狐火の市? タク、そぎゃん子供なやなこと、まんだ言うちょーかや?」


 久しぶりに会った幼馴染のタクは、全然変わっちょらんだった。


 こまい頃とチョンボだい(少しも)変わらん顔で「マサト、今年の夏休みは大丈夫だわの? 約束覚えちょーかや?」と笑う。


 五年生にもなって、オバケだい妖怪だい、不思議(えげ)な露天市のことを、まんだ信じちょーだか? 


 そりゃあ世の中には、不思議なことがあーかもっせんとは思う。宇宙人はきっとおる。タイムスリップや前世の記憶なんかも、もしかしてと思っちょる。だどもそれは、ぼくとはきっと関係のね場所で起きいことだ。


 ぼくはもう、狐火の市なんか信じちょらん。



「狐火の市なんか、あーはずねが?」


 いつまでも子供でいるタクが憎らしかった。自分が捨ててしまったガラクタを、まだ大切にしちょータクを、傷つけてやりたいと思った。



 狐火の市なんかより、病院の白い部屋で管につながれて笑うタクの方が、よっぽど現実感がない。


『今年の夏休みは大丈夫だわな?』


 大丈夫だないのは、わ(おまえ)だねかや?


『約束覚えちょー?』


 約束を破うのは……タクの方だねかね。




   * * *




 狐火の市のことを教えてごいたのは、タクのお(じじ)だ。


 母親同士が友だちだったぼくらは、そおこそ赤ん坊の頃から顔を合わしちょった。紐落とし(七五三)も一緒に祝ったし、おたふく風邪も一緒に寝込んだ。


 小学校へ上がった年、最初の夏休みだったと思う。タクの家の庭で花火をしたあと、縁側でスイカを食っちょったら、お(じじ)がタバコを吸いに来た。


 大きな煙の輪を作ってごいちょるお爺に、二人して顔を見合わせながら言った。


「お爺! またおぜ(怖い)話、して!」


 タクのお爺は、怖い話をたいそ知っちょった。


 海から誘うやに手が伸びい話や、()れ廊下で笑う(あけ)服の女の子(おなごんこ)、自動車とおんなし速さで走い、下半身のね男の話。


「おぞ~(怖え)‼︎」

「サブイボ立ったぁー‼︎」


 ぼくもタクも、おぜおぜ(怖い怖い)と言いながら、次の話をねだった。


 お爺は「夜中にしょんべん行けんやんなっても知らんぞ」と言いながらも、タクのお(かぁ)に「近所迷惑だけん静かにすうだわ!」と叱られるまで、ぼくらに付き合ってごいた。


「ほんなら、最後の話だ。これ終わったら風呂に(はい)いだぞ」


 そのお爺とっておきのが『狐火の市』の話だった。


「夏から秋にかけての新月の晩、お山に火の玉が浮かんことがああ。真っ暗な、人なんぞ()ーはずもね、山ん中でのお。人間の仕業だない。狐火って()いもんだ」


 川向こう街の後ろに、暗くそびえる出雲のお山。お爺はついっと伸ばした人差し指を向ける。


「ほーれ、あの山かも知れんよ」


 お爺の声が、まるで知らん人の声みたいに聞こえる。




 たったひとつだった山の火は、ひとつ、またひとつと増えてゆく。三つの火が点いたら、不思議な(えげな)(もん)が売っちょる、狐火の市が立った合図だげな。


 欲しいもんがあーなら、行ってみいだわ。そら、タダじゃ手に入らん。大切な宝物と交換だで。


 暗ぇ山道を、声を出さんで歩く勇気も()いで。狐火の市へ行くにゃあ、作法があーけん。


 狐の面を被らないけん。提灯(ちょうちん)を持って歩いてかないけん。(なん)があっても喋ったらいけん。


 三つの作法を守れん(もん)は、狐火の市にはたどり着けらん。



「どげだ、行ってみてか?」

「「行きたい!」」


 ぼくらは顔を見合わせて、声をそろえて応えた。




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