表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狐火の市へ  作者: はなまる
姉ちゃんの嫁入り編(博多弁)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/62

其ノ五 狐火の市

(あれが狐火ん市なんか? すごかぁ! ほんなこつ(本当に)あったんや!)


 イツキはサトコの腕の中を抜け出し、走り出そうとした。


 ところが、手をギュッとつかまれて振り返ると、サトコが首を横に振る。そして、面を外しながら、はっきりと口に出して言った。


「イツキ、帰ろう」


 とたんに、階段の踊り場の灯りが、ゆらりと揺れた。チカチカとまたたきながら、ゆっくりと遠ざかる。


(嫌や! 消えんで!  やっとたどり着いたとに!)


 見る見るうちに遠ざかってゆく。イツキは地団駄を踏むような気持ちで叫んだ。


「姉ちゃん! なしてしゃべってしまうと? すぐそこに狐火の市が見えとおよ!」


「姉ちゃんの宝物はイツキばい。他に差し出すもんも、欲しいもんも、なかとよ」


「ぼくは姉ちゃんの……姉ちゃんの本当ん弟になりたか(なりたいんだ)! 狐火の市なら、そげなもんが売っとるかも知れんのに!」


 狐火の灯りが、海中から見る月のようにゆらゆらと、頼りなく、イツキを誘うように揺れる。


「姉ちゃんのアホ! 手ばはなせ! ぼくは狐火ん市へ行く! 姉ちゃんの本当の弟になるったい(なるんだ)!」


 泣きながら暴れるイツキを、サトコが思い切り引き寄せて、抱きしめた。


「血がつながっとおのが、そげん(そんなに)えらかとか(偉いの)? 姉ちゃん、そげんもんには絶対負けんばい! 本当も嘘もなかと! うちは一生、イツキの姉ちゃんばい!」


 サトコの強く迷いのない言葉が、荒れた心に柔らかく染みてゆく。


 姉ちゃんは、ずっとぼくの姉ちゃんだった。本当の姉弟じゃないなんて、考えたこともなかった。これからも、きっと絶対、それは変わらない。


(なんや、今まで通りやなかか。心配する必要なん、なったんね)


 イツキはへなへなと腰が抜けたように座り込み、姉ちゃんのあほーと言いながら、わんわん泣き出した。


「あほうはイツキん方やろ! 宝物も持たんで行ったっちゃ(行ったって)、何も買えやせんやろう? だいいち、作法ば守っとらんかったやなか! 走ったらいかんばい!」


 サトコがいつも通り口うるさく言いながら、イツキに背中を向けてひざまずく。腰に添えた手を、ちょいちょいと呼ぶように動かす。おんぶしてくれる時のいつもの合図だ。


「姉ちゃん……ぼく、もう二年生ばい」


「知っとおよ。姉ちゃん鮎川先生やけんな。はよこんね(はやくおいで)!」


(なんでそげん嬉しそうなんやろう。狐火の市へ行けんくなってしもうたんに)


 イツキは内心、そう思いながらもサトコの背に乗った。そして、惜しいことしたとは思いながらも、そう悪くない気分でいる自分に驚いた。


 こんな風におぶってもらって歩くのは久しぶりだ。


「ふふふ。イツキ、重うなったなぁ」


「もうちょっと大きゅう(大きく)なったら、ぼくが姉ちゃんばおぶってやるばい!」


「泣き虫坊やが、背中でなんか言うとおばい!」


 サトコがケタケタと笑いながら言った。



 サトコの背中で振り返ると、石段の伸びる山道の上には、真っ暗な月のない夜空が広がっていた。イツキは、ケーンと一声、狐の鳴く声を、聞いたような気がした。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ