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狐火の市へ  作者: はなまる
姉ちゃんの嫁入り編(博多弁)

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其ノ二 狐祭り

「イツキ、どこにいると(いるの)?」


 姉ちゃんが帰って来て、家中ば探しはじめた。ぼくは身体が固まったみたいに動かんくなる。鬼婆に食べられたのうて隠れとお、昔話の中の子供みたいや。探しよるんは、大好きな姉ちゃんなんに。


 押し入れのすみっこの方で、頭を抱えてなるべく小さなる。


「イツキ、いるんやろ?」


 しばらくして、押し入れのふすまがスーッと開いて、かぶっとる布団がぺろんとめくれた。ぼくは必死で布団ば握って、なんとか取られんごと(取られないように)頑張った。


「ふふふ、お尻見えとおばい!」


 丸っきりの子供あつかいに腹ば立った。姉ちゃんは無神経や。


「ぼくなん、本当の弟やなかやろう? 放っときいや!」


 布団ば頭にかぶったまま、姉ちゃんに背中を向けて丸うなった。


「弟に本当も嘘もあるか! ほら、姉ちゃんに顔ば見せんしゃい(見せなさい)!」


「いやや! ぼくは一人で生きていく! もう姉ちゃんの世話にはならん!」


「泣き虫坊やがなに言いよおと! 十年早かばい!」


「泣いとらんし、坊ややなか! 十年たったら、姉ちゃん三十二歳や! それまでぼくん世話だけしとおつもりか⁉︎」


「そうばい! 姉ちゃんは好きでイツキの世話をしとおよ!」


 そげんこつ(そんなこと)嘘や。ぼくは姉ちゃんのお荷物や。


「ぼくがおったら、姉ちゃんが嫁にいけん!」


「はぁ? 姉ちゃん恋人もおらんと、嫁に行く予定なん、なかとよ」


「姉ちゃんに恋人がおらんのも、ぼくのせいや!」


「アホか! そんなんイツキに関係なかとやろ!」


「アホは姉ちゃんの方や! おまえの母ちゃんデーベーソー!」



 ぼくは精一杯の悪態をついて、押し入れから飛び出した。姉ちゃんば突き飛ばして、転ばして、アッカンベーまでしてしもうた。


「ちょっとイツキ! どこ行くん! もう晩ごはんの時間ばい!」


 走って走って、ぼくは隠れるところば探した。いじめっ子に腹が立って、いじめっ子の母ちゃんに腹が立って、姉ちゃんにも腹が立った。

 ぼくのことなんかあん時、親戚のおじさんに渡してしまえば良かったんや。そうすりゃ姉ちゃんは面倒ごとから解放された。ぼくなん、なんの役にも立っとらん。


 ぼくは誰よりも何よりも、自分に一番腹が立った。姉ちゃんの邪魔になっとったくせに、それに気づきもせんかった。


 そのうちだんだん悲しゅうなって、神社ん階段の下に潜り込むと、ぼくはぐずぐずと泣きながら、いつの間にか寝てしもうた。



           ◇ ◇ ◇



 イツキが目が覚ますと、すっかり日が暮れて、あたりは闇に包まれていた。スズムシがリーン、リリーンと鳴いて、風が吹くと少し肌寒い。季節は秋へと向かっている。


 もうすぐ秋祭りの準備がはじまる。この地方に伝わる『炎狐姫』という民話を元にした、ちょっと変わったお祭りだ。


 旅の途中で病に倒れた都の将軍を『炎狐姫』という名の、美しい狐の姫が助ける。

 将軍の病が癒える頃には二人はすっかり恋仲になっていて、輿入(こしい)れの話がトントン拍子に進む。やがて、狐たちの盛大な嫁入り行列の出発となる。


 祭りは夜祭りで、炎狐姫役の少女の舞からはじまる。子供たちは狐の面をかぶり、提灯を持って踊りながら、狐の好物(こうぶつ)のおいなりさんを見物人に配って歩く。


 子供たちや炎狐姫役の少女は、ずいぶん前から踊りの練習をするし、大人はおいなりさん作りに追われる。


 そして毎年祭りの準備がはじまると、子供たちの間で囁かれる噂がある。もちろんイツキも知っている。



 夏から秋にかけての新月の晩、お山に狐火ば灯ることがあるんやて。明かりが三つ灯ったら、狐火ん市が立つ合図。


 自分の宝物ば持って行ってごらんしゃい。不思議な、おもろいもんが手に入るかも知れんばい。


 ただし、狐火の市にたどり着くには作法がある。


 狐の面ばかぶること、提灯ば持って歩いて行くこと、決して喋ってはいけんこと。


 作法ばやぶったらどげんなるか? そりゃあ誰も教えてくれん。


 不思議なもんってどげんもん? それも誰も知らんこと。


 なしてなら、誰もたどり着いたもんがおらんけん。



 子供たちはこの話を聞くと、誰もが行ってみたいと思う。祭り用の狐面や提灯を渡されると、こっそり宝物の用意をする。示し合わせて、必ず行こうと約束をする子供らもいる。

 ところが、三つの狐火が灯った話や、実際に行った子供の話はとんと聞いたことがない。


 毎年誰もが『今年こそ!』と思いながら、だんだん大人になってゆく。中学生になる頃には、そんな話は信じなくなる。


 今宵は新月。イツキが見上げた夜空に月はない。神社の裏山には、ポウッと三つ……狐火が灯っていた。



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