48_健康診断(3.血液検査)
おはようございます。きんぴらです。
私は健康的な生活。——を、送っているはずだ。
そんな私は2020.8下旬に健康診断を行った。それで昨日は『身体測定』について記載した。今日はその続きだ。
身長測定で一喜し、体重測定で一憂した私は、その後幾つかの検査を受けてその日最後の試練に向かった。そうこれは診断などとは思っていない、試練に他ならない。無事生きて帰れるかどうかの。
その試練とは血液検査。一言で血を抜くあれだ。
「あ〜……これ書いているだけで力抜けてきた」
私の今の本心だ。一人でつぶやいた。
というのも私は極端に血を見るのが苦手なのだ。自分の血はもちろん、他人の血も見た瞬間に力が抜けてしまう。厳密にいうと少し違う。力が抜けるだけなら良いのだが、気分が落ち込み、気持ち悪くなり、体がぎゅっと縮こまってしまう。ひどい時は呼吸がし辛くなる。
それなのに、一度だけ思い切って献血をしようとしたことがある。
きっかけは大学の友人がやっていたからだ。大学構内に献血用のバスが入ってきて、友人がちょっくらやってこようといったので私もついて行ったのだ。その時から血が苦手という自覚はあったが、人間とは不思議なものでその分野に強い人間がいると、急に自分も強くなった気がするのだ。献血なのに。
友人は先に入り、私は少し外で待機していた。そしてすぐに名前を呼ばれてバスに足を踏み入れた。私が目にしたのは寝ている友人と、そこから吸い出された血液が入れられているパックだった。その瞬間、突然呼吸が乱れた。眼前は歪んでまともに立っていられない。そして猛烈に気持ち悪い。私はバスの入り口で膝から崩れ落ちて、その場にいた献血スタッフにバスから担ぎ出された。何事かと寄ってきた学生やらの多くが見下ろしていた。
——献血する前に倒れたとか……恥かしすぎる! 見ないでくれ!
本気で恥ずかしかったが、そんなことを言う余裕もなかった。
その後、バスの横のテントの中で10分ほど寝ていたら気分も落ち着き、歩けるようになった。どうやらひどい目眩だったらしい。友人はゲラゲラ笑っていた。そりゃそうだ。さっきまでノリノリで献血に向かっていたやつが、血を見て倒れているのだから。血が苦手な体質でよく献血ができると思ったのだ。
とまぁこんな失態があった。それ以外にもTV番組で手術のシーンが流れたら、気持ち悪くなってしまいチャンネルを変えるようにしていたり、元彼女が医者になると言って手術の話をし始めるとストップをかけるようにしていた。日常生活でも弊害はそれなりにあった。ほんと無理。
話は戻って、健康診断。血液検査は健康診断と違って、3ヶ月に1回行っているがそれでも慣れない。そもそもパーソナルスペースが広い私にとって、針のような異物が皮膚に接触するどころか内部干渉してくることが、血を見る以前にとてつもないストレスなのだ。さらに血を抜かれるなど——。
私は献血する人に尋ねた。
「今日は何本ですか?」
「このサイズ3本です」
——太めのボールペン半分くらいが3本。
私は抜かれるおおよその量を確認して、甚平の袖をまくり上げ親指を握りこみ、台座に肘を置く。こうなるともう『まな板の上の鯉』だ。なるべく痛くないように、早く終わってくれるのを願うのみ。私は目をつぶり、万が一目が開いても注射器を見なくて済むように首を大きく傾けて下を見る。
「チクっとしますよ〜」
「……」
私は無言で頷いて、『チクッ』を待つ。『ブスッ』にならないことを祈りながら。一度ブスッと刺されて血管を外したとかでやり直したことがある。あれはもうトラウマだ。だが自分ではどうすることもできない。先生の力量にお任せするしかないのだ。もう一度言う。まな板の上の鯉。先生どうかお願いします。
今回は『チク』で済んだ。ずっと目をつぶっている。いつもは注射器を取り替える音がするのだが今回はしなかった。どうやら一発で3本分抜いて、後で移し換えるらしい。私の行きつけの病院でもこれを採用してほしい。取り替えるとき、空気はいるんじゃないかと思ってめっちゃ怖いから。下を向いたまま目を開き、先生にはお礼を言うも、そちらに顔を向けない。血を見ると何が起こるかわからない。
採血が終わったことで健康診断は終了。
私は数時間の付き合いの甚平を脱ぎ、回収カゴに入れて自前の服を身にまとう。カバンを肩から下げて、とうとう裸足オンスリッパから解放される。自分が悪いんだけど。その開放感はすごかった。次からしっかり靴下を履いてこよう。
区役所の階段を降り、正面玄関の自動ドアから外に出る。カラッとした熱気が体に吹き付ける。蝉の声が鼓膜を揺らす。陽炎が見える。
来たときと何も変わらない。夏だ。
変わったことといえば足に感じる微妙な違和感と、右腕にできた小さな傷。体内の血がどれだけ減ったかはわからない。何もなかったかのように、私は歩き出す。
「さぁ今日は何をしようか。やっぱ散歩してカフェかな。散歩するならスギ薬局まで行くか。ポイント貯めたいし。でも暑いから遠回りはやめておこう。その後はカフェに行って、そこで昼食も済ましてしまおう。今日はパスタにするか。それで小説を読んで休憩して、夕方には家に帰れるな。帰ったら小説の続きを書いて、風呂入って、今度は眠くなるまで小説を読もう」
今日も健康的で楽しい、何気ない1日が始まる。
きんぴら




