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18_自転車に乗っていない

おはようございます。きんぴらです。



 私は自転車を持っていない。


 今は東京に住んでいるのだが、その前は大阪だった。大阪では自転車を持っていたが、その頃からほとんど乗っていなかった。


 というのも理由は明確で駅が近く、家から少し離れたところに特段訪問する用事のあるような施設がなかったからだ。


 近いのは駅とスーパー。徒歩で行くから自転車は必要ない。


 遠いのは遊んだり一服するカフェ。それは電車で都心に出るため自転車に乗らない。


 東京に来てからはカフェに至っても家の近くで済むため、遊び以外で電車に乗ることもなくなってしまった。


 より自転車の必要性を感じない。


 

 先日、そんな私が家に帰ろうとすると家の前の交差点で自転車に乗った少年とあわや接触事故を起こしそうになった。


 少年はまだ小学生低学年を思わせるような小さな体躯で、それに見合った小型の自転車を操縦していた。


 少年はぶつかる寸前で急停車し、「すいません」と私に謝罪。


 道路をすごい勢いで出てきたことには注意すべきだが、その謝る判断の速さと、しっかりと大きな声で私に届けたことには感心した。


「気つけろよ」


 とだけ言い残して私は玄関を潜ったが、久しぶりに自転車に乗った人間に声をかけられたことに気付いた。


 もちろん道を歩いていれば自転車に乗った人を見かけはするが、その人たちに声をかけられることはない。いつぶりだろうか……


 少なくとも以前大阪に住んでいた頃もなかった気がする。そうなると、もう一つ前の名古屋にすいんでいた時……いや違う。その時も駅のすぐ近くに住んでいたし、自転車で来訪する友人などいなかった。だとすると、そのもう一つ前の大阪にいた時か……その時はちょうど少し離れたところに友人が住んでいて、たまにその友人が来訪してきたので、自転車に乗った友人と話したことがあるはず。


 そうなると、もう7年ほど前になる。


 私は7年間自転車にまたがった人間と会話をしていなかったのだ。


 この私の文章、違和感を感じる方も多いはず。


 「そんなこと気にするな(笑)」


 と言われそう。


 確かにそうだ。全く気にする必要はない。別に自転車に乗った人と年に1回は話さないと死んでしまう——とかいう病気でもあるまいし。


 だが、何かと懐かしい気持ちになってしまったのだ。


 小・中学生のころ、毎日自転車で走り回り、友人と交わした会話。その傍らには必ずと言っていいほど自転車があったのだから。


 私は運動神経もバランス感覚も良く、幼稚園のころから自転車の補助輪を外して乗っていた。


 だからその分自転車との付き合いも長かった。家では良く兄と自転車で庭の周回競争を繰り広げた。よくスリップして転倒し、大きな擦り傷(実際にはそんな可愛い怪我ではない)を作ったものだ——


 

 話は戻るが、その少年に話しかけられて、ものすごく懐かしい気持ちになった。自転車にまたがり、田舎道を駆け回るきんぴら少年が重なったのかもしれない。


 あんなに日常生活に溶け込む……いや、溶け込むどころではない。必要不可欠だった自転車に今私は乗っていないのだ。


 時代も住む場所も変われば、人も必要なものも変わる。


 寂しく感じることもあるが、変化は必要なことなのだ。


 世知辛いと思いつつも、人間の進歩にはいつも驚かされる。


 私にいつか車椅子が必要になるように、今、あの少年には自転車が必要なのだろう……と勝手な解釈を膨らませた初夏の昼だった。




 少年よ。君にもいつかその自転車が不必要になる時が来るだろう。


 しかし忘れないでほしい。その時、君にとってのベストパートナーがいたことを。


 自転車という名の、君を君の好きな場所に運んでくれる、とっておきの奉公者があったことを。


きんぴら





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