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01_散歩

 昼前の起床で全く眠くない目を擦り、カーテンの隙間から差し込む光に慌ててカーテンを開く。


 待ち望んだ晴れ間がやってきた。


「今日はいい天気だ」


 今は梅雨。


 東京では19日連続の降水が確認されて、お天道様も外出自粛をしているようだった。


 という時事ネタも挟みつつ、浴室でシャワーを浴び髪を乾かし、お気に入りの元カノにもらったカバンを斜め掛けして出動。元カノはまだ私がこのカバンを使っているなど夢にも思っていないだろう。


 さて、脱線しそうな話を本筋に戻して、なぜ晴れを待ち望んでいたのかというと、『散歩』がしたかったから。


 前述の19日連続降水により、晴れの日の爽やかな散歩は妨害され続けていた。外に出たところで、ジメっと水気を含んだ空気が纏わりついて嫌気がさし、すぐに帰宅。


 19日間も気持ちの良い散歩をお預けにされていたのだから、如何程私が今日の晴れに歓喜したのかお分かりいただけると思う。


 19日間何も食べずに目の前に食料を置かれたシーンを想像して欲しい。


 人間ぼぼ全員に当てはまるであろう三大欲求と私個人の散歩欲を一絡げにするのもいかがなものかと思いつつ、まぁそんなところだと茶を濁させて欲しい。


 言葉遊びも程々に外に出て空を眺めると、昨日までの雨雲は姿を消し、真っ青な空が広がっていた。


 絶好の散歩日和——。



 家の前の小道を抜けて大通りに出る。


 大通り沿いの大手銀行でお金を下ろし、つけ麺を胃袋に押し込んでいよいよ本格的な散歩。この辺の話は別のエッセイでも形にしていこう。


 高架下を潜り、いよいよいつもの散歩コースに突入する。


 まずは小学校の横を通るのだが、今日は齢10程の小学生がランドセルを背負ってキャッキャワイワイ言いながら帰路についている。


「そうか、今日は月曜日か」


 と年々こぼれ落ちていく曜日感覚を拾おうともせず、楽しそうな少年たちを真顔で眺める。本当は微笑ましい光景なのだが、ここでニヤついたら通報案件に発展する可能性がある。


 そのような展開は望んでいない。



 小学校を越えてからの散歩コースはとにかく自然が多い。これからのシーズンは蜂が怖いのが難点だが、本当に気持ちがいい。


 川沿いを歩くので耳でせせらぎも楽しめる。


 そんな自然が多いところなのだから、当然鳥が飛んでいる。


 青い空をバックに空を舞う鳥たちに若干嫉妬する。


「これほど広大で透き通るブルーの空を自由に飛び回る鳥たちはひどく美しい。だが鳥から見れば、舗装された人工的な地をノソノソと歩く人間はさぞ醜いのだろう」


 と自虐的な思いを馳せる。そんな鳥たちの思いなど分かるはずないのだが。


 だが不思議なものだ。


 技術の進歩により鳥の気持ちは分からずとも、飛行機やヘリコプター、なんならカメラを搭載したラジコンやドローンで鳥と同じ景色を見ることができる。


 その景色には技術の進歩する前から変わらず地面を歩く人間が写っている。


 『散歩』をする人間が。


 技術が進歩して気分転換やストレス発散にジムに行ったりゲームセンターに行ったりカラオケに行ったり……


 選択肢は増えたが、それでも人間の中には一定数『散歩』を選択する人間がいるのだ。


 私もその一人。


 だが、「自由に空を飛べたらきっと空を飛ぶのだろう」と、そうも思うのだ。



 そんな願望希望を期待せずに歩き続け2時間ほど経過。


 私の姿はお気に入りのカフェにある。ビルの2階にあるそのカフェの一面はガラス張り。


 いつも通りそのガラス張りに面した席に着席する。定位置とまではいかないが、大体ガラス張りのどこかの席に腰を落ち着けアイスコーヒーを注文。


 空がよく見える……とはいかない。大きなビルが立ち並び、ここから見える空はただのカケラ。


 先程まで見ていた大きな空は見る角度を変えるだけで、ここまで小さくなってしまうのだ。


 喪失感と同時に、人間の力を感じながらアイスコーヒーを飲み干して私の散歩は幕を下ろす。


 このような散歩を晴れた日は日課としている。



 同じことを繰り返す『散歩』。毎日歩く道は同じ。


 だが……


 その景色は四季折々に変化し、私の感情も日々変化する。


 同じ道を歩いているはずなのだが、私の物語は毎日『違う』のだ。



 人生も同じだと感じる。


 ほとんどの人間が毎日を『繰り返して』いる。


 仕事だったり、家事だったり。だけど、毎日感じていることは違うし、景色も変わっているはず。


 繰り返してはいるものの、昨日とは違う『物語』が確かにそこにある。



 私はこれからも散歩を続けるだろう。同じ道を歩き続ける。『人生』と言う名の『散歩』を続けるのだ。


 少しでも昨日と違う、『物語』を求めて……



 と、おセンチな言葉を残して初めてのエッセイを記した筆を置く。できれば日課としていきたいが、ファンタジーと恋愛で書きたいものがあるのでそちらを優先したい気持ちが大きい。


 書きたいものが多くてため息が出る。伸びをするとガラス窓の向こうから空のカケラがこちら見ている。


 目が合って、いつも同じことを思うのだ。


「明日も晴れるかなぁ?」




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