表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/58

009.ランとグリン

 森の中を、てくてくと歩く。踊るためのものとは言え靴を履いている私はいいけれど、グリギーア……グリンは裸足なのに平気みたい。天使って、人と身体の作りが違うのね。まあ、髪の毛を自由に伸ばしたり絡めたり翼にしたり、なんてことは人間にはできないし。

 私はこの天使、グリギーアをグリンと呼ぶことにしたわ。人前で、あまり天使の真の名を呼ぶというのもどうかと思うしね。

 その代わりグリンにも、私のことをランと呼ばせることにした。家族から呼ばれた愛称はフランだけど、それだと私が私だとバレてしまう可能性が高いから。


「なるほどなあ。フランよりランの方が、フランチェッタを連想する確率は低いか。分かったぜ、ラン」

「ええ、それでいいわ。よろしくね、グリン」


 お願いすると、グリンはあっさりと頷いてくれた。戦いになったらお互いに主、グリギーアに戻るのだろうけれど……あまり戻らないことを祈るしかないわね。

 さて。


「んでラン、俺様たちは今、どこに向かってんだ?」

「この森は、アンヘリエールの屋敷から見て西にあるの。その先に行けば、テンレンの村があるわ」

「へえ。……ああ、思い出した。あの何もなかったちっこい集落、村になってんのか」


 私がこの周囲の説明をすると、グリンはしばらく考えてからぽんと手を打った。前回、私の先祖と共にあった頃のことを言っているのでしょうね。……今でも、農業をやっているくらいで何もない村だけど。


「そこに、私が小さいときに面倒を見てくれたばあやの一家が住んでる。匿ってくれ、とまでは言えないけれど、せめて服と靴くらいは何とかしないとね」

「ふーん。たしかに、その派手派手スタイルで逃げ続けるわけにもいかねえか」


 派手派手って……そうね、確かに卒業パーティスタイルのままだものね、私。

 衛兵たちの服を剥ぎ取って着替えても良かったのだけれど確実にサイズが違うし、逆に同じ衛兵仲間から目をつけられる可能性があるからやめておいたのよ。靴は……やはりサイズの関係で、無理だったわ。あと、匂いがね。


「ただ、敵もそこら辺は調べついてんだろ。多分、そこで張ってるぜ」

「そうなのよねえ」


 グリンの指摘は、私も気がついている。

 私のばあやのことなんて、当然知られていると言っていい。うちの使用人たちからも話は聞いているだろうし。だからおそらく、テンレンの村には衛兵部隊が一つなり入っているはずね。

 でも、ひとまずそこに行ってみて状況の確認をしたい。アンヘリエールのことをどう言われているのか、王都の方は今どうなっているのか。


「……姿を隠すとか、できないかしら」

「隠蔽魔法ならまあ、一応。長持ちしねえし、声上げたら姿見えるようになるけどよ」

「そう」


 グリンは天使なのだから、もっとすごい魔法を使えるのではないかって思ったのだけれど。

 もっとも、人が使役できる天使なのだから、あまり強すぎるとなにがしかのデメリットがあるのかもしれないわね。今のままでもグリンは、十分強いと思えるもの。


「じゃあ、村についてから考えましょう」

「だなー。村までどんくらいあんだよ」

「森を抜けたら……馬車で十分くらいかしら?」

「……森抜ける前に一泊だ。その靴で一気に行けるわけねーわ」

「そうね」


 一気に森を抜けようとしていたけれど、グリンの指摘で我に返った。靴の中の足には、ドレスの裾を引きちぎった布を巻いてある。そのくらい森を歩くのに合わない靴で、一気に抜けられるわけがないわ。食事も、なんとか携帯食料でつないでいるだけだし。

 ひとまず、休んだほうがいいわね。獣たちの番は、グリンに任せればいいのだから。

 ……そう言えば。私はともかく、グリンも当たり前のように歩いて移動しているわね。髪の毛を翼にすることができるのに、どうしてかしら。


「グリン、翼で飛べないの?」

「よく言われんだけどなあ、無理」


 だから尋ねてみたら、一言で否定された。とは言っても、飛べないわけではないようで。


「俺様一人だって五分飛べるかどーかってのに、主抱えてなんて無茶もいいとこだぜ」

「なるほどね」


 自分一人で五分。それなら、私は近くに潜んでいてグリンに何かの様子を見てきてもらう、位にしか使えないみたい。

 まあ、いいか。飛んで移動するなんて夢のようなこと、そう簡単にできれば苦労はしないもの。


「その代わり、髪の毛を使って敵を殲滅できるのはすごいわね。それに、とても美しいわ」

「まーな。どちらかっつーと、魅了と殲滅用の武器だから」


 純白の髪のことを褒めると、グリンは楽しそうに笑いながらその髪を手で掻き上げてみせる。お手入れとか、必要ないのかしら……もしそうなら、とっても羨ましいわ。

 と、ちょっと待って。


「殲滅は分かりますけれど……魅了?」

「ん。割と直接的に」

「………………まあ」


 さわさわ、と髪を蠢かせたグリンの意図を悟って、私は思わず口を抑えた。

 直接的にということはまあ要するに……夜のテクニックとか、そういうことだろうし。そう言えば衛兵たちのうち、母上に起きたことを再現された者はひどくだらしない顔になって事切れたものね。

 ……天使って、よくわからないわ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ